ブリスベン(CNN) オーストラリアで10日から、16歳未満のSNS利用を禁止する法律が施行される。年齢制限への賛否は分かれ、施行後の動向に国内外から注目が集まっている。

豪北東部クイーンズランド州の私立学校、オール・セインツ・アングリカン・スクールは8月、9~10年生(日本の中学3年~高校1年に相当)の生徒300人を講堂に集め、SNS禁止法の説明会を開いた。禁止法のことを知っているかという質問に、手を挙げる生徒はほとんどいなかった。

壇上では、サイバーセキュリティーの啓発に取り組む企業業「Ctrl+Shft(コントロール・シフト)」の設立者キラ・ペンダーガスト氏が「写真はぜひ保存して」「準備しておく必要がある」と語りかけた。

驚いた生徒たちの間にざわめきが広がる。「16歳になればアカウントを取り戻せますか」「年齢をごまかしたらどうなりますか」と、質問が相次いだ。

それから約2カ月。豪州では10日以降、政府が定めた「年齢を制限されるSNSプラットフォーム」に当てはまるサイトは、16歳未満の子どもを排除、遮断する措置が不十分とみなされた場合、最大で4950万豪ドル(約50億円)の罰金を科される。

対象にはスナップチャット、フェイスブック、インスタグラム、キック、レディット、スレッズ、ティックトック、ツイッチ、X(旧ツイッター)、ユーチューブが含まれる。

フェイスブックやインスタグラム、スレッズを運営する米メタは、施行に先立って4日からアカウントの停止や新規作成の制限に乗り出す方針を示し、16歳未満のユーザーにコンテンツのダウンロードを促した。

スナップチャットは、ユーザーが最大3年間、または16歳に達する時点までアカウントを停止できると発表した。

禁止法は、国内の学校が学年末を迎え、8週間の夏休みに入る前のタイミングで施行される。

子どもたちは、これまでの休みのようにSNSで時間をつぶしたり、友達と気軽に連絡を取り合ったりできなくなる。禁止法を支持する親たちにとっても、長い夏になりそうだ。

かつて自動車にシートベルトが必要とされ、たばこの害を警告するべきだという認識が生まれた時と同じように、新たな領域へ踏み込もうとする豪州を、他国も注意深く見守っている。各国が立法を検討する動きもみられ、年齢制限が世界へ広がる可能性は十分にある。

変化への身構え

英国でデジタルIDサービスを提供する企業ヨティの上級幹部を務めるジュリー・ドーソン氏は、自分が5歳だった頃はドライブ中にシートベルトも着けず、後部座席で跳ね回っていた記憶があると話す。同氏は豪州の禁止法を自然な進化ととらえ、現実世界に置き換えて「子どもがストリップ劇場やバーに入ったり、酒やたばこを買ったりするのを許すだろうか。私たちはどんな規範を持ち、ネット上にどんな規範を望んでいるかという発想だ」と説明した。

ヨティはメタなどのSNSプラットフォームに、年齢確認の選択肢を示している。同社が現在提供しているのは電話やメール、ID確認など12種類の方法で、選択肢はさらに増えつつある。

「いくつかの選択肢が示された場合、世界中で大半のユーザーが選ぶのは顔年齢判定だ」と、ドーソン氏は言う。動画を自撮りすると数秒で、肌の状態や骨格から年齢が割り出される。禁止法では、公的な身分証明書のアップロードが義務付けられていない。

ただし、ユーチューブなどに年齢確認サービスを提供する英企業ベリファイマイのアンディ・ラルハム最高執行責任者(COO)によると、15~17歳といった「境界線上」の年齢層は判定しにくい可能性があり、16歳以上のユーザーが身分証明書の提示を求められるケースも考えられる。

年齢確認ツールで16歳未満を遮断

英国では今年、一部の若者たちが安物の仮面やゲームのキャラクター画像を使い、同国のオンライン安全法による新たな年齢制限を回避しようとした行為が発覚した。

ラルハム氏によれば、こうした場合も、カメラの前にいるのが本物の人間かどうかをチェックするなど、なりすまし防止技術で検知できる可能性が高いという。

VPN(仮想プライベートネットワーク)も確実な回避の手口になり得る。ただし違法なポルノサイトなどへのアクセスとは違い、SNSではユーザーのいる場所や友達関係といった情報の重要性が高い。そのためVPN接続でログインしても使い勝手が悪く、この手口が横行することはないだろうと、ラルハム氏は指摘する。

ドーソン氏は、SNSが16歳未満を締め出す対策を講じざるを得ないとしても、完全に排除することは不可能との見方を示す。禁止法はSNS側に「妥当な措置」を取る責任を負わせる一方で、違反した子どもや親への処罰は定めていない。

反発するティックトックのティーンたち

歌手を志す15歳のシャーさんは、SNSを頼りに音楽活動を展開している。

禁止法が施行されれば、メインのアカウントで長い時間をかけて獲得した4000人のフォロワーが「一人残らず消えてしまう」という。

ティックトックの親会社バイトダンスが所有するSNSのレモンエイトは禁止対象に入っていないため、シャーさんのようなティーンはフォロワーにそちらへの移行を呼びかけている。

