黒板に様々な掲示物が貼ってある様子


ひろしまで暮らす | 2025年12月24日(水)

学校に行きたいけど…。不登校となる子どもは、全国で年々増えています。その気持ちを受け止め、広島県では、子どもが安心して過ごせる居場所づくりに力を入れています。

その一つが東広島市にある「SCHOOL“S”」 (スクールエス)。それぞれの目標を踏まえて、スタッフと相談しながら、自分で学習内容や方法を決めて活動しています。居場所はたくさんあるから大丈夫。まずは、相談してみませんか?

不登校の現状
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出典:不登校児童生徒数の年次推移

不登校とは、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しない、あるいはしたくともできない状況にあるため年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義されています。

2024年度の広島県の国公私立小・中・高等学校 (全日制・定時制) での不登校の人数は10,581人。小学校では3,559人、中学校では5,179人、高等学校では1,843人でした。これまでのピークであった2023年度の10,764人と比較して、183人減少したものの、小学校では9年連続増加しています。

不登校の児童生徒について把握した事実としては、学校生活に対してやる気が出ない、生活リズムの不調、不安、学業の不振、友人関係をめぐる問題などが挙げられます。

さまざまな、そして、一人に複数の事実が挙げられる場合もあり、人によって、そのきっかけや理由は異なります。取り巻く環境によって、誰でも起こりうることです。

SCHOOL“S”ってどんなところ?
棚におもちゃや折り紙が飾ってある様子

広島県は、学校に通うのが難しい子どもの学びの場や居場所づくりなどの支援を充実させています。その一つである、広島県教育委員会の「SCHOOL“S”」をのぞいてみましょう。

SCHOOL“S”でできること
ホワイトボードを使った学習プログラム

SCHOOL“S”には、約150人 (2025年11月末現在) の子どもが登録しています。学習室やプレイルームなどにおいて、各自が週の最初に決める「マイ時間割」に沿って学んでいます。

来室とオンラインを自由に選択でき、一人一人に合った学習プログラムを受けることができます。週に1回、「探究タイム」があり、小物作りやアート体験、自然観察のほか、農作業などに挑戦します。子どもの「伴走者」として指導主事が寄り添います。

利用状況等は、子どもが所属する学校や市町教委と情報共有し、校長判断で出席扱いに。社会とのつながりを保ちながら学べる場所が、子どもの自立を手助けします。

SCHOOL“S”の「ある日」
絵を描く子供と先生

ある日の午前、プレイルームで、子どもたちが机を囲み、画用紙にすらすらとペンを走らせます。別の机では、カードゲームで盛り上がるグループや黙々と漢字ドリルをする子、廊下のソファで会話を楽しむ子たち…。穏やかな表情で、自由に過ごしています。

オンライン配信しているスタジオ“S”の部屋をのぞいてみると、何やら話し声が。スタッフ二人と自宅にいる子どもたちが、オンラインで談笑中。子どもは画面オフで、チャットのみの参加でOK。注目のニュースや趣味、クイズなど幅広い話題で会話が弾んでいました。

昼食後も、個々に応じた「マイ時間割」で活動します。廊下でおしゃべりを楽しんでいた中学2年生の女子生徒は「今までひきこもっていたけど、日中にここに来ることが自信になっている。友達と話せて楽しい」と顔をほころばせます。

午後2時になると、「バイバイ」の声が飛び交います。明日はどうする?途中で入退室してもいいし、体調によって来室・オンラインの選択もできる!ゆるやかに、個々の目標に向かって明日をどう過ごすのか、周りと相談しながら自分で決めるのです。

保護者も子も一人で抱え込まないで
渡邉 美佳 不登校支援センター長

SCHOOL“S”の役割について広島県教育委員会の渡邉美佳・不登校支援センター長に聞きました。

SCHOOL“S”をどんな場にしていきますか。

全ての子どもにとって安心できる居場所を目指しています。子どもによって「安心」は違うので、指導主事は一人一人への接し方を変え、「信頼できる大人が待っている」という雰囲気づくりに努めています。

