色の上に重ねられた銀の階調がまるで呼吸するように揺らぎ、時間の経過とともにその表情を変える、梅本健太さんの「100 FLŌRA(ハンドレッド・フローラ)」。技巧と時間、そして偶然が層のように重なり合い、観るものの感性を刺激します。

うめもとけんた◯明治大学在学中に写真と出合ったことをきっかけにそのキャリアをスタート。2020年渡仏。デジタルとアナログ両方の技術を駆使し、写真と絵画的な表現を融合させた新しい写真表現を追求。浮世絵や日本の漫画からインスピレーションを得た鮮やかな色彩が特徴。2024年「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」との協働プロジェクトも話題を呼んだ。

《Chrysanthème (菊)》《chrysanthème (菊)》

撮影=梅本健太

パリのマーケットで見つけた純白の菊。銀は環境のわずかな変化にも繊細に反応し、その表情は予測できません。すべての作品が異なる表情をもつのです。「半年ほど箱の中で眠らせていたこの一枚には、当初は想像もしなかった、ほのかなゴールドのような輝きが浮かび上がりました」(梅本さん)

《Orchidée (胡蝶蘭)》《orchidée (胡蝶蘭)》

撮影=梅本健太

鮮やかなパープルの胡蝶蘭。時期を変えて層を重ねることで銀の多様な階調を表現。刷りの途中で生まれるズレやかすれの偶然性も、梅本さんにとっては重要な要素のひとつ。「幾重もの工程を経て仕上げていく。絵画を描くような手法を写真の制作にも取り入れています」

《Tulip (チューリップ)》《tulip (チューリップ)》

撮影=梅本健太

《tulip (チューリップ)》

撮影=梅本健太

「銀化」が最小限になるよう箱の中に保管し、偶然現れた茶色を帯びた錆びの階層。「銀のニュアンスは時間的経過だけでなく、インクと光の重なり具合でも変わります。いずれは真っ黒になる運命かもしれませんが、その途中の変化の過程が美しく面白いのです」

《Iris (菖蒲)》《iris (菖蒲)》

撮影=梅本健太

写真全体に銀を重ねた作品。部分的に少し緑がかったほのかなゴールドのような輝きが浮かび上がります。「銀は高価な素材であることも含め、扱いがとても難しいのですが、時間や環境との関係性が豊かに表れるという点で唯一無二の素材です」

《Rose(薔薇)》《rose(薔薇)》

撮影=梅本健太

プリントして間もない「銀化」が進んでいない作品。ここから時間の経過とともに表情が移り変わります。「予測のつかない緊張感もありますが、それ以上に未来への期待が膨らみます。その思いを作品に込めているのかもしれません」

時の移ろいが、静かに艶を深める。予測できない美が心を動かす宮前義之(「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」デザイナー)

写真のようでもあり絵画のようでもある。梅本健太さんの花々の作品を初めて目にしたとき、その奥行きに思わず心を奪われました。

「100 FLŌRA」は、まずその制作の過程そのものが革新的です。独自に改造したインクジェットプリンターを用い、カラーと銀を多色刷りのように重ねていくという前例のない手法。膨大なスタディを重ね、多層的な工程を経て辿り着いた質感には、ズレやかすれといったかすかな揺らぎが宿り、同じ表情をもつ作品は二つとして存在しません。さらに銀は、空気に触れて黒く沈んだり黄みを帯びたり、インクとの重なり合いにより思いがけない色を見せたり。作品が時間を纏うことで「銀化」していき、色も質感も静かに変わり続けるのがこのシリーズの特徴です。

一般的には劣化や変質と受け取られる変化にも「固有の美しさがある」という梅本さんの視点。鮮やかな一瞬を不変なデータとして容易に複製できるデジタル時代において、作為と不作為が共存し、未来を予測できない作品に、強く惹かれます。 

そしてこのたび「ISSEY MIYAKE KYOTO│KURA」では、梅本さんの作品を展示する「100 FLŌRA」展を京都で行います。作品を壁面に巡らせ、ほの暗い空間の中で花と銀がふわりと浮かび上がるようなインスタレーションです。会期の終わりに作品がどのような姿へと変容するのかは、作者自身にもわかりません。おそらく初日と最終日では全く異なる表情を見せることでしょう。同じデータを何度でもプリントできる時代に、あえて足を運ばないと出合えないフィジカルな体験に大きな意味を感じています。

花が咲き、やがて枯れゆくように、作品自体が時間を纏って変化していく。その瞬間を、幾重にも時間が折り重なる京都という場所で、ぜひ見届けていただければと思います。(談)

みやまえよしゆき◯1976年東京生まれ。2001年 三宅デザイン事務所に入社し、三宅一生が率いた「A-POC」の企画チームに参加。その後「ISSEY MIYAKE」の企画チームに加わり、11年から19年まで「ISSEY MIYAKE」のデザイナーを務めた。21年にスタートしたブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」にて、さらなる研究開発に取り組んでいる。

「100 FLŌRA by Kenta Umemoto」

京町家にある蔵のギャラリーに100点を超える一連のシリーズが展示されます。光と影、移ろう時間。幽玄の空間に浮かび上がる花々の表情を楽しみたい。

DATA
会期/2026年1月5日(月)~ 2月25日(水)
会場/ISSEY MIYAKE KYOTO
Google mapで確認
京都府京都市中京区柳馬場通三条下ル槌屋町89

ISSEY MIYAKE公式サイト

撮影=梅本健太 編集・文=石黒三惠(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年2月号より

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