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2025.11.20 09:00

UchuBizスタッフ

 International Astronautical Congress 2025(国際宇宙会議、通称「IAC」)が9月30日から10月3日にかけて、オーストラリアのシドニーで開催された。IACは宇宙科学・技術の研究成果や宇宙産業の取り組みが報告される、世界最大級の国際カンファレンスだ。会場には各国の宇宙機関や宇宙関連企業のブース展示が並び、ネットワーキングや商談の場としても重要な役割を果たしている。

会場となったシドニー国際コンベンションセンター

 2025年のIACには、業界関係者が99カ国から7000人以上集まり、会場は連日活気に包まれた。最終日のパブリックデーは、学生をはじめ一般市民1万2000人以上が訪れ、総来場者数は1万9000人を超えた。ニューサウスウェールズ州政府は、今回の開催による観光経済効果は約4700万ドル(約73億円)となり、当初見込みの2倍以上に達したと発表している。

展示会場の様子

Vastのブースでは、商業宇宙ステーション「Haven-1」の模型や宇宙服、船内を模擬体験できるVR、微小重力下でも快適に眠れる睡眠システムなどが展示された

韓国発のロケット企業Innospaceのブース。ブラジル、オーストラリア、ノルウェーに加えて、将来的には韓国およびUAEからも打ち上げる計画

宇宙機関トップの対談から読む「世界の宇宙開発動向」

 IACでは毎年、主要国の宇宙機関のトップが最新動向を紹介する「Heads of Space Agencies」セッションが恒例となっている。今回は、米国航空宇宙学会(AIAA)最高経営責任者のクレイ・モウリー氏とオーストラリア宇宙庁のエンリコ・パレルモ長官がモデレーターを務め、各国のトップと一対一で対談する形式で進められた。

 登壇したのは、NASA、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)、インド宇宙研究機関(ISRO)、カナダ宇宙庁、中国国家航天局(CNSA)、JAXAの代表ら。

 まず、NASAのショーン・ダフィー長官代行(当時)は、アルテミス計画による長期的な月面有人活動の構想や、商業宇宙ステーションの計画を紹介した。米国のリーダーシップについて問われると、従来は技術開発に多額の資金を投じることで主導してきたが、今後は「ビジョンを掲げ、(方向性を)示すことが極めて重要になる」と述べた。

 なお、NASA長官人事は新政権発足後に混乱があり、宇宙飛行の経験を持つ実業家ジャレッド・アイザックマン氏が指名されたものの撤回され、7月にダフィー氏が長官代行に就任。その後、11月にアイザックマン氏が改めて長官に再指名されている。

NASAショーン・ダフィー氏(右)とAIAAクレイ・モウリー氏(左)

 続いて、ESAのヨーゼフ・アッシュバッハー長官は、2040年までに優先的に取り組む課題をまとめた「Strategy 2040」を紹介した。この文書では、最優先事項として地球と気候の保護を掲げている。また、アリアンロケットの打ち上げが滞った「ランチャー危機」への対応として、アリアン6ロケットの運用安定化や、ロケット開発支援コンテスト「European Launcher Challenge」について説明した。

 ISROのV・ナラヤナン議長は、インドの宇宙プログラムがSDGsの17目標のうち14に貢献していると紹介した。ナレンドラ・モディ政権の宇宙分野改革により、当初3〜4社だった宇宙スタートアップは330社超に急増しているという。また、有人宇宙飛行計画「ガガヤーン」の初飛行は2027年初頭を目指していると述べた。

 カナダ宇宙庁のリサ・キャンベル長官は、国内企業への投資・支援が進んでおり、宇宙分野がカナダ経済の活性化に寄与している現状を紹介した。特に、山火事をモニタリングする地球観測衛星「WildFireSat」は、5年間の運用で最大50億ドル規模の経済効果が見込まれるとした。

 最後に、JAXAの山川宏理事長は、温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の打ち上げ、新型宇宙ステーション補給機HTV-X、火星衛星探査計画(MMX)の進捗を説明した。アルテミス計画への貢献としては、月軌道ゲートウェイのサブシステム開発や有人与圧ローバーの開発など、日本の役割の大きさを強調した。

JAXAの山川宏理事長(右)とオーストラリア宇宙庁のエンリコ・パレルモ長官(左)

JAXAによる展示ブースでは、H3ロケットやHTV-X、LUPEXの模型、はやぶさの帰還カプセルなどが展示された

中国に存在感–気候変動対策やデブリ問題に積極貢献の姿勢

 今回のIACでとりわけ注目を集めたのは、中国の宇宙関係者の登壇や中国関連のブースだ。「Heads of Space Agencies」では、宇宙開発を統括する国家航天局(CNSA)副長官のジーガン・ビエン氏が登壇した。中国の動向を直接聞ける機会は貴重なため、今回の登壇にも関心が集まった。モデレーターは、AIAAのクレイ・モウリー氏が務め、通訳を介して対談が行われた。

CNSAジーガン・ビエン副長官(右)とAIAAクレイ・モウリー氏(左)

 CNSAのビエン氏は、過去1年間(2024年10月〜2025年10月)の打ち上げ回数が70回を超えたことや小惑星からのサンプルリターンを目指す探査計画を進めていること、中国とイタリアが共同開発した電磁波やプラズマを観測する衛星を打ち上げたことなどを述べた。

