最終更新: 2025年11月11日

同じ音楽を聴いても、人それぞれ感じ方は違うもの。ましてや育った国や文化が違えば、その違いはもっと面白くなる。

国境を越えた特別な“音楽のクロスレビュー”企画は早くも3回目を迎えることとなった!

執筆者は、数年ぶりにレビューを書くことになった滝田くん(Yuuki Takita)と、遠くアルゼンチンに住みながら日本文化を愛するRAM。

Discordでの偶然の出会いをきっかけに、初回はアメリカのバンド、Racing Mount Pleasant、2回目はオーストラリアのDJ兼音楽プロデューサー、Ninajirachiを取り上げた。

そして今回は、日本のROTH BART BARON(ロット・バルト・バロン)の9枚目のアルバム『LOST AND FOUND』を二人の視点から深掘りしていく。

滝田くんのアーティストにまつわる情報を拾い上げるスタイルに対し、RAMの音楽から受けるインスピレーションを形にしていくスタイル。

アプローチは違えど、どちらもアーティスト本人が表現したいことの本質に迫ろうとするのは同じだ。

地球の裏側で生まれた二つのレビューがどんな“化学反応”を起こすのか、ぜひ楽しんで欲しい。

English article here 🔗
English

ROTH BART BARON『LOST AND FOUND』クロスレビュー

レビュアー:RAM、滝田優樹(Yuuki Takita) 編集:yabori(Tomohiro Yabe)

滝田優樹の視点から
滝田優樹
RAMとのクロスレビューは早くも3回目を迎えた。

これまでの2回はどちらも英語圏のアーティストによる作品を題材にしていたが、今回は日本のフォークロックバンド、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)の新作アルバム『LOST AND FOUND』をお届けする。

前回のNinajirachi『I Love My Computer』はRAMのレビューを先に読ませてもらい、彼の視点を借りてわからない作品をわかるまで聴き、さらにその先、”自分の好き”に接続するまでの過程を書かせてもらった。

ひとりではここまで自分が納得できる文章を書くことができなかったかもしれない。RAMには感謝しつつも本当にこの企画をやってよかったと思っている。

Ninajirachiのレビューは、曲がりなりにもライターである自分のブレイクスルーになった。これこそがクロスレビューの醍醐味だ。

普段、自分がレビューを執筆するときはだいたい作品を聴いたファーストインプレッションを手掛かりに何度も聴きこみながら確信と反証を繰り返し、自分の考えを文字に起こしていくケースが多い。

ファーストインプレッションがそのまま結論として着地することもあれば、書きながら全く違う着地になることもある。だからこそ迷子になりながら一筋の光を頼りに暗闇をもがいている感覚だ。

そう、何かを失い、また何かを見つけながら書いている。思い描いていた到達点でなかったとしても正解も不正解もない。それもまた自分にとっての真実なのだ。

『LOST AND FOUND』について

そして奇しくもROTH BART BARON『LOST AND FOUND』もタイトル通り、国境を越えて、喪失と発見を繰り返して生まれた作品だ。

まずは前作『8』を振り返ってみよう。

三船雅也がベルリンへ移住してからはじめてのアルバムであるとともに新しい挑戦の始まりとして今までの自分たちをぶち壊す作品を作るというモチベーションで制作された作品だ。

『8』のインタビュー時にも直接本人へ伝えたが、ROTH BART BARONは、デビュー時から一貫して人間の業や営みを唄ってきたバンドで、不変的なものではなく、常にその時代特有の空気感をまとっていた。

しかし、その確立されたROTH BART BARONを解体していまいちど自身のルーツと向き合って新たなスタートを切ったのだ。

その結果、ギターからパーカッション、シンセやホーン、すべての楽器が踊り、跳ねているように軽快かつ愉快な音を奏でる祝祭のアルバムとなったのだ。

『LOST AND FOUND』についても『8』からの流れを継いだ編成で、より原始的に、牧歌的に深度を深めた作品でありつつも、三船雅也がバンドではなく、シンガーソングライターして改めて唄うことに喜びを見出した作品であった。

思えば、自分が認識しているかぎり三船雅也は2022年秋ころにベルリンに移住し、東京の二拠点生活なってからチバユウスケの死をきっかけに、

Thee Michelle Gun Elephantの「世界の終わり」をカバーした動画をSNSにアップしてから自身の楽曲の歌唱動画が増え、

ここ1年は特に過去現在問わず自分がリスペクトするアーティストをカバーした動画を投稿することが増えた。

カバー楽曲については、エレキもしくはアコギで素朴に音を奏でながらただひたすらに唄うことに集中しながら丁寧にそして時に大胆に発声する。

そこでは表情を捉えることはできないが、歌声は表情以上にストレートに三船雅也という人間を映し出す。

そういう意味でも自身のルーツに向き合った作品になることは自然のなりゆきで、唄うことに喜びが滲み出ていることにも納得がいく。

三船がシンガーソングライターとして改めて唄うことに喜びを見出した作品であると、私が見出したのはアルバムの1曲目「CRYSTAL (feat. 塩塚モエカ)」で、「BLUE SOULS」のリミックスでも共演し、

毎年夏に開催されるROTH BART BARONのイベント”BEAR NIGHT”でもゲスト出演した塩塚モエカを客演に迎えた楽曲だ。

彼女の歌声の流麗さはもちろん、それに寄りそいながら三船の歌声も、とにかく伸びやかで、気持ち良さそうだ。

サウンドやパーカッション自体もシンプルで幻想的な装飾で紡がれるが開放感に満ち溢れている。

その後の「火魅蟲 – Fly to a Flame」も同じトーンであったことで確信に変わる。このサウンドが担保しているのは自分が唄っていて1番気持ちよくなれることであると。

『8』では音を奏でる喜びを表現し、楽器が踊り、跳ねているように軽快かつ愉快な音を奏でる祝祭の作品であったのならば、『LOST AND FOUND』は唄うことの喜びに向き合った作品だ。

歌声を引き立たせるためのサウンドではなく、決して奏でることをおろそかにしているわけでもなく、気持ち良く唄えることを模索した先に奏でられた音。

自身で作った歌を自分で唄う、シンガーソングライターについて考える。
誰かを救うために曲を作らなくても、いい。
自分が気持ちよくなるために、自分が救われるために唄ったっていいんだ。

むしろそれだからこそ、人の心を打つこともある。『LOST AND FOUND』を聴きながらそんなことを想う。

一貫して人間の業や営みを唄ってきたROTH BART BARONが、三船雅也という人間をありのままに表現した作品がこの『LOST AND FOUND』だ。

次のページこちら ⏩️

WACOCA: People, Life, Style.