高知県出身で文化勲章を受章した画家の奥谷博さんが2025年10月30日、中土佐町を訪れました。90歳を超えてなお、創作活動を続ける奥谷さんが故郷への思いを語りました。
まるで生きているかのような色鮮やかなタイ。日本を代表する洋画家・奥谷博さんの作品『緑皿乃鯛』です。
この作品を所蔵しているのは、9月に高台へ移転オープンした、中土佐町の「なかとさ美術館」。
その記念すべき第一回の特別展として企画されたのが、宿毛市出身の画・奥谷博さんの作品展です。
10月30日のオープニングセレモニーには、奥谷さんも神奈川県から訪れ、美術館の完成を祝いました。
■奥谷博さん
「大きからず小さからず、ちょうど『なかとさ美術館』というぴったりじゃないかと思う」
奥谷博さんは、1934年生まれで現在91歳。
高齢ながらも、日本を代表する洋画家として作品を作り続けています。
2017年には芸術など文化の発展に著しい功績があった人に授与される文化勲章を、高知県出身者としては牧野富太郎博士以来実に60年ぶりに受章しました。今も全国で展覧会を開催していて、大きな作品となると1000万円を超える値がつくほどの人気の画家です。
「なかとさ美術館」と奥谷さんとの縁は、高知町出身の実業家が奥谷さんの作品を町に寄贈したことや、「なかとさ美術館」主催の全国公募展の審査員を奥谷さんが務めたことから深まりました。
■なかとさ美術館 館長
「(中土佐町の)名誉町民になっていただいているので、やっぱり最初に(特別展を)やらなければならないというところもあって(企画した)。ダイナミックな画面構成、色、非常に鮮やかな色が多いので、ゆっくり見ていただくことで感じるものがあると思う」
今回の特別展では、「なかとさ美術館」が所蔵している奥谷さんの作品16点と、2025年に奥谷さんから寄贈を受けた作品、そして奥谷さんの地元・宿毛市から借りた15点を展示しています。
制作年代は1960年代から90年代が中心で、東京藝術大学で学んだ奥谷さんがフランスに留学していた頃の作品や、県西部の海岸など全国を巡って題材を探して描いた作品など、40代から60代の頃の奥谷さんの表現を鑑賞することができます。
■奥谷さん
「若くて、これから作品をたくさん描いていこうという、その私の苦闘時代(の作品)じゃないかな」
『奮』という作品は奥谷さんが60代の頃に制作しました。筋肉質な自画像と、背景として描かれた日本の伝統文化が印象的です。
■奥谷さん
「よーし、頑張ってこれからいい仕事をするぞっていう、そういう気合を入れてる絵です。色と形のはっきりしてるものを周りに持っていって、周りを全部10の力で表現していく。普通は遠くにある空とか、遠くにいくにしたがって3とか4とか5とかになっていくが、そうではなくて全部を10の力で表現していく」
一方、山口県にある徳山の工場地帯を描いた作品・タイトルは『昼夜』です。
■奥谷さん
「新幹線で通ると煙がばーっと出てて、あー仕事してるなという感じがする。それで朝早く行ってもまた煙が出てて、昼も夜も日本人は働き者だなっていう、よく仕事をして、だからこれだけ栄える国になったんだなと、そんなようなことを感じながら描いた作品です」
奥谷さんは、宿毛市で農業を営む両親のもとで7人兄弟の末っ子として育ち、11歳の時に終戦を迎えました。
日本の発展を強く感じることができるのは、奥谷さんが子ども時代に戦争を体験し、戦後の焼け跡から復興に至る激動の時代を生き抜いてきたからです。
■奥谷さん
「戦争はいかんね。平和でないと絵も描けない。B29とかああいうのが空(が)真っ黒くなるくらい宿毛の空を通っていく。焼夷弾とかそういう時限爆弾とかいっぱい落としていった。防空壕とかそういうとこに逃げ回ってた。小さいころ。そういう生活になるような、やっぱりケンカしちゃいけないね。」
「なかとさ美術館」特別展の初日に行われた奥谷さんのギャラリートークには、ファンや関係者・約30人が集まりました。
奥谷さんは、展示作品の中でも高知の海岸を描いた作品について解説しました。
■奥谷さん
「僕は土佐だから海にしようと思って、それで足摺の近くの海に行って取材した」
背景に描かれた海は自画像を描いた後から加筆したということで、ギャラリートークの中で奥谷さんは、行き詰った時には高知に帰るとふるさとへの思いを語りました。
■奥谷さん
「ちょっと詰まってくると高知に帰ってくるんですよ。その辺から海が見えてくると体から力が湧き上がってくるような感じ」
この日、長男に車いすを押してもらいながら美術館の外に出た奥谷さんは、高知の海を久しぶりに眺めました。
■奥谷さん
「絵を描く時、白いキャンバスをみると、かーっと胸が熱くなってこれから制作していくんだっていう、何というのかな、体全身のエネルギーがわーっと湧いてくるが、そういう感じと同じような感じよね、海見てると」
時折、ふるさとに帰り、エネルギーをチャージしながら、いまも1日7時間はキャンバスに向かうという奥谷さん。そのエネルギーの根底にあるのは、けっして現状に満足しないという信念です。
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奥谷さん「私の座右の銘が芸術無終。終わりがないんです。いつも新鮮な気持ちで物を感じたり、見たりしていかないといけない。それが生きる源なので。だから満足したことはない。これでもう自分は満足したっていうあれじゃない。いっつも探してる感じ」
芸術は終わることがないという座右の銘のとおり、奥谷さんは今後も新たな作品を生み出そうというエネルギーに溢れていました。

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