ケンジントンより満を持して発売されたトラックボール「エキスパートマウス TB800 EQ トラックボール」。トラックボールの老舗であり大家からの新製品は界隈を沸かせ、直近で他社から高価格帯トラックボールが発売されていたこともあり、根強いファンを持つケンジントン派のユーザーからは対抗馬のど本命として注目されていた。

 本機は同社の「スリムブレードトラックボール」や「エキスパートマウス」シリーズと同じく55mmの大型球を搭載したトラックボールであり、ボールを囲むように配された先代「エキスパートマウス」譲りのスクロールリング、新機構となる2つのサイドローラー、有線・bluetooth・2.4Ghz無線の接続&切り替え機能などを搭載したハイエンドモデルである。トラックボールはその構造上ボタン数やスクロールホイールの配置が問題になりがちだが、ケンジントン製品の快適な操作性に各種の機能が追加され、さらに2つも便利そうなサイドローラーがついたなら、一体どれだけ素晴らしいプロダクトになってしまうのか。

 早速本機をお借りして使ってみたので、その手触りをお伝えする。

開封直後、カーソルの挙動に違和感を覚える

 ここまで見てきたように、トラックボールとして、ケンジントンの新製品として本作は満点に近いスペックを誇るのは間違いない。ただ、実際に触ってみた結果として、筆者は本機を手放しで絶賛することはできなくなってしまった。

 本機は筆者自身も長年のトラックボールユーザーとして発表以来注目しており、是非弊誌でもご紹介したい!と製品をお借りしたのだが、ウキウキで開封した直後違和感を覚えることになる。特に手の置き方を意識せずに操作しようとすると、どうもカーソルがふらついてしまうのだ。

 そこで少し意識して手の置き方を変えてみる。結果手を深く置き「ボール上部」を指先で操作しようとすると、特に横方向の移動距離が極端に短くなったり、震えるような上下移動を挟んでカーソルが動くなど上手くいかない。一方で、手を浅く置いて「ボール下部」で操作すると、手の形は少し窮屈なもののカーソルは概ね意図通りに動かせる。

 色々と試してみた結果、縦方向の回転は基本的に正しくカーソルの縦移動として認識されること、構造上「ボール下部」での操作が「ボール上部」での操作に比べて斜め方向の回転が少なくなること、つまり読み取り精度の影響が少なくなることから、これは恐らくセンサー位置の関係で「横+斜め方向のボールの回転」が「X座標の横移動」として正しく認識されていないことによるものだと思われる。ボールの露出部分が大きく、手の置きどころの自由度そのものは高いことが裏目に出てしまっている印象だ。

どっしりと深く手をかけると、指先がボールの奥側(上側)にかかってしまい、横移動の精度が著しく落ちる指を浅めにかけるとボールの手前側(下側)に指がかかり、少々窮屈だがカーソル操作の精度は上がる

 「カーソルが違和感なく正しく動かせること」がマウスを含むポインティングデバイスの大前提で、その上でトラックボールの価値として「ボールが快適に動かせるかどうか」「スクロールなどが快適に行なえる設計かどうか」、「ボタン数は必要なだけあるか」「設定でどこまでカスタマイズできるか」などが上乗せされる。率直なところ「Expert Mouse TB800 EQ」は期待も大きく、筐体の設計もその期待に応えるだけの出来なだけに、最も基本的な部分がおそろかになっているのが本当に心から残念でならない。

 筆者は半ば”トラックボール信者”のようなところがあり、本機を触り始めてからは”自分の使い方の問題である”と思い込みたいという本音もあり、冒頭のようにグルグルと自問自答していた。なんとかいい使い方が無いかを探り、本体の手元側に何かを噛ませて持ち上げ、必然的に「ボール下部」に指がかかるようにして使ってみたりもしたのだが、個人的にはあまりしっくり来ず、快適に使うことはできなかった。

 なお、本件に関してはケンジントン側も12月16日付けの発表(参考)にて、「約10時から1時の位置でボールを操作する際に、センサーの『デッドゾーン』が発生する可能性がある」という報告があったことを明らかにしている。商品自体の欠陥ではなく仕様上問題ない、かつこの操作方法は「トラックボールの最も一般的な使用方法ではない」と前置きしつつ、改善に向けて調整中であるとした。

 弊誌側でもアコ・ブランズ・ジャパンに問い合わせてみたところ、問題は把握しており、具体的にはファームウェアのアップデートにて解決できるか検討中であるという回答が得られた。

仕様そのものは最上級なだけに極めて残念

 本機はトラックボールにおいて重要な操球感などは快適そのものといって良い。基本設計や新機構、カスタマイズ性の高さや本機1台で複数のPCを操作できる利便性、それを支える設定の保存方法や表示、ドライバに依存しない小さな専用ボタン群など、スペックとしてはまさに「エキスパートマウス」の正当進化系という形で、極めて出来の良いデバイスである。それだけに基本操作部分に弱点があるというのは本当に残念だ。

 使い方や設置方法によっては100%の力を発揮させることも可能かもしれないし、問題に遭遇せず、あるいは気にせずに使えているユーザーもいることとは思うが、個人的には色々試した結果納得することができなかった。主観で言えば、ゲーマーとして一番”ガチ”な瞬間の一つである対戦系ゲームのランク戦にこれで行こう!と思えない時点で、乗り換える理由がないということになってしまう。

 筆者の体験はあくまで一例ではあるが、価格帯からしてもハイエンドであることから、どのような設定、どのような配置にも応える設計であって欲しかったし、それを望むユーザーがほとんどであると思う。光るところはギラッギラに輝いているプロダクトであるため、今後のファームウェアアップデートで改善されることを期待したい。

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