3人組バンド「Mrs. GREEN APPLE」(以下ミセス)のキーボードで、長野市出身の藤澤涼架さんのドキュメンタリー番組「ラストをトモに! Mrs. GREEN APPLE 藤澤涼架から後輩たちへ」が19日夜、信越放送(SBC)で放送された。番組は長野県内のみで放送されたため、「特番を観るため昨日から長野に来ていました」などと県外から泊まりがけで放送を見に来たとSNSに投稿するJAM’S(ミセスのファン)が相次いだ。記者はJAM’Sで長野県在住。普段はライブやイベントで遠征する「地方組」だが、今回はリアルタイムで番組を視聴できて、うれしかった。(井口文)

【以下から番組の内容に触れます。ご注意ください】

    ◇

 番組では、藤澤さんが母校の小諸高校(小諸市)と長野市柳町中学校を訪問。小諸高校は県内唯一の音楽科があり、藤澤さんも在籍した。しかし、小諸高校は来年春に再編統合されて新校の「小諸義塾高校」が開校予定。そして、柳町中も藤澤さんが所属した吹奏楽部が部活動の「地域展開(地域移行)」に伴い廃部になる。番組は、藤澤さんがラストを迎える母校の後輩たちと交流する中で、彼の音楽の原点に迫る内容だった。

 番組は、藤澤さんが小諸高校へと通った道を歩く場面から始まった。藤澤さんは、朝5時に起きて自宅から自転車で15分の長野駅に行き、電車で1時間かけて小諸駅へ。そこからスクールバスに乗らずに40分かけて高校まで歩いていたと懐かしそうに語った。小諸は坂の多い街で、駅から高校までは、ほぼ上り坂。さらに、自宅から高校までは約2時間の道のり。寒さの厳しい冬場は特に大変だっただろうと想像した。それでも音楽がやりたくて進学した高校が「超大好き」と語る姿に、音楽へのひたむきな愛と充実した学校生活がうかがえた。

 母校の最後の文化祭を前に、後輩たちをサプライズ訪問した藤澤さん。生徒たちからは悲鳴に近い大歓声が。生徒たちは、ミセスのデビュー曲「StaRt」(スタート)に合わせた全校ダンスを文化祭に向けて練習中で、藤澤さんは逆サプライズでダンスを見せてもらっていた。藤澤さんは高校時代に文化祭で実行委員会の副委員長に立候補し、先頭に立って引っ張った経験があると話していた。大切な思い出の文化祭。その最後に、自分たちの楽曲が使われることは感慨深かったに違いない。

 高校時代はフルートを専攻し、副専攻でピアノを学んだ藤澤さん。毎日通ったという音楽棟を訪れると、建物内に入った瞬間「わっ!懐かしい、この音楽棟の香りも」と声を上げた。嗅覚でも懐かしさを感じる感受性の高さはさすがだと思った。

 3人の恩師と再会する場面では、一人一人の先生との思い出が藤澤さんの口から次から次へと出てくることに驚いた。しかも、出てきたエピソードは日常のささいなやりとりで、いかに日頃から人と誠実に向き合い、周囲の人に感謝しているのかという人柄がにじみ出ていた。

 最も印象深かったのは、音楽棟でのインタビュー中に見せた涙だ。藤澤さんは心優しく感受性が豊かという印象で、テレビなどで自分以外のことで感動して涙を流す場面を何度も見てきた。しかし、インタビューでは、中学高校と6年間一緒だった友人の成長する姿に焦りや悔しさを感じていたとし、目に涙をためながら「楽しかったけど苦しかった」と自らの思いを赤裸々に告白。一方で、その友人から刺激を受け、自らもやりたいことをやる覚悟が持てたとして、言葉に詰まりながら「人生で一番大事なきっかけをくれた高校生活」と振り返り、大粒の涙を流した。ミセスへとつながる大きな決断には、高校での生活が大きな影響を与え、並々ならぬ葛藤や決意があったのだろう。芯の強さを実感する場面だった。

 藤澤さんは、柳町中にもサプライズで訪問。柳町中の吹奏楽部といえば、県内では強豪として有名だ。藤澤さんは、ここでフルートを始めた。吹奏楽部の後輩たちは藤澤さんの登場に、驚いてかたまり、絶句していた。その姿がなんとも微笑ましかった。

 全国大会を目指す部員たちの質問に藤澤さんが答える場面では、子どもたちの目を見て真剣な表情で丁寧に答える姿が印象的だった。藤澤さんは、中学時代に全国大会に出場。そして、今は音楽界のトップを走るアーティスト。憧れの先輩の言葉は、後輩たちの胸に響いたに違いない。

 「一生懸命やったことって一生覚えているから」。藤澤さんはこんな言葉を後輩たちに贈った。その言葉を聞いて、ほんの一握りの人しか脚光を浴びない芸能界で結果を残せてきたのは、中学や高校で一生懸命やってきた経験が糧になっているからだと強く感じた。

 部員たちの最後の演奏となる定期演奏会に合わせて、後輩たちに手紙を送った藤澤さん。こうした心のこもった気配りや優しさが、ミセスの音となって大勢の人の心を動かすのだろう。

〈番組は、民放の動画配信サービス「TVer」で20日正午から12月4日正午まで、2週間配信される〉

WACOCA: People, Life, Style.