奈良国立博物館(奈良県奈良市)で、特別陳列「お水取り」が2月7日から開催されます。

東大寺二月堂の「お水取り」は、正しくは「修二会しゅにえ」といい、二月堂本尊の十一面観音菩薩に対して、二週間にわたって私たちが過去におかしてきた過ちを懺悔し、除災招福や鎮護国家、五穀豊穣を祈る法要です。天平勝宝てんぴょうしょうほう四年(752)に、二月堂を創建した実忠和尚じっちゅうおしょうによって始められたと伝わり、以来1250年を超える年月の間、「不退ふたいの行法ぎょうほう」として一度も絶えることなく今日に至るまで勤め続けられています。

本展は、お水取り(修二会)が行われる期間(毎年3月1日~14日)にあわせて開催します。関連する彫刻・絵画・書跡・工芸品・歴史資料を集めて陳列するもので、平成9年(1997)に第一回が行われて以来、毎年好評を博しています。

修二会は基本的に非公開の行法であるため、一般にはうかがい知れない神秘性を多く含んでおり、その複雑な行法は長い歴史の中で徐々に形成され、多様な宗教・文化の歴史が織り込まれています。本展を通じて、このかけがえのない儀礼への理解を深め、その尽きせぬ魅力を感じ取ってみてはいかがでしょうか。

特別陳列 「お水取り」

会場:奈良国立博物館 西新館(奈良県奈良市登大路町50)

会期:2026年2月7日(土)~3月15日(日)

開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
※以下の日程は午後6時まで
・なら瑠璃絵期間(2月8日~14日)
・東大寺二月堂お水取り(修二会)期間(3月1日~14日)
※3月12日(籠松明の日)は午後7時まで

休館日:2月16日(月)・24日(火)
※2月9日(月)・23日(月)・3月2日(月)・9日(月)は開館

観覧料:一般 700円、大学生 350円
※以下に該当する方は観覧無料
・高校生以下および18歳未満の方
・満70歳以上の方
・障害者手帳またはミライロIDをお持ちの方(介護者1名を含む)は無料。
※本料金で、同時期に開催される以下の名品展も観覧可能
・「珠玉の仏教美術」
・「珠玉の仏たち」
・「中国古代青銅器」

アクセス:近鉄奈良駅から徒歩約15分。
JR奈良駅・近鉄奈良駅から、市内循環バス外回り「氷室神社・国立博物館」下車すぐ。

詳細は、奈良国立博物館公式HP・特別陳列「お水取り」特集まで。

展覧会構成
1 練行衆れんぎょうしゅうの姿

修二会に参籠する僧侶を「練行衆」と呼びます。毎年、東大寺開山良弁僧正ろうべんそうじょうの忌日とされる12月16日に、翌年の修二会の練行衆の名が発表されます。

2 修二会しゅにえの創始と二月堂観音の霊験

東大寺二月堂修二会は実忠和尚(726~?)によって、天平勝宝四年(752)に創始されました。お堂に十一面観音像を安置して、祈りを捧げることから行法が始まったとされます。二月堂修二会の本尊は絶対秘仏ですが、その霊験れいげんは二月堂縁起に示されています。また、右の作品は二月堂本尊にまつわる画像とも考えられています。

二月堂観音は補陀落山ふだらくせんからお招きした「生身しょうじんの観音」であり、極楽往生や病気治癒など様々な霊験を顕わす一方、不信の者を戒める強い験力げんりきを持つといわれています。

重要文化財 十一面観音像 鎌倉時代(13世紀) 奈良・東大寺

雲にのり、海上を飛来する十一面観音を描いた画像です。後方の補陀落山(観音の浄土)には、船で渡海してきた人びとや中腹の楼門ろうもん、山頂の楼閣ろうかくまでが精緻に描き込まれています。観音の衣に施された緻密な文様や繊細な截金きりかねによる衣文の描写も注目されます。二月堂修二会の本尊が、補陀落山から海を渡り飛来したという説話を想い起こさせます。

二月堂縁起 室町時代 天文14年(1545) 奈良・東大寺

修二会の創始や二月堂観音の霊験にかかわる説話を集めた絵巻です。図版は、僧・実忠が約百日にわたる祈りを経て十一面観音をお迎えし、東大寺の羂索院けんじゃくいん、今の二月堂に安置した場面を描いています。(※期間中に展示替えあり。)

3 水取り

修二会は、奈良に春の訪れを告げる「お水取り」として親しまれています。この呼び名は、行の十二日目(3月12日)の深夜に行われる水取りの儀式にちなんだものです。水は仏教において、ほとけを供養するのに重要視され、お水取りの儀式もほとけの供養の有様を伝えるものです。

重要文化財 香水杓 上:鎌倉時代 建長7年(1255) 下:鎌倉時代 建長5年(1253) 奈良・東大寺

二月堂本尊に香水こうずいを供えた後、堂内の参詣者さんけいしゃに香水が分けられます。その際に用いたもので、注口のついた形はお水取り独特のものです。壺の側面に線刻銘せんこくめいがあり、制作年代と施入者せにゅうしゃがわかります。