 今回のIACのテーマは「Sustainable Space: Resilient Earth(持続可能な宇宙:レジリエントな地球)」。モデレーターのモウリー氏から気候変動対策への貢献について問われると、ビエン氏は、中国が気候変動対策を国家戦略として位置付けていると述べ、CNSAが宇宙技術を活用して重要な役割を果たしているとした。

 特に技術面では、中国は「500基以上の多様な地球観測衛星を打ち上げてきた」とし、森林炭素吸収源の監視衛星や二酸化炭素排出量の監視衛星などによりデータ基盤を強化してきたと説明した。また、CNSAは気候変動対策に関する国際会議の開催や、BRICS諸国によるリモートセンシング衛星コンステレーション構築も推進していると述べた。

 続いて、モウリー氏は中国が独自の宇宙ステーションを運用していることや、メガコンステレーションの構築を進めている点に触れ、スペースデブリ問題への考え方を尋ねた。ビエン氏は、国際的な枠組みのもとで宇宙政策とグローバルガバナンスを推進すること、宇宙状況認識システムの共同構築や衝突回避、さらに能動的デブリ除去技術の研究を進めていることを挙げた。最後にモウリー氏が、中国政府は衛星の軌道離脱のための燃料搭載を技術的要件として定めているのかどうか尋ねると、ビエン氏は「はい」と回答した。

 中国は2007年に衛星破壊実験を行い、多数のデブリを発生させた過去があるが、今回のビエン氏の登壇は、現在の中国は国際枠組みに沿ってデブリ対策に取り組んでいることを協調する内容となっていた。

 なお、展示会場では、CNSAや中国宇宙学会(CSA)、中国の宇宙開発の中核を担う中国航天科技集団有限公司(CASC)らのブースが来場者の目を引いていた。ロケットや海上打ち上げ船、宇宙ステーション、嫦娥6号の模型、火星探査ミッションのVR体験など、多様な展示が並んでいた。

中国のブースの様子

中国の宇宙探査計画を示すパネル展示

火星探査のイメージを伝えるVRコンテンツも体験できた

オーストラリア各地域で宇宙開発に特色

 オーストラリアでのIAC開催は、2017年のアデレード以来、8年ぶりの開催となった。「IAC 2017」では、オーストラリア政府が宇宙庁の設立を表明し、翌2018年にオーストラリア宇宙庁が発足したという経緯がある。

 今回の展示会場では、オーストラリア宇宙庁をはじめ、南オーストラリア政府および南オーストラリア宇宙産業センター、ニューサウスウェールズ州、タスマニアなど、各地域の関連機関や自治体がブースを構えていた。ここでは、オーストラリア各地の宇宙開発・ビジネスの特色を見ていく。

◾️オーストラリア宇宙庁

 オーストラリア宇宙庁(ASA)は、同国の宇宙開発の全体像を示す大規模ブースを展開していた。目玉は、米国のスタートアップ企業Varda Space Industriesが開発した再突入カプセル「W-3」の展示である。W-3は2025年5月に南オーストラリアに帰還した。また、国内企業の紹介も行われていた。Space Machines Companyが開発する軌道上サービスのための宇宙機「Optimus Viper」や、HEOの宇宙機に搭載することで数百キロメートル離れた物体を画像化できる「Holmes Imager」なども展示されていた。

オーストラリア宇宙庁のブースの様子

Varda Space Industriesの再突入カプセル「W-3」

◾️南オーストラリア

 南オーストラリアは、国内で唯一、宇宙機の打ち上げと帰還の両方が可能な地域である。ブースは、同州のロケット発射場と広大な砂漠地帯という地の利を前面に出した内容となっており、ロケット打ち上げの映像や、カプセル帰還時の振動と音をヘッドセットで体験できるコンテンツが人気を集めていた。

南オーストラリアのブースの様子

◾️ニューサウスウェールズ州

 シドニーを含むニューサウスウェールズ州は、スタートアップ企業が多く集まる地域だ。宇宙分野でもロボティクスや地球観測の企業が存在感を高めており、気候監視や山火事追跡を担う衛星サービスも生まれている。ブースで配布されたパンフレットでは、大学による宇宙関連プログラムと、衛星製造から観測解析、月面探査まで幅広い取り組みを進める60以上の企業・団体が紹介された。

ニューサウスウェールズ州のブースの様子

シドニーを拠点とするCREST Roboticsが開発中の月面ロボット「Charlotte」。月のレゴリスなどを取り込んで、インフラづくりに使える資材へと加工する機能を備えている

◾️タスマニア

 オーストラリア最南端の島・タスマニアでは、宇宙医学、宇宙状況把握(SSA)、衛星データ利活用などの取り組みが進んでいる。その中核を担うのがタスマニア大学。同大学は、極限・孤立環境医療を扱う南極・遠隔地・海洋医療センター(CARMM)と連携し、宇宙医学研究を推進している。さらに、タスマニア大学は望遠鏡を運用し、衛星追跡や軌道決定にも長年携わってきた。これらの設備を通じてSSAや衛星ミッション支援に関わる研究が進んでいる。

 再突入カプセルから宇宙医学まで、分野の違う取り組みが一堂に集まり、オーストラリアの宇宙の取り組みの層の厚さを印象づける展示だった。

 次回の「IAC 2026」は、トルコ・アンタルヤで2026年10月5日から9日まで4日間にわたって開催予定。現在、スポンサーや出展の募集に加え、研究発表の受付がすでに始まっている。

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