Europe Trends
2025.12.10
欧州経済
フランス経済
フランス予算協議は半歩前進
~薄氷の下院通過、残る予算協議もいばらの道~
田中 理
要旨
予算協議が続くフランスでは、9日に年金改革を凍結する社会保障予算の下院採決が行われ、与党議員の一部が投票を棄権したが、野党議員の一部が政府案支持に回ったことや投票を棄権したことで、辛うじて可決した。上下両院での法案一本化後の最終採決や、社会保障部分以外の予算審議が残っており、年内の予算成立が引き続き危ぶまれる状況に変わりはない。穏健野党勢への更なる譲歩で、財政再建が遠退くことや与党内の亀裂が高まるリスクに注意が必要となる。
財政・政治不安が続くフランスでは、年末の予算成立期限が迫るなか、9日に国民議会(下院)で行われた年金改革の凍結を含む社会保障予算案の採決が、賛成247・反対234・棄権93の賛成多数で可決した。予算案は反対派が多数の上院に送付され、上下両院で法案を一本化したうえで、16日頃に最終採決が予定されている。今回の投票では、マクロン大統領を支える中道勢力とこれまで政権運営に協力してきた中道右派の共和党(LR)の4政党のうち、アンサンブル(ENS)の全91議員、民主運動(MoDem)の全36議員が賛成票を投じたものの、次の大統領選挙を睨んで政権から距離を置き始めている水平(Horizon)の34議員のうち25名が投票を棄権し、賛成票を投じたのは9名にとどまったほか、社会党への譲歩に反発する共和党も49議員のうち3名が反対に回り、28名が投票を棄権し、賛成票を投じたのは18名にとどまった(表)。
与党並びに政権に近い議員の一部が造反するととともに、極右政党・国民連合(RN)の全123議員、極左政党・不服従のフランス(LFI)の全71議員など、多くの野党勢力が反対票を投じたが、年金改革の凍結と引き換えにルコルニュ政権の発足に協力した中道左派の社会党(PS)の69議員のうち63名が賛成票を投じたほか、海外県・海外領土・地域の議員で構成されるグループ(LIOT)の多くの議員、環境政党・欧州エコロジー=緑の党(EELV)の一部議員も賛成に回ったことで、何とか下院採決を乗り切った。野党議員の一部が賛成票を投じていなかった場合や、投票を棄権した与野党議員の一部が反対票を投じていた場合、予算案は否決されていたことを意味する。
来年度予算の成立には、今回下院を通過した社会保障予算に加えて、社会保障部分以外の予算を上下両院で通す必要がある。財政再建が遅れるフランスは、欧州連合(EU)の財政規律に違反しているとして、是正措置を求められている。財政再建を計画通りに進めるには、年金改革の凍結に伴う中期的な財政悪化を穴埋めする追加の緊縮措置が必要な状況で、今回賛成に回った社会党など一部の野党議員が、残りの予算採決でも政府案の支持に回るかは予断を許さない。
ルコルニュ首相は政権発足に当たって、今後は憲法49条3項や47条に基づく議会採決を迂回する特別な立法手続きを封印する方針を表明しており、現在の議会構成を考えると、年内の予算成立が危ぶまれる状況に変わりはない。与野党議員の大多数は、極右政党の党勢拡大につながる議会選挙の前倒しを望んでいない。残る議会採決で予算案が否決された場合も、前倒し選挙に発展する可能性は今のところ低いと判断している。国家の税徴収や公債発行を認める特別立法を議会で通したうえで、年明け後に改めて予算成立を目指す展開を想定する。社会党への更なる譲歩で、財政再建が遠退くことや与党内の亀裂が高まるリスクに注意が必要となろう。


以上
田中 理

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