Europe Trends

2026.01.13


欧州経済

フランス経済


フランスで3月の下院選挙案が浮上
~早くも行き詰まる予算協議~



田中 理



要旨

フランスで議会選挙の前倒し観測が浮上している。EUのメルコスルとの貿易協定締結に反発し、野党が内閣不信任案を提起した。不信任案が可決した場合、3月の地方選挙と同日に下院選挙を行うことが検討されている。今回の解散報道は、極左と極右が提起した内閣不信任案に他の野党、特に政権存続の鍵を握る穏健左派の社会党が同調することを牽制するためのリークとみられる。

だが、今回の内閣不信任案を乗り切った場合も、ルコルニュ政権にとっては綱渡りの議会運営が続くことになりそうだ。年明け後に再開された予算協議は早くも行き詰まっており、議会採決を迂回する特別な立法手続きを使って予算を成立させるべきとの声も高まっている。その場合、社会党の反発を招き、内閣不信任案の可決で政権が再び倒れるリスクが高まる。


2026年予算を成立できないまま越年したフランスは、年明け後に改めて予算協議を再開したが、主要政党間の協議が早くも暗礁に乗り上げている。ルコルニュ首相は政権発足に当たって、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使っての法案成立を封印するとしてきたが、モンシャラン予算相は8日、予算成立に向けて49条3項を含むあらゆる選択肢を排除しない趣旨の発言をした。

さらに、政権に反対する極左政党・不服従のフランス(LFI)と極右政党・国民連合(RN)は、欧州連合(EU)が南米5ヵ国で構成される関税同盟・メルコスルとの貿易協定の締結を承認したことに反発し(フランス政府は反対票を投じた)、9日に内閣不信任案を提起した。これを受け、9日のルモンド紙は、ルコルニュ首相とマクロン大統領が、内閣不信任案が可決された場合、国民議会(下院)の前倒し解散を検討していることを伝えている。ルコルニュ首相は選挙を管轄するヌニェス内相に、3月15・22日の市町村選挙と同日での国民議会選挙の実施が可能かどうかの検討を指示したとされる。停滞する2026年の予算協議と相俟って、フランス政局が早くも動きだす可能性が出てきた。

EUとメルコスルは約四半世紀にわたって貿易協定の締結に向けた交渉を進めてきた。2019年に大筋合意に達したが、フランスを筆頭に一部のEU加盟国の反対で批准が進んでいなかった。米国が保護主義に傾斜するなか、EUは9日、一部の加盟国の反対を押し切り、特定多数決(加盟国の人口に基づいて配分された議決に基づく多数決)で協定を承認した。フランスは、重要産業である農業保護の観点と、メルコスル諸国の環境基準の緩さを理由に、協定締結に反対してきた。フランスの農業団体や酪農家は、広大な土地と低賃金労働で生産された南米の安価な農産物や畜産物が流入することを警戒している。また、アマゾンの森林破壊などを問題視し、EUよりも緩い環境基準に基づいて生産されたメルコスル製品との不公平な競争に晒されると主張してきた。フランスの農業団体は早速、幹線道路をトラクターで封鎖する抗議デモを各地で行っている。

予算協議の現状を整理すると、年金の支給開始年齢の段階的な引き上げを凍結することを盛り込んだ社会保障予算(PLFSS)が昨年12月16日に成立したのに対して、社会保障以外の国家予算(PLF)は、11月21日に下院で富裕層増税を強化する修正案が否決され、12月15日に上院で企業向け課税強化を緩和する修正案が可決された後、12月19日には上下両院の合同委員会で法案の一本化に向けた協議が合意に至らなかった。ルコルニュ政権は、2026年1月1日以降も最低限の税収確保と歳出継続を可能にする特別立法の成立に切り替え、12月23日に議会で関連法案を通して越年した。

PLFを改めて成立させるには、①上下両院での採決か一本化した法案を可決するか、②下院で法案を可決したうえで、憲法45条の下院優越を使うか、③憲法49条3項の特別な立法措置を使ったうえで、野党が提起する内閣不信任案が否決されるか、④憲法47条の予算特例に基づき、法案提出から70日以内に議決しなかった場合に政令(オルドナンス)で施行するか―が考えられる。

年明け後に改めて主要政党との協議を再開したが、①や②は、穏健野党・社会党(PS)の協力が得られる見込みが今のところ立たない。丁度1年前にも同じような状況に陥ったが、バイル首相(当時)が誕生した時と異なり、年金改革を凍結するPLFSSが成立済みのため、それに関連した妥協案を社会党に提示することができない。下院で予算を通すには、社会党が反発する歳出削減を諦め、大幅な財政悪化を受け入れるか、歳出削減の規模を絞り込み、富裕層向けや企業向け増税などを通じて新たな税収を確保し、財政再建を進める必要がある。③は社会党の反発が予想され、他の野党が提出する内閣不信任案に同調し、政権が倒れる可能性が高まる。④は政治的配慮から過去に利用されたことがなく、③と同様に社会党の反発を招くことが予想される。

今回の国民議会の解散報道は、メルコスルに関連して極左や極右が提起した内閣不信任案に他の野党が同調することを牽制するためのリークの可能性がある。特に穏健野党の社会党は、前回選挙では左派4党で統一会派を組んだが、その後の政権発足や予算審議での政権への協力で極左政党との溝が広がっている。次の議会選挙では極左から対立候補を立てられ、大幅に議席を失う可能性があり、早期の議会解散を望んでいないとされる。社会党のフォール党首は既に、極左と極右が提起した今回の内閣不信任案に同調しない方針を表明しているが、予算協議の膠着が続いており、今後の政権運営は綱渡りだ。

2027年4・5月には大統領選挙が予定され、次期大統領の議会基盤を安定させるためにも、大統領選挙の直後に国民議会選挙を行う可能性が高い。フランスの憲法では、国民議会の解散は1年に1度しかできない。3月の市町村選挙と同日の国民議会選挙であれば、大統領選挙直後の選挙がギリギリ可能になる。ただ、仮に国民議会選挙を前倒しされたとしても、政権基盤が安定するとは限らない。最近の世論調査では、極右勢力が引き続きリードするが、単独での過半数獲得には届きそうにない。前回同様に極右の政権奪取を阻止するため、中道勢力と左派勢力が決選投票で候補者を一本化する可能性もある。極右政権の誕生が阻止された場合も、安定政権の樹立は困難だろう。議会選挙後も、極右、中道、左派の三つ巴が続き、政治停滞が続く恐れがある。なお、主要政党の大統領候補が誰となるかも選挙結果を左右しそうだ。その意味では、13日に始まる極右政党のルペン前党首の控訴審の行方にも注目が集まる。同氏は欧州議会議員時代の公金不正利用の罪で5年間の公職停止中で、控訴審で判決が覆されない限り、2027年の大統領選挙には出馬できない。

以上



田中 理

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