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2026.01.28
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豪州・インフレ加速を確認、利上げ観測が豪ドル相場を押し上げるか
~2月会合で予防的利上げに動く可能性も、米ドル安も重なり豪ドル相場は堅調な推移が見込まれる~
西濵 徹
要旨
RBA(オーストラリア準備銀行)は昨年累計75bpの利下げを実施した。しかし、インフレは一時沈静化した後、足元では政府の物価抑制策の効果一巡などを背景に再加速している。RBAは昨年12月会合で利下げ局面の終了や将来的な利上げの可能性に言及し、金融市場では早くも利上げ時期に注目が集まっている。
インフレ再燃の背景には、政策効果の剥落に加え、足元の雇用が底堅く推移しており、正規・非正規ともに雇用環境が改善していることがある。大都市部や資源関連産業を中心とした雇用拡大の動きがサービス物価の押し上げ要因となることが見込まれており、金融市場における利上げ観測を後押ししている。
2025年10-12月のインフレ率は前年同期比+3.6%と加速し、RBA目標(2〜3%)を2四半期連続で上回った。月次ベースでも12月は前年同月比+3.8%、RBAが重視するすべての指標で加速しており、生活必需品からサービス価格に至るまで、広範な項目で上昇圧力が強まっている実態が浮き彫りとなっている。
市場では、RBAが2月3日の会合で利上げに動くとの見方が強まっている。当局内には慎重論もあるが、サービス物価の上昇基調を理由に利上げが正当化される可能性は高まっている。為替市場では、RBAのタカ派姿勢と米ドル安傾向が相まって、豪ドルは対米ドル・対円ともに堅調に推移することが見込まれる。
オーストラリアでは2025年、準備銀行(RBA)が計3回、累計75bpの利下げを実施するなど金融緩和を進めてきた。コロナ禍以降のオーストラリアでは、景気回復や世界的な商品高に加え、生活様式の変化も重なる形でのインフレ高進に直面してきた。さらに、国際金融市場での米ドル高を受けた通貨豪ドル安も進み、輸入物価が押し上げられたため、RBAは物価と為替の安定を目的とする金融引き締めを迫られた。なお、インフレ率は一時30年超ぶりの高水準となるも、2022年末を境に鈍化に転じたほか、2024年後半以降は政府による物価抑制策の効果発現も重なり、RBAが定める目標(2~3%)に収束するなど落ち着きを取り戻した。さらに、物価高と金利高の共存長期化が内需の重しとなる懸念が高まるとともに、最大の輸出相手である中国経済の不透明感、トランプ米政権の関税政策による世界経済への悪影響が警戒されたことも、RBAによる断続的な利下げ実施を後押しした。しかし、足元においては政府による物価抑制策の効果が一巡しており、インフレが再加速する動きが確認されている。RBAは2025年12月の定例会合で政策金利を据え置いたうえで、会合後の記者会見においてブロック総裁が利下げ局面の終了の可能性に言及した(注1)。その後に公表された議事要旨においても、2026年の金融政策について利上げが必要となる可能性が議論されたことが明らかになり、金融市場においては早くも再利上げの時期に焦点が集まっている(注2)。


足元のインフレ再燃を巡っては、政策効果の剥落とともに、物価高と金利高の共存長期化にもかかわらず底堅く推移してきた雇用が、RBAによる断続的な利下げ実施を受けて改善の動きを強めていることも影響している。事実、2025年12月の失業率は4.1%と7ヶ月ぶりの低水準となり、失業者数も減少基調を強めているうえ、非正規雇用に対する求職者数のみならず、正規雇用に対する求職者数も減少するなど、労働需給の緩みの解消が進んでいる。雇用者数も拡大しており、非正規雇用者数のみならず正規雇用者数もともに拡大するなど、足元の雇用は量、質の両面で改善が進んでいる。地域別では、最大都市シドニーを擁するニュー・サウス・ウェールズ州、第2の都市メルボルンを擁するヴィクトリア州、資源関連産業集積する西オーストラリア州などで雇用改善の動きが顕著となるなど、足元の雇用改善の動きは大都市部や、資源関連産業を中心に進んでいる。雇用改善の動きはサービス物価を押し上げることが予想されることから、RBAによる利上げを後押しするとの見方が広がりをみせている。


こうしたなか、2025年10-12月のインフレ率は前年同期比+3.6%と前期(同+3.2%)から加速して2四半期連続で目標を上回り、7四半期ぶりの高い伸びとなるなどインフレが顕在化している。前期比では+0.6%と前期(同+1.3%)から上昇ペースが鈍化しているものの、娯楽・余暇関連などサービス物価を中心に上昇圧力を強める動きが確認されている。トリム平均値(刈り込み平均値)ベースの物価統計であるコアインフレ率についても、前年比+3.4%と前期(同+3.0%)から加速し、前期比も+1.0%から前期(同+0.9%)からわずかに上昇ペースが加速しており、幅広くインフレ圧力が強まっている。なお、オーストラリアでは長らく、四半期ベースの物価統計が用いられてきたが、2025年11月から月次ベースの物価統計が実態に即した形で改訂されており、新基準においても2025年7月以降は目標を上回る伸びで推移してきた。2025年12月のインフレ率も前年同月比+3.8%と前月(同+3.4%)から加速して2ヶ月ぶりの高い伸びとなり6ヶ月連続で目標の上限を上回る推移をみせている。前月比も+0.96%と前月(同+0.02%)から上昇ペースが加速して5ヶ月ぶりの高い伸びとなっており、食料品をはじめとする生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まっている。コアインフレ率も前年同月比+3.3%と前月(同+3.2%)からわずかに加速して3ヶ月連続で目標の上限を上回り、RBAが月次ベースの物価統計のなかで注視してきた物価変動の大きい財と観光を除いたベースでも同+3.8%と前月(同+3.6%)から加速しており、全般的にインフレ圧力が強まっている。


これを受けて、金融市場においてはRBAが早くも2月3日に開催予定の定例会合において利上げを実施するとの見方が広がりをみせている。なお、チャーマーズ財務相も足元の物価上昇圧力が想定以上に長期化していることを認めたうえで、「経済における大きな課題に取り組むうえで、やるべきことが常にあることをあらためて示している」と述べるなど、物価抑制に取り組む必要性を強調する考えをみせた。一方、RBAのハウザー副総裁は「1度の物価統計に基づいて行動するわけではない」としたうえで、「コアインフレの大幅な上昇が利上げを促すわけではなく、経済全体の動向をみる必要がある」と述べるなど、慎重姿勢をみせた。しかし、足元の物価動向は、堅調な雇用環境を背景にサービス物価が上昇基調を強めるなど、労働市場のひっ迫が影響している可能性を示唆する動きをみせている。その意味では、RBAが2月の定例会合で予防的な利上げに動いたうえで、その後の動向を様子見する可能性は高まっていると判断できる。折しも金融市場においては、トランプ米政権による政策運営の不透明感を警戒して米ドル資産を手放す動きが広がるなど米ドル安が意識されており、豪ドルの対米ドル相場は上昇基調を強めている。当面はRBAが利上げ実施など『タカ派』姿勢を強めるとの見方が下支えする展開が見込まれる。日本円に対しては、米ドル/円相場の動向に左右される可能性はくすぶるものの、堅調な地合いが続くであろう。


以 上
西濵 徹

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