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ウクライナ戦争が始まって3年8カ月が過ぎました。米国がロシアに和平案を提示するなど、にわかに停戦に向けた動きが注目を集めていますが、そもそもロシアが仕掛けたこの戦争の目的とは何だったのでしょうか。
プーチン大統領の“頭の中”について、ロシアの軍事・安全保障政策を専門とする東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏に聞きました。司会を務めるのは、ドイツ出身で長年日本に暮らす著述家のマライ・メントライン氏。特別ゲストとしてマライ氏の夫で軍事・歴史分野に詳しい神島大輔氏も対談に参加しました。4回に分けてお届けします。
※JBpressのYouTube番組「マライ・メントラインの世界はどうなる」での対談内容の一部を書き起こしたものです。詳細な全編はYouTubeでご覧ください(収録日:2025年11月5日)
ロシアの誤算、「特別軍事作戦」への執着
マライ・メントライン氏(以下:、敬称略):ウクライナへの侵攻が始まってからすでに3年8カ月が経過しました。改めて、ロシアのプーチン大統領は今、いったい何を考えているのでしょうか。
小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター准教授(以下、敬称略):外側からプーチン氏の“頭の中”を直接知ることはできませんが、少なくとも2022年2月にウクライナに軍隊を送り込んだ当初、これほど長期戦になると考えていなかったはずです。もっと短期間で勝てると見ていたでしょう。
実際、ウクライナの国土や軍隊規模に比べて、ロシアが当初投入した部隊は比較的小規模でしたし、開戦直後からいきなり首都キーウを狙いました。数日から1週間もあればウクライナを屈服させられるとプーチン氏は踏んでいたでしょう。そのため、「戦争」ではなく「特別軍事作戦」だと主張してきたわけです。
しかし、実際にはウクライナ側の激しい抵抗を受け戦争は長期化しています。プーチン氏自身も、これは誤算だったと痛感しているはずです。とはいえ、戦争の目的自体は開戦当初から変わっていません。彼は当初からウクライナを「非ナチス化・非軍事化・中立化」すると言い続けています。
ロシアのプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
マライ:「非ナチス化」とはどういう意味なのでしょうか。
小泉:ロシアが言うウクライナの「ナチス」とは、2014年のマイダン革命以降誕生したウクライナ政権のあり方を指しています。ロシアは当時の革命について、「アメリカがウクライナのネオナチ勢力を使って起こした人為的なクーデター」だと主張しています。
つまり、ロシアが言う「非ナチス化」とは、ウクライナ政権を倒し、軍隊を廃止、もしくは縮小させ、NATO(北大西洋条約機構)加盟を禁じ、ウクライナがロシアに逆らえない国になるよう作り変えるということです。あまりにも非現実的な要求のため、ウクライナ側が簡単に応じるはずがありません。
仮にプーチンが戦争目的を引き下げれば停戦への道も見えてくるかもしれませんが、現在(収録日:2025年11月5日)に至ってもロシア側は態度を何ひとつ変えていません。戦況の見通しこそ当初の目算から狂ったものの、プーチンの掲げる目的そのものは変わっていません。

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