
シンガポールのビジネス中心街。2025年5月撮影。REUTERS/Edgar Su
[シンガポール 19日 ロイター] – シンガポールへの本社移転を目指す中国企業が増え続けている。背景には、米中間の地政学的緊張による事業混乱のリスクを軽減できるとの思惑がある。
一部の専門家が「シンガポール・ウォッシング」と呼ぶこの流れは、トランプ米大統領1期目の終盤に勢いが本格化してその後加速。重要鉱物からハイテク、バイオテクノロジーまでさまざまな分野に広がっている。
アジア太平洋の9つの拠点で企業の移転や拡大を支援しているインコープ・グループのKG・タン最高経営責任者(CEO)は「(移転)需要は常に増加しており、目下の重要なのは恐らく需要ペースがさらに加速するという点だ」と述べた。
具体的にどれぐらいの数の中国企業がシンガポールに本社を置いているかを示す公式なデータは存在しない。ただ、タン氏は中国企業からの関心は「非常に強く」、問い合わせは2024年に比べ15-20%程度増えたと明かす。
例えばシンガポールに本社がある中国系企業としては、中際旭創が支援する光学製品メーカーのテラホップが挙げられる。
最近では、万国数据(GDSホールディングス)(9698.HK), opens new tabから分離したデータセンター運営のデイワン、北京胡蝶効応科技から派生した人工知能(AI)エージェントのマナスAI、AIを活用した化学合成企業のケムレックスなどが名を連ねる。
マナスAIとテラホップのウェブサイトには、中国の支援企業に関する記載はない。ケムレックスのショーン・リンCEOは、上海で創業した自身のスタートアップをシンガポール企業とみなしていると主張した。
デイワンのジェイミー・コーCEOは7月、万国数据とデイワンが異なる規制体系下で事業を行っているため、中国の親会社からの分離は当初から意図していたと説明した。
マナスAIとテラホップはコメント要請に応じなかった。
<戦略的な魅力>
シンガポールは、米国の関税に対応しつつ、中国本土で入手が制限されている米国の重要技術へのアクセスを維持したい企業にとって魅力的な拠点だ。シンガポール製品に対する米国の関税率は10%に過ぎない。
メイバンク・チャイナのエコノミスト、エリカ・タイ氏は「シンガポールのブランドは世界的に信頼されている。シンガポールはその国際色や中立性が評価され、中国企業とその駐在員らが文化的になじみやすい」と指摘。28カ国・地域との自由貿易協定を締結しているので、中国国外の市場で事業を拡大する上でも格好の基地になると付け加えた。
もっとも、そうした中国企業にとっての利点のために、シンガポール政府は綱渡りを強いられている。米国が中国企業への監視を強め、一部の外国企業がシンガポールで犯罪行為に関与してきたからだ。
シンガポールに拠点を置くデータセンター企業メガスピードは23年に中国のゲーム会社から分離したが、米エヌビディア製半導体を不正に流用した疑いで、米国当局の捜査を受けている。
シンガポールでは23年、中国系外国人が関与した過去最大のマネーロンダリング(資金洗浄)事件も発生。中国系カンボジア人所有の複合企業による大規模な詐欺拠点運営疑惑を巡る捜査も継続中だ。
<小規模企業に有利>
理論的に言えば、本社移転は関税や輸出管理など保護貿易的政策への対応という意味では柔軟性が高まる。しかし、企業が政治的、ないしは規制面の足かせから完全に自由になれるわけではない。
実際、中国発のインターネット通販SHEIN(シーイン)と、中国系動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)はいち早くシンガポールに拠点を移したものの、いずれも米国の厳しい監視から事業を守ることができていないのは明らかだ。
シーインは米国と英国での新規株式公開(IPO)について政治的な反対に直面し、本社を南京からシンガポールに移したにもかかわらず、上場計画は中国政府の許可を求めざるを得なくなった。結局、現在は上場先を香港に変更することで中国政府に承認を申請しており、中国に本社を戻すことも検討中と報じられている。
中国の字節跳動(バイトダンス)が保有するティックトックの場合は、シンガポール人の周受資CEOが24年に米議会で、中国政府とのつながりに関して繰り返し追及された。
さらにシンガポールに登録された中国投資会社の域瀟基金(ユジャオ・ファンド)がオーストラリアのレアアース(希土類)開発企業の持ち分を拡大しようとした計画が、中国政府との関係を理由にオーストラリア政府から24年却下されたことは、シンガポール拠点化の限界を浮き彫りにしている。
複数の専門家は、こうした戦略は大半の小規模企業にとって有効だが、大手企業が利用できる余地は比較的小さいと主張する。
シンガポール国立大の政治学者、チョン・ジャ・イアン氏は「ファミリーオフィスや商社といった知名度の低い団体」の方が、注目を避けやすいとの見方を示した。
ただ、一部の企業には既に監視が強まりつつある。
山東博安生物技術の幹部は、同社が世界の製薬企業に臨床サービスを提供しており、シンガポール子会社が米国事業の資金調達に利用されていると言及した。
この仕組みによって資本の流れへの締め付けが厳しくなっている中国ではなく、シンガポール経由で資金需要を満たすことが可能だ。しかし、最終的には米当局に中国の親会社とのつながりを指摘される恐れがあると警戒しているという。
同幹部は「米国では当社の規模が非常に小さいため、今のところ政府の視界にとらえられているとは思わない」と語り、行方を見守っている。
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Xinghui previously covered Asia for the South China Morning Post and has been in journalism for a decade.

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