少子高齢化が進む社会の中で高知県の今と将来を考えるシリーズ「人口減少」。2025年、室戸市の人口が1万人を割りました。北海道をのぞく自治体で初めて市の人口が1万人割れとなった室戸市の現状とこれからを考えます。

8月29日の濵田高知県知事の会見では。
「この8月1日時点の高知県の推計人口を発表する中で、室戸市の人口が1万人の大台を割り込みました―」

高知県東部に位置する室戸市。2025年8月の推計人口が9995人となり、1万人を割りこみました。
北海道を除く自治体で市の人口が1万人を切ったのは能登半島地震の被災地、石川県珠洲市と室戸市だけです。

室戸市は、1959年に5つの町と村が合併して発足しました。
人口のピークは、発足当時の3万3109人で、その後は減少の一途をたどってきました。
基幹産業である漁業の低迷や若年層の都市部への流出などで少子高齢化が進み、1985年には亡くなった人の数が生まれた人の数を上回る「自然減」が生じます。
2003年に2万人を割り、その後も年間300人を超えるペースで減り続けました。
2025年11月1日時点での推計人口は9934人。市の発足当時と比べて人口は7割も減っています。

この状況に室戸市民は―。
■80代男性
「もう全然、子どもの声が聞こえませんね。学校へ行って、あれ(卒業)したら、よそで就職」
■70代女性
「寂しいですね。若い人が頑張ってもらえる街じゃないと・・・」
■90代男性
「まだまだ人口減るね。あと10年もしたら、ホンマもう5000人ばあになるかも分からんね」

室戸市の人口に占める65歳以上の高齢者の割合は54.8%。県内の市町村では、3番目の高さです。

一方、15歳未満の割合は県内の市町村で最も低い5.6%。また、2024年に生まれた子どもの数は24人で県内の市では、土佐清水市に次いで2番目に少ない状況です。

こうした状況に室戸市では保育料や給食費、18歳までの医療費などを無償化したり、赤ちゃんが生まれた家庭に祝い金を支給するなど、子育て世帯の支援に力を入れています。

■20代の母親
「手当てが厚い。保育料も無料、給食費も無料なとこがやっぱり良い点かなとは思います」
一方で、こんな声も―。
■別の20代の母親
「小児科がまったくないので、そこをどうにかしてほしい。(車で)30分、1時間ぐらいはかかるので、そこはちょっと困るかなって感じ」

室戸市では出産や子どもが病気になった際には近い所で田野町や安芸市の病院に通うのが実情です。

子育て環境の課題に加え室戸市の人口減少にはもう一つ大きな要因があります。
■40代男性
「就職先とかも少ないですし、働く場所も少ない」
■70代女性
「地元に就職って少ないから、みんな、我が子もそうですけど他へ出て行って。(Q.受け皿がない?)あると思います。私はそう思います」
■50代男性
「親世代が働くところがなければ、子も増えていかないだろうし」

市民が感じる“就職先の少なさ”
室戸市から転出した人を対象に行われたアンケートでは、転出の理由として、就職を理由にした回答が50%以上を占めました。

捕鯨や遠洋マグロ漁で栄えてきた室戸市は漁業の衰退で地元経済が低迷していきます。
市内の商工業者の数は1998年度には1000以上ありましたが、2025年4月現在では537と半減しています。

人が減り、働き口が減る流れに歯止めはかけられないのか。
室戸市の植田壯一郎市長は、大きな雇用を生み出す企業誘致が進まない現状に苦悩を滲ませます。

■植田壯一郎 室戸市長
「永年の課題でテーマでありながら、その事によう応えきれてない。作った商品が消費地に持っていくのに、輸送コストもかかる。(従業員を)30人も40人も働いてくれる人が見つからない。企業の方も探すけど、よう人を構えれん。人が何千人もっていうのは、なかなか集まってくれるようなことができないので、大きな企業が来てくれることができない」

また、若い人たちの就職先の選択肢に入れてもらえるように、地元の企業の魅力づくりも必要だと強調します。

■植田市長
「働く場所がないんじゃないのよね。若者が働きたくなるような場所がないのであって、人手は足らんわけやから、働く場所はある。働く場所の魅力化をするということも企業の方々にも連携して、改善策に協力してもらうことも大事」

機械の部品として使う歯車などを作っている地元の製造メーカー「ISS富士鍛」。
会社で最も若い入社2年目の中野坦さん(20歳)。
■中野坦さん
「この道をここから4キロぐらいのぼった所に、ずっと山の向こうですけど、僕の住んでる集落があります。車だと10分かからないです」

中野さんは、室戸市東部の中山間地域、中川内地区の出身。今は閉校した地元の小・中学校から高知市の高知工業高校に進学。下宿生活の中で、ふるさとの良さに気づき就職で室戸に戻ってきました。
■中野さん
「自然がいっぱいで、とても過ごしていて住み心地もいいですし、地元に帰ってきたいっていう考えが高校3年の始めぐらいに出てきて。高校で学んでいるうちに鍛造っていう職種があることを知って、僕の父親も鍛造系の仕事をしていたので、ちょっと興味持ったので富士鍛を選びました」

採用担当の髙橋武嗣常務も貴重な地元出身の若手として、中野さんに期待しています。
■ISS富士鍛 髙橋武嗣常務
「Uターン以外でっていうのが、結構若い人やめるパターンが多かったものですから、ぜひともやっぱり地元の人に入ってもらいたいというのが、私自身の願いでもありましたので、そういった意味では非常にありがたい子が入ってきてくれた」

現在従業員51人のうち、20代は8人。人手不足の解消と若者の雇用促進に向けて会社では新たな試みに取りかかっています。
■髙橋常務
「女子の更衣室を作ります。いまちょうど男子更衣室をいまから改修を進めていくという所なので、いまはまだできていませんが奥にシャワールームとか、これからきちんとできあがっていく」

2026年の完成を目指す女子更衣室。
5人しかいない女性従業員の数を増やす環境づくりが目的です。そして、こんな計画も立てています。
■髙橋常務
「(室戸高校の)女子野球部の生徒さんがインターンシップで来ていただいたっていうのもあって、その時に良い印象を持っていただけたということでしたので、一層野球部作っちゃえばみたいな話になったので」

会社が着目したのが女子野球部の創設です。
地元の室戸高校の女子野球部員が卒業したあとも野球と仕事を両立できる受け皿をつくるため、2027年からの始動にむけ準備を進めています。

女子野球を通じて、会社がより働きやすい環境になり、さらに若い人が集まるようになることを期待しています。
■髙橋常務
「例えば、空調をもう少し効かしてあげるとか、作業環境の部分をより改善してやるとか、それは一時的に女性が入る名目でやっても、
将来的には男性の社員にとっても非常に良いことにつながる」

長い間、人口と雇用の減少に悩まされてきた室戸市。この流れに歯止めをかけるため、地元企業の挑戦が続きます。

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