第一生命経済研レポート

2025.11.19


欧州経済

ドイツ経済


内外経済ウォッチ『欧州~ドイツ経済の復活は?~』(2025年12月号)



田中 理



目次






欧州最大の経済大国ドイツは、その高い技術力や熟練労働に支えられ、自動車、化学製品、工作機械などの製造・輸出立国として知られる。1990年の東西ドイツ統一後、旧東ドイツ地域の高失業や支援負担に苦しんだ時期もあったが、欧州の経済通貨統合の強化や中国接近で巨大市場への販路拡大に成功し、目覚ましい復活を遂げた。ロシアからの安価な天然ガスの輸入拡大も、ドイツの産業競争力を支えていた。だが、ロシアによるウクライナ侵攻後、制裁の一環でロシア産エネルギー資源の禁輸を開始したことで、苦境に陥った。電気自動車(EV)対応の遅れや中国の自動車メーカーとの競争激化、長年の緊縮財政によるインフラ老朽化、高齢化による労働者不足、デジタル化や産業の新陳代謝の遅れなども、足を引っ張った。

2023~24年に2年連続でマイナス成長を記録するなど、ドイツ経済は構造不況に陥っている。危機感を強めたドイツ政府は、大規模な財政出動に舵を切った。今年3月に財政収支の均衡化を義務付ける憲法規定(債務ブレーキ)の改正に着手し、インフラ投資の拡大、防衛費の増額、気候変動対策に充てる総額5000億ユーロ(約88兆円)の特別基金を創設した。欧州連合(EU)も財政規律の適用対象から防衛費を除外することを決め、防衛費の拡大を後押ししている。

緊縮的な財政運営を続けてきたドイツの大胆な政策転換を受け、景気回復期待が高まっている。ドイツの代表的な企業景況感は、先行き判断が牽引する形で、春以降、回復が加速している。7~9月期のドイツの実質国内総生産(GDP)は前期比ゼロ成長と停滞が続いたが、これは米国による関税引き上げを前にした駆け込み輸出の反動が出た面もある。前政権崩壊と連邦議会選挙の前倒しで9月に遅れて成立した2025年予算の一部は年内に執行が開始され、10~12月期の景気を押し上げよう。来年には歳出拡大の効果が本格化する。

5月に誕生したメルツ首相が率いる連立政権は、歳出拡大と構造改革を通じて、ドイツの経済・産業の立て直しを目指している。歴史的な財政政策の転換は道筋がみえてきたが、歳出拡大で時間を稼ぐ間に構造改革に取り組み、競争力の回復を確実なものにしなければならない。現在、連邦議会では来年度の予算審議に合わせて、企業のエネルギー負担軽減、労働時間の柔軟化による就労促進、減価償却ルールの見直しによる設備投資の活性化、煩雑な行政手続きの簡素化など、各種の構造改革の検討が進められている。構造問題の解決には時間が掛かり、連立政権内の意見不一致など改革実行の不安要素もある。こうしたドイツが直面する課題は、日本が置かれている状況とも重なる




田中 理

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