Asia Trends
2025.12.18
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NZ景気はRBNZの想定より堅調も、早期利上げは見込みにくい
~RBNZは慎重な政策運営を維持する見通し、NZドル相場は動意の乏しい展開が続くか~
西濵 徹
要旨
ニュージーランドでは、インフレ長期化によりRBNZが金融引き締めを行い、物価高と金利高が景気の重しとなってきた。しかし、インフレ率は2022年半ばをピークに低下し、24年後半には目標範囲内に収束した。これを受けてRBNZは24年8月以降に利下げを進めてきたものの、足元ではインフレ再加速の兆しもあり、11月の定例会合で利下げ局面の終了が近づいていることを示唆する姿勢をみせている。
景気は公共投資の停滞や外需の不透明感から一時マイナス成長となったが、物価、および金利環境の改善や貿易の活発化を背景に、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+4.42%とプラス成長へ回復した。投資や政府消費、輸出が回復を支える一方、個人消費は弱く、需要回復はなお途上にあると捉えられる。
金融市場では、RBNZが将来的な利上げの可能性に言及したことで追加利下げ観測は後退するが、早期利上げ観測には慎重な見方も残る。NZドルは米ドルに対して底堅いものの、政策運営の不透明感から当面は方向感に乏しい展開が見込まれる。日本円には、日本の財政・金融政策の動向が影響するであろう。
ここ数年のニュージーランドでは、インフレが長期化したことを受けて、ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は物価抑制に向けた金融引き締めを余儀なくされたため、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなる展開が続いてきた。しかし、インフレ率は2022年半ばに一時30年ぶりの高水準となるも、23年以降は鈍化に転じるとともに、24年後半以降はRBNZが定めるインフレ目標(2~3%)の域内に収束するなど、落ち着きを取り戻した。したがって、RBNZは24年8月に約4年ぶりの利下げに動き、その後も一時休止を挟みつつ、断続的な利下げを実施するなど金融緩和を進めてきた。物価高と金利高の共存が個人消費をはじめとする内需の重しとなるとともに、最大の輸出相手である中国の景気減速も重なり、24年半ばにかけてテクニカル・リセッションに陥るなど、景気低迷の動きが鮮明になったことも利下げを後押しした。その一方、年明け以降のインフレ率は加速に転じており、直近7-9月は前年比+3.1%と目標をわずかに上回るものの、コアインフレ率は同+2.5%と引き続き目標域に留まる。また、年明け以降のインフレ高進をけん引した原油価格が頭打ちに転じるなど、インフレがさらに上振れする懸念は後退している。こうしたことから、RBNZは直近11月の定例会合でも追加利下げを決定する一方、足元の利下げ局面の終了が近付いていることを示唆しており、先行きの政策運営が変化する可能性がある(注1)。とはいえ、足元の政策金利(OCR)は2.25%と9年強ぶりの低水準となり、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなってきた状況は大きく変化している。




今年半ばにかけてのニュージーランド景気を巡っては、公共投資の進捗低迷に加え、いわゆる『トランプ関税』に関する不透明感が外需の足かせとなるなかで久々のマイナス成長となり、景気が急減速する動きがみられた。しかし、物価と金利を巡る状況が大きく変化しているほか、トランプ関税の本格発動を前に、世界的に貿易が活発化する動きも追い風に、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+4.42%と前期(同▲3.85%(改定値))から2四半期ぶりのプラス成長に転じている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.3%と前期(同▲1.1%)から5四半期ぶりのプラスに転じており、頭打ちの様相を強めてきた流れは変化している。なお、RBNZによる断続的な利下げによる債務負担の軽減が進む一方、インフレ加速に加え、雇用環境の悪化も影響して個人消費に下押し圧力が掛かる動きが確認されている。その一方、不動産投資や設備投資が活発化するとともに、年度初めのタイミングも重なる形で政府消費も拡大の動きを強めたほか、輸出が3四半期ぶりの拡大に転じたことも、足元の景気を押し上げている。なお、在庫投資による成長率寄与度は前期比年率ベースで▲2.24ptとなり在庫調整が進む動きがみられる一方、統計上の誤差である不突合による寄与度は+1.92ptと大幅プラスとなり、需要の回復は道半ばの状況にあると捉えられる。分野ごとの生産動向は、農林漁業や鉱業、製造業、サービス業など、16業種のうち14業種で生産拡大の動きが確認されており、幅広い分野で経済活動が活発化している様子がうかがえる。




金融市場においては、前述のようにRBNZが11月の定例会合で利下げ局面の終了に加え、先行きにおける利上げの可能性を示唆したこともあり、再利上げに動くタイミングを探る向きがみられる。7-9月のGDPはRBNZの想定(前期比+0.4%)より強い内容となったため、RBNZによる追加利下げの可能性は大きく後退していることは間違いない。その一方、26年中に利上げに動くとの見方を織り込む向きがみられるものの、前述したように不突合による成長率寄与度のプラス幅が大きいなど、需要の回復は道半ばの状況にあると判断できることを勘案すれば、こうした見方はやや行き過ぎの感があると捉えられる。足元のNZドル相場を巡っては、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げを受けて米ドル安が意識されやすい展開が続いており、米ドルに対しては底堅い動きをみせている。こうした動きはRBNZによる早期利上げの可能性を織り込んでいた可能性もある。ただし、RBNZでは今月にブレマン新総裁が就任し、経済の立て直しと信頼回復が急務となるなか(注2)、当面の政策運営は明確な方向感を示しにくい展開が続くと見込まれ、当面は動意の乏しい展開となることが予想される。また、日本円に対しては、高市政権による「責任ある積極財政」路線が円安を招くとの見方が影響する一方、日銀による政策運営の行方が影響する可能性には注意が必要である。


以 上
西濵 徹

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