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2025.12.11
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ブラジル中銀、インフレ鈍化もタカ派維持、利下げはまだ先の話か
~株式相場とレアルは次期大統領選を巡る思惑で混乱、当面は政治情勢の行方に注目~
西濵 徹
要旨
ブラジル中銀は、12月9~10日に開催した定例会合で政策金利を4会合連続で15.00%に据え置いた。景気減速や米国による50%への関税引き上げを背景に、市場では早期利下げ観測が広がったものの、中銀は9月や11月の定例会合で追加利上げの可能性に言及するなどタカ派姿勢を維持し、市場をけん制した。インフレ率が目標上限を超える推移が続いたことが影響する一方、足元では鈍化が確認されている。
声明文では、決定が全会一致であったとしたうえで、インフレ目標の達成や景気安定に関する従来の見解を維持した。世界経済の不透明感や地政学リスクへの警戒を示しつつ、国内では景気減速と労働市場の堅調さ、インフレの鈍化傾向を指摘した。物価については上振れ・下振れ双方で高いリスクがあるとし、必要なら再利上げも辞さない考えも強調した。その一方、インフレ見通しは若干下方修正されている。
市場では早期利下げ観測から株価が一時最高値を更新したものの、大統領選を巡る不透明感で不安定化している。レアルも実質金利の高さや米金融政策の不透明感を追い風に堅調に推移したが、こちらも不安定化している。トランプ関税は対象除外が拡大したことで企業マインドは改善し、雇用も支えられると見込まれる。利下げがあっても緩慢なペースと予想されるが、当面は政治情勢が市場の不安定要因となろう。
ブラジル中央銀行は、12月9~10日の日程で開催した定例の金融政策委員会(COPOM)において、政策金利(Selicレート)を4会合連続で15.00%に据え置くことを決定した。同行は、今年6月の定例会合まで7会合連続となる利上げを実施するなど、金融引き締めを進めてきたものの、翌7月会合で利上げ局面の『休止』を決定した。なお、7月会合で同行は再利上げの可能性に含みを持たせるなど『タカ派』姿勢を堅持していた。しかし、その後の景気は頭打ちの様相を強めるとともに、トランプ米政権が同国に対する関税を50%に引き上げるなど景気への悪影響が懸念されたため、金融市場では同行が早期に利下げに転じるとの見方が広がった。しかし、同行はその後に開かれた9月や11月の定例会合では追加利上げの可能性に言及しつつ、非常に長期にわたって金利を現行水準に維持する方針を示すなど、早期利下げを織り込む金融市場を『けん制』する動きをみせた。同行がタカ派姿勢を堅持してきた背景には、インフレ率が目標(3±1.5%)の上限を上回る推移をみせてきたことが影響している。一方、直近11月のインフレ率は前年比+4.46%と14ヶ月ぶりに目標域に鈍化しているほか、7-9月の実質GDP成長率も前期比年率+0.43%と低水準に留まるなど、景気の頭打ちが確認されている(注1)。こうしたことから、足元の金融市場においては、同行の政策運営に対する見方が変化するかが注目された。


会合後に公表された声明文では、今回の決定も前回同様に全会一致であったことを示したうえで、「インフレ率を目標の水準に収束させる戦略と整合的」、「物価安定の目的を損なうことなく、景気変動を緩やかにするとともに、完全雇用の実現を促すもの」とする従来からの見方を維持した。また、世界経済について「米国の経済政策や経済見通しが国際金融市場を揺さぶり、不透明な状況が続くなか、地政学的な緊張の高まりも重なり、新興国には慎重な姿勢が求められる」と前回会合と同じ認識を示した。一方、同国経済について「想定通り減速の動きが続く一方、労働市場は依然として堅調さを維持している」との見方を維持する一方、「足元のインフレは改善の動きを示しているが、依然として目標を上回る」との見方を示している。そして、物価動向について、前回会合に続き「上下双方に振れるリスクが通常より高まっている」として、上振れリスクに「①インフレ期待の上振れの長期化、②正の需給ギャップに伴うサービスインフレの粘着度の高さ、③持続的なレアル安など物価上昇に繋がる動き」を、下振れリスクに「①想定以上の景気減速、②貿易の混乱による不確実性の高まりを受けた世界経済の急減速、③商品市況の調整」を挙げている。金融政策について「米国の関税政策やルラ政権の財政政策が与える影響を注視している」とした上で、「不確実性が高まるなかで慎重姿勢を強めている」としつつ、足元の状況は「インフレ期待の高止まりや景気回復、労働市場の圧力が意識されるなか、インフレの目標への収束には非常に長期にわたる大幅な引き締めが必要となる」との考えを示した。その上で、今回の決定について「不確実性が高まるなかでは慎重な姿勢が求められる」、「インフレが目標に収束することを確実にするには現行水準で非常に長期にわたって維持することが適切」としたうえで、先行きについて「警戒しつつ、必要に応じて再利上げを躊躇しない」として金融市場にくすぶる早期利下げ観測をけん制している。なお、インフレ見通しについて「今年は+4.4%、来年は+3.5%」と11月会合時点(今年は+4.6%、来年は+3.6%)から下方修正しており、目標域内に収束する可能性を示唆している。


前述したように、このところの金融市場においては、中銀が早期に利下げに動くとの見方が織り込まれる形で主要株式指数(ボベスパ指数)は一時最高値を更新した。しかし、その後は来年10月に実施予定の次期大統領選を巡って、ボルソナロ前大統領の長男(フラビオ上院議員)の去就に対する見方が影響する形で不安定な動きをみせている。通貨レアル相場についても、実質金利(政策金利-インフレ)が大幅プラスで推移するなど投資妙味の大きさに加え、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策運営に対する不透明感も追い風に堅調な動きをみせてきたが、足元では不安定さが増している。なお、米国はブラジルに対して50%という高関税を課しているが、航空機やエネルギー関連のほか、オレンジジュースなどは対象から除外したほか、先月には牛肉やコーヒー、ココア、果物も対象から除外されており、ブラジルはトランプ関税を巡って『実質的な勝利』を収めている。こうした環境変化も追い風に、足元の企業マインドは幅広く改善する動きが確認されており、堅調な推移が続く雇用環境を下支えすることが期待される。さらに、中銀は伝統的に慎重な政策運営を志向してきたことを勘案すれば、仮に利下げが実施された場合も緩やかなペースに留めると見込まれるほか、利下げの開始時期が後ズレしていくことも考えられ、実質金利は引き続き大幅プラスで推移すると予想される。しかし、当面は次期大統領選に対する見方が金融市場を揺さぶる展開が続くことで、不安定な動きをみせることに注意が必要である。


以 上
西濵 徹

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