アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言動が過激発言の「免罪符」に

米国では10月、政界関係者の物議を醸す私的チャットが相次いで流出し、波紋が広がっている。2024年11月、ワシントンで撮影(2025年 ロイター/Hannah McKay)

[ワシントン 24日 ロイター] – 米国では10月、政界関係者の物議を醸す私的チャットが相次いで流出し、波紋が広がっている。いずれも民間のグループチャットが公になったもので、人種差別的、反ユダヤ的、暴力的な発言が政治信条を越えて飛び交っていたことが明るみに出た。

メッセージには人種的侮辱やナチスへの賛美、政治的暴力の脅迫などが含まれていた。外へ漏れれば非難を浴びる恐れがあるにもかかわらず、そのような意見を表明することに抵抗はなかったのかという疑問が生じている。

米国では暴力的な言論や人種差別的なヘイトスピーチを撲滅するため、数十年にわたり公民権運動が繰り広げられた。だが今回のメッセージ流出により、こういったイデオロギーが改めて常態化しつつあるのではないかという懸念が、市民団体や政治言語の専門家の間で一層強まっている。

人々はこれまでも、プライベートな場でなら暴力的あるいは人種差別的な意見を表明することはあった。ただ今回流出したテキストメッセージは、政治関係者による率直かつ、多くの人々にとって衝撃的な見解が露呈したという点で注目すべきだと専門家らはみている。

米政治専門ニュースサイトのポリティコが14日に報じたところによると、共和党若手リーダーの十数人のグループが1月から8月中旬にかけ、匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」上で人種差別的かつ反ユダヤ的なメッセージをやり取りしていたことが分かった。その中には黒人を「サル」と呼んだり、「ヒトラーが大好きだ」と宣言する者もいた。

3日にはナショナルレビュー誌が流出したテキストを公開した。これにより、バージニア州最高法執行官の民主党候補ジェイ・ジョーンズ氏が2022年、同州の共和党員を射殺すべきであり、政敵の墓に放尿すると書いた私信を送っていたことが明らかになった。

オンライン文化および政治言論の専門家によると、メッセージが永久に記録され、漏洩(ろうえい)する可能性があるにもかかわらず、扇情的なグループチャットがなくならないのは、誤った安心感、すなわちプライバシーと安全性に対する幻想によるものだという。

社会学者のアレックス・タービー氏は、グループチャットの参加者は仲間を信頼できると思い込んでいることが多いが、政治の世界では利害や野心、動機が時間とともに変わっていくことがあると指摘する。

「親しい関係であるかのように感じるのは錯覚だ」とタービー氏は言う。「まるでプライベートな会話のように感じてしまう。だが、グループチャットのメンバー全員が永遠にあなたを守ってくれると思い込むのは、ただのギャンブルだ」

<挑発的な言葉>

共和・民主両党の過激な勢力がソーシャルメディア上で影響力を強めていることや、特に若者の間で過激な表現を好む傾向が、私的な憎悪発言を悪化させているというのが専門家の見立てだ。

ニューヨーク市立大学メディア文化学准教授リース・ペック氏は、トランプ大統領自身がレトリックを使い、進歩的運動を攻撃しており、多くの保守派に「『トランプ以前』なら許されなかった言葉遣いが今は容認される」と思わせる結果を招いたとの見方を示した。

昨年の選挙戦でトランプ氏は、国内の不法移民が「国の血を汚している」と非難。就任後も彼らを「犯罪者」と呼び、不法入国を「侵略」と表現した。さらにホワイトハウスはミーム(ネットで拡散される画像や言葉)を投稿しており、批判的な人々は、これにより政治的レトリックが粗暴になったと考えている。

「彼らは、トランプ氏が大衆文化を掌握しており、民主党は時代に取り残されていると感じている」とペック氏は語る。「核心にあるのは、社会意識の高い人々への反発(「反ウォーク」)だ。挑発的で不適切な発言をすれば、仲間の一員だと示せる。この力学こそがトランプ主義の中核にある」

前述のタービー氏によると、これは「エッジロード文化」と呼ばれる現象だ。チャットグループ内で注目を集め続けるため、あえて衝撃的あるいはタブーとされる内容を投稿する行為だという。

スタンフォード大学政治学助教授のハキーム・ジェファソン氏も、トランプ氏がこうした発言に「一定の免罪符を与えている」と指摘。「これは合衆国大統領の発言の作法であり、その結果、人々が大統領の行動をまねする余地が生まれたのだと思う」と述べた。

ホワイトハウスのアビゲイル・ジャクソン報道官は「我が国に侵入し、罪なき米国民を殺害した外国人凶悪犯をトランプ氏が非難するのは正しい」と発言。さらに、ホワイトハウスのミーム投稿は不法滞在者による犯罪へのトランプ氏の方針を効果的に伝えていると主張した。

米政府は共和党若手リーダーらのチャット内容に関する質問に回答していない。

トランプ氏はジョーンズ氏のテキストについて「彼は公職に立候補すべきではない」と批判した。「彼は完全に信用を失っているはずだ。あんなことを言えば誰だって投獄されるだろう」と、トランプ氏は今月19日、大統領専用機エアフォースワン上で記者団に語った。

<政府要職の指名を辞退>

流出したテキストメッセージを巡る一連のスキャンダルは、政治的立場を問わず幅広い非難を招いた。バンス副大統領は共和党若手リーダーのメッセージを「本当に憂慮すべきもの」と呼びはしたが、批判は「大げさだ」と非難。グループチャットの参加者を「キッズ(子ども)」と呼んだ。参加者のほとんどは20―30代だった。

ジョーンズ氏は問題となった22年のメッセージで、元バージニア州下院議長のトッド・ギルバート氏について「頭に2発撃ち込まれるべきだ」と書き、同氏の子どもらが母親の腕の中で亡くなる様子を想像するなどの妄想を抱いて描写していた。

ジョーンズ陣営はロイターの取材に対し、10月3日に発表した声明を参照するよう求めた。その中で同氏は「恥ずかしく、申し訳なく、心から反省している」と述べ、ギルバート氏とその家族に謝罪しようとしていると述べた。

ワシントンポスト紙などが24日に公表したバージニア州の有権者調査によると、ジョーンズ氏の支持率はメッセージ流出後に急落。これまでリードしていた選挙戦で、現在は互角の状況になったことが明らかになった。

21日には、トランプ氏が政府の独立機関である特別検察官局(OSC)のトップに指名していたポール・イングラシア氏が共和党の主要議員からの支持を失い、指名を辞退した。

ポリティコの報道によれば同氏は私的なメッセージのやり取りで、自らを「時折ナチス的な傾向がある」と述べていた。さらには、黒人公民権運動の指導者であるキング牧師の生誕記念日について「廃止し、地獄の第7層に投げ込むべきだ」と発言していた。

イングラシア氏の担当弁護士であるエドワード・アンドリュー・パルジク氏はロイターに対し、メッセージは改ざんされた可能性があると主張。本物であったとしても「自嘲的で風刺的なユーモアとして書かれたことは明らかだ」と付け加えた。

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Bianca Flowers

Bianca Flowers is an award-winning multimedia journalist based in Chicago where she focuses on enterprise stories in areas of race, inequality, identity and social justice. She joined Reuters in 2022 as a manufacturing correspondent, covering the bedrock of the U.S. economy. She reported on labor unions strikes, corporate finance for global agriculture and construction companies and the impact of automation and artificial intelligence in the industrial sector. Prior to joining Reuters, she was a Senior Video Journalist at Dow Jones, covering short and long-form features on personal finance, income inequality, and diversity in the tech industry.

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