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2026.01.20


欧州経済

フランス経済


フランスは予算成立へ、政治危機回避
~政権延命で、来年の大統領選挙に関心が移る~



田中 理



要旨

予算協議が年明け後にずれ込んだフランスでは、ルコルニュ首相が当初の方針を撤回し、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使って予算成立を目指す方針を固めた。極左や極右が内閣不信任案を提起する予定だが、政権延命の鍵を握る穏健野党の社会党は、同党の要求に沿った形の政府予算案の修正を受け、これに同調しないことを示唆している。

大統領選挙の日程を考えた場合、国民議会(下院)選挙を前倒しする期限は今年の年央頃とみられる。政権延命の可能性が高まったことで、フランス政局の関心事は来年4・5月の大統領選挙に移る。大統領選挙を占ううえで、公職停止中の極右政党ルペン候補の控訴審判決の行方、極左を除く左派政党やマクロン大統領を支持する中道政党が候補者を一本化するかに注目が集まる。


2026年予算を成立できずに越年したフランスのルコルニュ政権は、年明け後に改めて予算協議を再開したが、国民議会(下院)の過半数の支持を得る見込みが立たず、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を用いて予算成立を目指す方針を19日に固めた。マクロン大統領を支持する中道勢力が国民議会の過半数を失って以来、歴代首相は度々49条3項を使って重要法案を成立させてきた。野党の一部からは、49条3項の多発が民主的なプロセスを軽視していると問題視する声も上がっていた。

ルコルニュ首相は政権発足に当たって、この手続きの利用を封印するとしていたが、予算協議の膠着が続くなか、方針転換を余儀なくされた。マクロン批判の急先鋒である極左政党「不服従のフランス(LFI)」と極右政党「国民連合(RN)」の両党は、政府の予算案を批判し、内閣不信任案を提起する方針を表明している。49条3項の手続きを利用する場合、議会は内閣不信任案を提出でき、不信任案が可決されれば法案が否決され、内閣は総辞職する。逆に、不信任案が否決されれば法案が成立する。2024年12月末に2025年予算の成立を目指して49条3項の利用に踏み切ったバルニエ首相(当時)は、内閣不信任案の可決で辞任に追い込まれた。

フランスは財政再建が計画通りに進んでいない。欧州連合(EU)の財政規律に違反しているとして、「過剰赤字手続き(EDP)」と呼ばれる是正措置の対象となっている。勧告を無視して財政赤字の削減を進めない場合、最終的には罰則金を科せられる。フランスの予算は、社会保障関連予算(PLFSS)とそれ以外の政府予算(PLF)で構成され、前者は昨年12月に成立済み。ルコルニュ首相は政権発足に当たって、穏健野党の中道左派政党「社会党(PS)」の協力を取り付けるため、マクロン大統領の目玉政策である年金改革を凍結することを約束した。PLFSSが成立したことで、年金支給開始年齢の段階的な引き上げが凍結され、財政再建を進めるには、PLFに財政緊縮措置を盛り込まなければならない。

ルコルニュ政権が内閣不信任を乗り切るには社会党の協力が不可欠な状況にある。そこで新たに成立を目指す2026年予算案には、社会党の要求を受け入れる形で、所得税の凍結、学生向け1ユーロ昼食提供の全国展開、公共住宅整備や環境対策の強化、国立教育機関での2000人の雇用創出などの措置を盛り込んだ。同時に、大幅な予算削減や大企業向け増税などを通じて財政再建を進めるとして、2026年の財政赤字の対GDP比率を5%に圧縮する方針を掲げている。政権の譲歩姿勢を受け、社会党の関係者は極左や極右が提起する内閣不信任案に同調しないことを示唆している。ルコルニュ政権はどうにか延命しそうだ。

ただ、年金改革の凍結と予算成立に向けた社会党への譲歩で、ルコルニュ首相が目指す財政再建が計画通りに進むかは予断を許さない。政権延命の代わりに財政悪化につながれば、改めてフランスの国債利回りに上昇圧力が及ぶ恐れもある。予算成立に漕ぎ着ければ、ルコルニュ政権はこのまま2027年4・5月の大統領選挙まで延命する可能性が高まる。現在の政治体制(第五共和制)が始まった当初、大統領選挙と国民議会選挙のタイミングが異なったため、大統領の出身政党と議会の多数派政党が食い違う“ねじれ(コアビタシオン)”がしばしば発生した。こうした事態を回避するため、2000年の国民投票で大統領の任期を国民議会と同じ5年に変更し、原則として、大統領選挙の直後に国民議会選挙を行うように改められた。だが、2024年に国民議会選挙を前倒ししたことで、両選挙の日程が食い違っている。フランスの憲法では国民議会の解散は1年に1度しかできない。来年の大統領選挙の直後に国民議会選挙を行うためには、今年の年央以降は国民議会の解散を回避すると考えるのが自然だ。

フランス政局の関心事は、3月15・22日に予定される市町村選挙、さらには来年の大統領選挙を見据えた主要政党・会派の大統領候補の行方に移ることが予想される。過去2回の大統領選挙の決選投票でマクロン大統領に敗れた極右のルペン候補は、欧州議会議員時代の公金不正利用の罪で、5年間の公職停止処分を受けている。先週始まった控訴審の判決が8月頃に出るとされ、有罪判決が覆らない限り、来年の大統領選挙には出られない。その場合、ルペン氏から党首の座を引き継いだバルデラ氏が極右政党の大統領候補となろう。各種の世論調査で同氏は、他の候補を引き離し、圧倒的な支持を得ている。

前回の国民議会選挙で会派を組んだ左派勢力の間では、極左が過去3回と同様にメランション氏を大統領候補として擁立する方針を固めているのに対して、残りの左派政党は候補者を一本化するか、予備選挙を行うか決まっていない。同様にマクロン大統領を支持する中道3政党も、候補者を一本化するか、予備選挙を行うか、意見集約が進んでいない。候補者一本化の成否は、極右大統領の誕生阻止の鍵を握るため、注目を集める。

以上



田中 理

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