インドのベンガルールで、JPモルガン・チェースは契約違反の有無を確認する信用サポート担当者を採用している。ゴールドマン・サックス・グループは、不動産からヨットに至る多様な融資案件を審査する人材を募集している。
ムンバイでは、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資を手がけるKKRが投資対象企業のモニタリング要員を増員しており、ヘッジファンドのミレニアム・マネジメントはデリバティブ(金融派生商品)取引チームのリスクアナリストを求めている。
米企業によるこうした求人の活発化は、ウォール街がインド拠点への依存を一段と強めていることを裏付けている。

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ウォール街、インドで事業拡大(アジアのポッドキャスト)
JPモルガンはすでに全世界の従業員の約2割をインドで雇用しており、この長年の人員拡充の流れは今後さらに加速する見通しだ。トランプ米大統領がビザ(査証)取得費用の引き上げなど移民規制の強化を進めていることが背景だ。
トランプ氏は9月、外国人専門技術者向け就労ビザ「H-1B」の新規申請に10万ドル(約1550万円)の手数料を課すと発表。
事情に詳しい複数の関係者によると、H-1B規制を受けて、インドで事業展開している米銀少なくとも2行の現地幹部が、米国の本部と協議しながら「グローバル・ケイパビリティー・センター(GCC)」の拡充策を検討しているという。
1990年代に単なるバックオフィス業務から始まったGCCは、今やグローバル金融を支える中核的存在へと進化している。一部の銀行では、米国での採用内定を取り消すか、代替ポジションをインドのGCCに設ける動きも出ている。
ブルームバーグ・ニュースはインドのGCCについて、銀行関係者や採用担当者、企業幹部ら十数人に取材し、匿名を条件に話を聞いた。各銀行はいずれもインド拠点での従業員数や拡張計画に関するコメントを控えた。
地政学リスク
グローバル銀行によるインドでの事業拡大の加速は、高度技能人材を対象とした移民規制を強化することで米国内の雇用を守ろうとするトランプ氏の戦略に限界があることを浮き彫りにしている。
だが、その急成長のペースは、政治的反発を招くリスクを高める可能性もある。
グラントソントン・バーラトのパートナー、ビベック・ラムジ・アイヤー氏は「インドはもはや単なる低コストで安価な労働力を提供する地ではない。厚い人材層を有する市場だ」と説明した上で、「懸念されるのは、グローバルな地政学的リスクの展開だ。特にトランプ氏の関税政策などを踏まえるとGCCが標的となる可能性もある」と語った。

ゴールドマンのベンガルール拠点
Photographer: Sameer Raichur/Bloomberg
ホワイトハウスのロジャース報道官は米銀によるインドでの雇用に関する質問に対し、「これらの銀行がH-1B制度を乱用できなくなった今、労働コストの低い市場に業務を移しているという事実は、外国人労働者を利用して米国人の賃金を引き下げていたことの証拠だ」と電子メールで返答。トランプ氏によるH-1Bプログラム改革は「米国第一」を実現するために必要だと主張した。
GCCが担ってきた単純業務の一部はフィリピンなどに移行したものの、ベンガルールやハイデラバード、グルグラム、ムンバイなどインド各地にあるキャンパスでは、金融エンジニアやリスクアナリスト、投資やテクノロジーを担当するスタッフが数多く働いている。
米銀トップの6行だけで、インドのGCCでは約15万人が雇用されており、ゴールドマンとモルガン・スタンレーは米国外で最多の人員をインドに抱えている。

トランプ氏、H-1Bビザに10万ドルの手数料-移民への影響懸念広がる
Source: Bloomberg
事情に詳しい複数の関係者によれば、こうした拠点で開発された代表的な先端プロジェクトには、米銀が支援する送金ネットワーク「ゼル(Zelle)」や、ブラックロックのポートフォリオ管理プラットフォーム「アラディン」などがある。
ゴールドマンは、クオンツ顧客向けの取引システム「アトラス」や商品取引プラットフォーム「ジャナス」も開発したと、別の関係者は語った。
さらに、ベンガルールとハイデラバードのGCCでは、生成人工知能(AI)を活用した業務効率化のための専用製品も開発されたという。これらのプロジェクトについて、ゴールドマンとブラックロックはいずれもコメントを控えた。

インドのソフトウエア・サービス企業協会(NASSCOM)のリポートによると、GCCの総収入は2030年までに1000億ドルを超える可能性がある。
ベンガルールの法律事務所カイタンのパートナー、プラシャンス・ラムダス氏は、「最近のH-1Bビザ政策変更により、インドに拠点を持つ米企業の多くは、熟練労働者の雇用戦略を再考せざるを得なくなる」としながらも、「インドのGCCは引き続き魅力的な選択肢」との見方を示した。
実証済み
ビザ制度変更のはるか以前から、GCCはより高度な業務を担うようになっていた。広大なキャンパスでは、市場業務やデータ分析のほか、トレーディングや調査支援、マネーロンダリング(資金洗浄)対策、財務、監査、技術関連など多岐にわたる事業が行われている。

元ゴールドマン幹部で、今はインドのIT大手ウィプロでGCC部門を統括するサンディープ・ダール氏は「新設・拡張を問わず、GCCに対する需要は著しく高まっている」と明らかにした。
ゴールドマンは今月、主力GCCがあるベンガルールで38人をマネジングディレクター(MD)に昇格させた。ニューヨークとロンドンに次いで3番目に多いMD昇格者数だ。東京は15人だった。
英銀バークレイズのインド法人最高経営責任者(CEO)プラモッド・クマール氏は「数十年を経て、インドは銀行のGCC拡張における重要拠点となった」と述べ、この傾向は今後さらに加速すると予想。
「インドのGCCが銀行の国際業務を支える商業的価値は、すでに十分に実証されている」と話した。

ウィプロのキャンパス(ベンガルール、10月)
Photographer: Sameer Raichur/Bloomberg

ウィプロのキャンパス。GCC関連サービスの需要が大幅に伸びているという
Photographer: Sameer Raichur/Bengaluru

ベンガルールの通りにはJPモルガンやウェルズ・ファーゴのオフィスが並ぶ(10月)
Photographer: Sameer Raichur/Bloomberg
原題:Wall Street to Speed Up India Hiring on Trump’s Visa Curbs (1) (抜粋)
— 取材協力 Ranjani Raghavan, Annika Inampudi, Anto Antony, Rthvika Suvarna and Sankalp Phartiyal

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