あなたの車にも、この会社の製品が使われているかもしれない。タイヤの空気注入口にある、たった1グラムの小さな部品「バルブコア」。この分野で国内シェア100%、世界シェア50%という圧倒的な数字を誇るのが、岐阜県に本社を置く「太平洋工業」である。トヨタ自動車よりも古い歴史を持ち、かつて憧れたライバル企業さえも買収して飲み込んだ、売上高2000億円超えの“グローバル・ニッチトップ”の実力とは。田宮寛之氏の著書『日本人が知らない!! 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)より、みていこう。

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国内シェア100%…タイヤバルブのトップ「太平洋工業〈7250〉」

会社データ

・本社……岐阜県大垣市

・売上高……2061億円

・純利益……132億円

・資本金……73億円

・創業年……1930年

・従業員数……5138人

・上場市場……東証プライム、名証プレミア

(業績は2025年3月期)

 

太平洋工業はタイヤバルブのトップ企業で、世界シェア50%、国内シェアは100%を誇る。

 

タイヤバルブとは、タイヤの空気注入口にあるバルブのこと。このタイヤバルブの心臓とも言える精密部品がバルブコアで、タイヤに空気を入れるバルブの芯として空気圧を保つ働きをする。通称「ムシ」と呼ばれる。

 

世界規格品となっているバルブコアは、直径5.1ミリメートル、長さ19.5ミリメートル、重さ1グラムと小さいが、空気注入時には弁を開いてスムーズな流れを確保し、通常時には空気を外へ漏らさない。

 

同社は、車が安全に走行するためには欠かせないタイヤバルブの開発・設計・製造・検査までを一貫して手がけている。

1930年創業…初の「国産バルブコア」製品化までの長い道のり

創業者の小川宗一は1930年に毛織業を営む兄の出資を得て、岐阜県大垣市に太平洋工業合名会社を設立した。トヨタ自動車や日産自動車が設立されるよりも前のことだ。

 

当時の国内自動車生産台数はわずか450台で、自動車部品のほとんどを輸入品に頼っていたが、自動車産業の将来性に期待し、日本で初めてバルブコアの生産を開始した。

 

創業当時は技術もノウハウもなく、輸入品のバルブコアを真似て製造するのは容易ではなかった。販売先のタイヤメーカー・ダンロップの英国人技師から、「バルブコアは精密時計をつくるより難しい。空気は見えないから不良箇所がわかるはずがない。日本でつくるのは不可能だ」と言われたこともあったそうだ。

 

製品化まで困難が続いたが、1934年に空気漏れ検査機の開発に成功し、品質の均一化が保てるようになった。そして、1936年にはアイデアが独占的に保護される実用新案権を取得したことで後発メーカーを抑えて国内市場を独占し、その後の躍進の基礎を確立した。

 

明治大学経営学部卒業後、日本経済新聞グループのラジオたんぱ(現・日経ラジオ社)を経て1993年に東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクとなる。

2007年、株式雑誌の『オール投資』編集長に就任。2009年、就職・採用・人事などの情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げて編集長となる。

2014年に「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。これまでに自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など4000社以上の企業を取材。

著者プロフィール詳細

連載4000社を取材してきた『四季報』記者が教える!世界を制す「ニッチ企業」

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