石川の地名由来 集大成の一冊 金沢の室井さん自費出版 定年後に本格探究「厳しい指摘のおかげで完成」

加賀、能登地方の地名の由来を探究した著書を自費出版した室井浩一さん=金沢市高尾で

 金沢市高尾の室井浩一さん(85)が、加賀や能登地方の地名の由来を探究した著書「加賀能登 未詳の古代」を能登印刷出版部(同市)から自費出版した。大学時代に学んだ地理学の手法を生かし、古い文献も参考に経緯が不明な部分が多い県内各地の地名を調べた。2冊目の自費出版で、「1冊目は専門家から厳しい指摘をいただいたが、その厳しい意見があったからこそ調査を深めることができ2冊目が完成した」と語る。(室木泰彦)

 室井さんは白山市生まれ、金沢大で地理学専攻。卒業論文で古代の北陸道(現在の北陸3県と新潟県を結ぶルート)沿線の地名をテーマにした。卒業後は36年間会社に勤め、深く調べる時間はなかった。60歳で定年退職後、時間に余裕ができたため、経緯がはっきりしない地名を本格的に調べ始めた。成果を10年ほど前に著書として自費出版。ところが、記載内容について県内の考古学専門家から見解の違いも含め厳しく指摘されたという。

 「それならもっと突っ込んで調べてみよう。先人の皆さんの成果を基に、歴史学や考古学的考察とは違う、自分が学んだ地理学や地名学のアプローチで分析しよう」と奮起。地名の変遷や周辺との関係を総合的にとらえることで、現在の地名にたどりついた経緯をできる限り解明した。

 新たな成果は計224ページ。「羽咋」や「鳳至(ふげし)」など能登地方を中心に加賀地方の「南郷」など17章に分け、謎が多い地名の変遷を解説している。古代の行政区画の一つ「管郷(かんごう)」や主要な街道沿いの宿場「官道駅」、奈良−戦国時代の有力者の私有地「荘園(しょうえん)」、古くから存在する寺社などとの関係を読み解き、言い伝えなどでは説明しきれない地名の経緯を分析した。

 例えば、東大寺が奈良の大仏建設資金を得るため全国で占有した荘園に関する資料などから、能美市の灯台笹(とだしの)町は、もともと和佐谷町や岩本町、白山市明島町(あからじままち)と共に幡生村(はたさやむら)の一部だった。幡生に東大寺の名を冠した「東大寺ハタサヤ」が「東大寺ハササ」に転じ、「トウダイササ」「トウダイシノ」、「トダシノ」に至ったと記載する。

 また、国重要無形民俗文化財「お熊甲祭(くまかぶとまつり)」で知られる七尾市中島町の久麻加夫都阿良加志比古(くまかぶとあらかしひこ)神社がある熊木川流域について、多数の文献を比較し、古くから羽咋郡(現在の羽咋市や志賀町付近)と鹿島郡(現在の七尾市と中能登町付近)の境界となってきた経緯を示している。

 「地名の愛好者団体に参加する方法もあるが、私は引っ込み思案。1人で調べた成果を記録として残したかった」と室井さん。「現場調査でけんもほろろに協力を拒まれたこともあったが、何とか形にできた。これからは終活(人生を終える準備)です」と冗談交じりに話した。著書は300部発行、2420円(税込み)。(問)室井さん076(298)2026

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