「先生と生徒」という立場をフラットにするため、お互い呼ばれたい名前で呼び合います。「いつでも話を聞くよ」という姿勢で気軽に話せる関係を築く狙いです。

子どもへの接し方は。

全員が同じ目標ではなく、保護者や本人と方向性を決めています。SCHOOL“S”では、自分の関心事を研究したり打ち込んだりできます。

その子の強みや「好き」を見つけて伸ばせたら。社会や仲間とのつながりを保ちながら、少しずつ自信を取り戻せるよう応援していきたいですね。

子どもが登校を渋ったとき保護者はどう対応すべきですか。

原因や状況、性格などその子によるため断言できませんが、まずは学校の先生たちと話し合うことです。担任の先生だけでなく、スクールカウンセラーや養護教諭などさまざまな立場の先生に相談してみてください。

大人によってその子の見え方が少しずつ異なるため、共通の認識や、家庭と学校での違いが見えてきます。大人たちが協力することで、子どもへの理解が深まり、適切なサポートにつながります。

「つながり」へ一歩 広島県の取組
ソファに集まる子供たち

広島県は、SCHOOL“S”のほかにも学校に通いづらい子どもや保護者の支援に取り組んでいます。社会や仲間とつながる一歩になるかもしれません。

不登校SSR推進校
スペシャルサポートルーム

教室になじめない子どもが生活したり、学んだりする場所として、広島県内の54校の推進校にあるSSR (スペシャルサポートルーム) が定着しています。カラフルなソファやぬいぐるみが並び、教室っぽくない空間で居心地の良さを生み出します。

各自のペースで学習に取り組みます。時々、「先生お手伝いサービス」を請け負い、校庭の掃除やトロフィー磨き、文化祭の備品の片付けなどに励みます。教職員から感謝される経験を積み重ね、自己肯定感を高めていきたいと考えています。

ほかにも、調理実習やゲーム大会の実施、SSRを利用した卒業生から高校生活の話を聞くなど「学校に行くのが楽しい」と思える内容を充実させています。「SSRがあったから、学校に行けた」という声も多く、次へのステップを踏み出せるような場にしています。

ひろしま学びプログラム
橋の欄干の写真を撮る子供

ひろしま学びプログラムには、「あつまれ!学びプログラム」、「オンライン学びプログラム」、「オンラインクラブ活動」 などさまざまなプログラムがあります。

「あつまれ!学びプログラム」は、体験型のプログラム。県内の小学校5年生から中学校の不登校をはじめとする学校における集団での学習になじめない子どもであれば誰でも参加できます。

チームを組み、ミッションに挑戦するフィールドワークもあります。安芸高田市や尾道市などを舞台に、ミッションに取り組む中で、地域の文化を知り、住民と交流しながら自分で考えて行動する力を育みます。

また、「オンライン学びプログラム」では、これまで美術館や博物館、工場の見学のほか、パイロットや獣医師、飼育員など、その仕事に携わっている人々との交流、広島東洋カープのスタジアムツアーなど多彩なプログラムをオンラインで配信しています。

また、高校進学を見据えて、県内の様々なタイプの高等学校から、高校生にその学校の魅力や選択した思いなども語ってもらう年間を通したプログラムもあります。

保護者への支援
保護者を対象としたワークショップ

子どもの不登校について、保護者は悩みを打ち明けにくいものです。誰にも言えずに、孤立するケースも少なくありません。そんな保護者の思いを吐き出せる交流会も定期的に開いています。

SCHOOL“S”に通う子どもの保護者を対象に、工作などワークショップをしながら、雑談できるイベントを開催。また、オンラインで専門家が子どもとの関わり方について講演する探究セミナーもあります。

今年は、集合形式の「つながろうフェス」を広島市で初開催。公認心理師による相談会や、SCHOOL“S”に通う子による編み物などのワークショップがありました。

保護者も気持ちを共感してもらえる場所があれば、心が軽くなります。広島県は今後もその入口を増やして行きます。

一人じゃない 困ったら気軽に相談を
広島県立教育センター

子どもも保護者も、「周りに理解してもらえないかも…」という孤独感は計り知れないものがあります。一人で抱え込まず、話しやすい人に話してみてください。

身近な人に相談しにくい場合は、行政や民間の相談窓口が受け皿になります。誰かに話し、共感してもらう。それだけで、少し気持ちが楽になるかもしれません。

不登校に関する相談窓口

WACOCA: People, Life, Style.