10代のインフルエンサー、ゾーイさんはティックトックで約4万8000人のフォロワーに向け、外出前の準備動画や商品の開封動画を投稿してきた。最近は16歳未満の仲間に年齢確認の回避法を指南している。

ゾーイさんは、「SNSアカウントのメールアドレスを親のアドレスに変更して」とアドバイスする。自身のアカウントにも父親の名前が登録されている。(ただしティックトック側によると、アカウントの名前とは関係なく、だれがよく使っているかを検知する機能があるという)

ゾーイさんの両親はSNSの使用に賛成だ。ゾーイさんがSNSの年齢制限を13歳まで引き下げるよう求める署名を呼びかけたところ、先週の締め切りまでに4万3000人の賛同者が集まった。

だが9年生のマキシン・スティールさんは、署名の呼びかけに応じなかった。マキシンさんは昨年、SNSの閲覧をやめるのが難しいことに気づいて自らアプリを削除した。今はスマートフォン自体を持っていない。

マキシンさんは今年度の最終学期、南東部ビクトリア州の山岳地帯で、同じ14歳の生徒約40人とともにリーダー養成キャンプに参加している。ここはスマホ禁止だ。

学校の許可を得た電話インタビューのなかで、「今はみんなすっかり落ち着いて、SNSのことなど忘れている。これは私が今まで生きてきたなかで、一番生き生きして活気に満ちた環境だと思う」と話した。

マキシン・スティールさんは勉強に集中できなくなったため、SNSのアプリを削除した/Maxine Steel
マキシン・スティールさんは勉強に集中できなくなったため、SNSのアプリを削除した/Maxine Steel

マキシンさんは、いじめやヘイト、偏見に対抗する豪NGO「プロジェクト・ロキット」の全国青少年グループのメンバーでもある。グループには全国から50人の若者が参加している。

プロジェクト・ロキットの共同設立者、ルーシー・トーマス最高経営責任者(CEO)によれば、マキシンさんとは違い、SNSがなくなるとサポートグループや同じ悩みを持つ仲間とのつながりが絶たれてしまうと悩む子どもたちもいる。

トーマス氏は「若い人たちとSNSの関係はとても複雑で多様。SNSなしで立派に育つ子もいれば、人間関係を保つ第一の手段としてSNSを利用している子もいる」と述べた。

全国青少年グループは現在、孤立し疎外された子どもたちを支援するためのアイデアを出し合っている。「子どもたちの安全を守ろうとする政策のせいで、その子たちが規制の緩い、もっと危険なサイトに出入りするようになることだけは避けたい」と、トーマス氏は強調する。

高まる賛否両論

豪連邦議会では昨年、会期最終日に16歳未満へのSNS禁止法案が可決された。これに対して当時、今年の総選挙に向けた票稼ぎと批判する声が上がった。

ネットをめぐる同国の権利擁護団体、デジタル・フリーダム・プロジェクトは先月、禁止法が若者による政治的発言の自由を侵害する重大な憲法違反だとして訴えを起こした。

これに対し、ウェルズ通信相は議会で「脅迫や訴訟、大手IT企業に屈しない。国民のために毅然(きぜん)とした立場を貫く」と表明した。

SNS規制は他国でも提案されている。デンマークなどの欧州連合(EU)加盟国に加え、最近ではマレーシアが子どもの利用を制限する方針を示した。

英国のオンライン安全法では、有害なコンテンツから子どもたちを守る適切な措置を取らなかった企業に対し、数百万ドル相当の罰金が科される可能性がある。全米州議会議員連盟(NCSL)によると、米国では今年、少なくとも20州で子どもとSNSに関連する法が施行された。ただし、いずれも全面禁止には至っていない。

さらに全米各地で多数の個人や学校区、州司法長官がメタ、ユーチューブ、ティックトック、スナップチャットに対し、広告収入を狙って依存性のある特性を故意に組み込み、子どもたちの精神的健康を損ねたとの訴えを起こしている。

Ctrl+Shftのペンダーガスト氏は、大手IT企業の自由に制限をかけることは長年の懸案だったと語り、来年からは子どもの安全がもっと守られるようになるはずだと述べた。

一方、オール・セインツ中等部の生徒指導責任者ニッキー・バックリー氏は、来年も大きな変化はないだろうと予想。SNSをやめさせる力量のない親もいると指摘した。

バックリー氏はさらに、政府が禁止対象外と明言しているゲームサイトへの懸念を示した。

女子生徒たちからの情報で、7歳の女児がゲームサイトで見知らぬ相手とやり取りし、住所を聞かれていたことが分かった例もある。バックリー氏が女児の母親に伝えたところ、母親は女児がネット上で他人と交流していたことさえ知らなかったという。

子どもの安全への配慮が足りないと批判されるゲームサイトのひとつ、ロブロックスは先月末、チャット機能で年齢確認を求める方針を発表した。だが、一部の親にとってはこれでも不十分だ。

SNSを自ら断ったマキシンさんは、最新のうわさ話やミームから自分だけ取り残されるような状況を脱する日が楽しみだと話す。

マキシンさんは同年代へのメッセージとして、いずれにせよ16歳になれば取り戻せるのだから「平穏で静かな365日を過ごそう。自分のことに集中し、大人になり始める前に子ども時代最後の年月を楽しむようにしよう」と呼びかけた。

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