4 六時の勤行ごんぎょうと声明しょうみょう

二月堂修二会の中心をなすのは、日中・日没にちもつ・初夜・半夜はんや・後夜ごや・晨朝じんじょうという「六時」の行法であり、独特の節を付けて唱える声明が行われます。法要の次第や詩句は次第本に記され受け継がれ、その諸本を比較すると、内容が少しずつ変化してきていることがわかります。

5 二月堂牛玉

修二会では、3月8・9日を「牛宝日ごおうび」と称して、初夜、後夜の大導師だいどうしの祈りの間に、他の練行衆れんぎょうしゅうが内陣で牛玉札ごおうふだと陀羅尼札だらにふだを刷ります。牛玉札は疫病除けの護符ごふのことで、修二会結願けちがんの日に頒布されます。

6 参籠宿所さんろうしゅくしょ

修二会(お水取り)の本行期間中、十一面観音に祈りを捧げる練行衆は、心身を清めるため参籠宿所において起居します。宿所は二月堂の西側斜面下、食堂じきどうと棟続きで建っており、登廊のぼりろうで二月堂とつながっています。

7 食堂の作法

食堂では練行衆が毎日の食作法じぎさほうを行うほか、授戒じゅかい、袈裟給けさたばりなどの重要な行事が行われます。食事は飯、きりあて(大根の漬け物)、野菜の煮物、豆腐、あげ、味噌汁などで、漆塗の器に盛られ、小ぶりな机にのせられます。

8 大観音おおがんのんと小観音こがんのん

二月堂修二会の本尊は、「大観音」「小観音」と呼ばれる大小二体の十一面観音です。いずれも絶対秘仏ですが、平安時代後期の図像集(事相書じそうしょ)や、寛文七年(1667)の二月堂火災に際して堂外に出された像の一部と光背などから、その尊容の一端をうかがうことができます。

9 不退の行法 ―修二会の継承―

二月堂修二会の歴史は十一面悔過という行法に始まります。当初は小規模でしたが、寺内において重要な法会として認識されていきました。また修二会は広く人々の信仰も集め、参加者が増加するにつれ、二月堂もその規模を拡大していきました。

華厳経(二月堂焼経) 奈良時代(8世紀) 奈良国立博物館

修二会期間中の2月5日(現在では3月5日)の実忠忌じっちゅうきに用いられたと考えられている六十巻本の『華厳経』で、江戸時代に二月堂が全焼した際、焼け跡から発見されました。一部は焼け焦げながらも、紺色の料紙に浮かび上がる銀色の文字は独特の美しさを醸し出しています。

10 考古学から見た二月堂

現在の二月堂や法華堂(三月堂)が位置する上院地区は、「金鐘寺」や「福寿寺」など東大寺創建以前に遡る堂宇が存在したと言われる場所です。二月堂の前身がどのような建物であったかは未だに謎であるものの、その西側下段に位置する仏餉屋ぶっしょうのやの地下では、奈良時代に遡る掘立柱建物がみつかっています。

鬼面文鬼瓦 奈良時代(8世紀) 奈良・東大寺

二月堂仏餉屋の解体修理に際して実施された発掘調査で出土しました。どんぐり眼まなこに大きな口が特徴ですが、これは平城宮造営のために作られたものとは異なり、東大寺の建設を契機として寺院用にデザインされたものです。本品は鬼瓦のなかでも大型で、その大きさに見合った建物に葺かれていたと考えられます。

同時開催 東大寺ミュージアム 特集展示 「学僧たちの修二会」

東大寺の修二会は、僧侶たちが十一面観音に対し人々の罪を懺悔ざんげする悔過けかの法要です。そのため、体全体をなげうって懺悔をする五体投地ごたいとうちや、本尊を安置する浄域を結界するための密教的な作法など、実践的な修法のイメージが強いかもしれません。しかし、二週間にわたる修二会には経典の内容を確かめ合う講問論義なども含まれており、法要の成就のためには僧侶の学識的な裏付けも必要とされていました。ここでは普段あまり注目されることのない、学僧たちの修学の場としての修二会が紹介されます。

会期:2026年2月7日(土)~3月15日(日)
会場:東大寺ミュージアム 第4室
Webサイト:https://www.todaiji.or.jp/information/museum/

1250年以上の歴史を刻み、「不退の行法」として一度も途切れることなく今日まで受け継がれてきたお水取り。本展は、その神秘のベールに包まれた儀礼の深淵に触れることができる、年に一度の貴重な機会です。絶対秘仏の本尊に捧げられる祈りの証である58件の出陳品は、どれも圧倒的な信仰の重みを感じさせてくれます。特に同時開催される東大寺ミュージアムの特集展示とあわせて巡れば、学僧としての僧侶たちの知的な営みという新たな側面からも、修二会の魅力をより深く堪能できそうです。(美術展ナビ)

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