10月13日で大阪・関西万博が終わった。夢洲の人工島に6カ月間そびえていたパビリオン群が、これから消えていく。

 ただし、単純な解体作業にはならない。

大阪万博のパビリオンの「その後」を追った
大阪万博のパビリオンの「その後」を追った

 パナソニックは建材の99%をリサイクルすると宣言した。チリは建物まるごと船で本国に運ぶ。オーストラリアは東京五輪の資材を使い回していたことが判明した。大阪ヘルスケアパビリオンの健康測定サービスは、JRの駅で生き続ける——取材で見えてきた各館の戦略を報告する。

99%の約束:パナソニック

 外壁を飾る1404個の輪っかで構成されたファサードフレームが、パナソニックグループパビリオン「ノモの国」の顔だった。

パナソニックグループパビリオン「ノモの国」
パナソニックグループパビリオン「ノモの国」

 このファサードフレームが2027年の横浜国際園芸博覧会でまた組み立てられる。横浜では蔦植物などを生やして植栽のようにする計画もあるという。

 「建築物の99%以上をリユース・リサイクルする」と館長の小川理子氏は10月13日の取材会で断言した。鉄骨は家電リサイクル由来の鉄約97トンを使った。幹線ケーブル891メートルには家電リサイクルの銅約1.2トンを採用した。舗装ブロックは洗濯機約9200台分のガラスを使った世界初の技術だ。最初から「解体後」を設計に組み込んでいた。

ノモの国の小川理子館長
ノモの国の小川理子館長

ノモの国は、「クリスタル」という宝石型デバイスをパートナーとして楽しむ展示だった
ノモの国は、「クリスタル」という宝石型デバイスをパートナーとして楽しむ展示だった

東京五輪の「お古」だった:オーストラリア

 基礎構造の80%が、東京五輪(2020年)とバーミンガム・コモンウェルスゲーム(2022年)で使った建材だった。オーストラリア館は最初から「中古」だった。

オーストラリアパビリオン
オーストラリアパビリオン

 ESグローバル社の「グローバル・スーパートラス・システム」がミソだ。モジュラー部品一つ一つにトラッキング番号が振られている。どこで何回使われたか、すべて記録されている。万博が終われば倉庫に戻り、次の仮設建築を待つ。カーボンフットプリントを大幅に削減する仕組みだ。

 家具はnau社からレンタルした。照明はkoskela社から借りた。修理して、また売る。同社の「ReHome Program」を通じて購入・交換も可能になる。エミューとカンガルーの巨大彫刻は東京の大使館が引き取る。パビリオン外に植えた在来植物の一部は神戸の学校へ寄付される。何一つ捨てない。

オーストラリア館は雄大な自然をデジタル技術と装飾によって体感できる展示だった
オーストラリア館は雄大な自然をデジタル技術と装飾によって体感できる展示だった

データが財産:未来の都市

 KDDI、日立、川崎重工。日本企業連合の「未来の都市パビリオン」は建物こそ解体するが、中身は生き残る。

未来の都市パビリオン
未来の都市パビリオン

 「万博を実証実験の場と位置づけ、来場者の反応を各社の事業開発の糧とする」とKDDI・日立製作所プレイスの運営事業者を務める室伏宏通氏は語った。来場者の反応、操作ログ、アンケート結果。すべてが次の製品開発に流れ込む。シアター体験のデジタルコンテンツは記録・展開を検討中だ。川崎重工の水素モビリティは春に「カワサキワールド」へ移設される。万博会場の3Dモデル「バーチャル未来都市」は好評を受けて12月まで延長公開が決まった。

KDDIに在籍し「未来の都市」パビリオンのKDDI・日立製作所運営責任者を務める室伏宏通氏(左)と、万博協会に在籍し「未来の都市」パビリオン副館長を務める大畠亮介氏
KDDIに在籍し「未来の都市」パビリオンのKDDI・日立製作所運営責任者を務める室伏宏通氏(左)と、万博協会に在籍し「未来の都市」パビリオン副館長を務める大畠亮介氏

未来の都市の各企業の展示は各企業が持ち帰ることになる。川崎重工製の未来のモビリティコンセプトは、2026年の「カワサキワールド」に移設予定だ
未来の都市の各企業の展示は各企業が持ち帰ることになる。川崎重工製の未来のモビリティコンセプトは、2026年の「カワサキワールド」に移設予定だ

AR金賞の実力:カナダ

 中央に巨大な氷山型構造物を設置したカナダ館。

カナダパビリオン
カナダパビリオン

 タブレットをこの氷山にかざすと、カナダの大自然や都市、先端技術が立体的に浮かび上がる。ARと物理オブジェクトを融合させた没入型体験で、万博オリンピック(BIE Day Awards)の金賞を獲得した。「ベスト・インテグレーション・オブ・テクノロジー」部門での快挙だった。カナダ政府代表のローリー・ピーターズ氏は閉幕イベントで「少なくとも100万人以上の来場者が我々の受賞したARと没入型体験を楽しんだ」と述べた。

 建材は東京五輪のものを転用していた。構造的な梁や床には過去の五輪資材を再利用し、解体後はインベントリに戻る。メープルリーフ型テーブルは日本国内のどこかへ移設される。2005年愛知万博のメープルリーフは今も刈谷市にある。20年後も、きっとどこかで見られるはずだ。

カナダ政府代表のローリー・ピーターズ氏
カナダ政府代表のローリー・ピーターズ氏

カナダ館では、氷山にARをかざしてカナダの風物を眺める展示が楽しめた
カナダ館では、氷山にARをかざしてカナダの風物を眺める展示が楽しめた

船でチリへ:木組みとマクンを運ぶ

 CLT(Cross Laminated Timber)は釘を使わずに木材を組む工法だ。

チリパビリオン
チリパビリオン

 チリ館はこの技術で内部構造を「移動可能」にした。200人の女性が3ヶ月かけて織った700kgの巨大織物「マクン」。242平方メートルの芸術作品はチリ先住民の伝統的な柄で、本来は衣類として使われるものだ。星空、花、雲など自然や宗教に関連する模様が織り込まれている。この作品を支えるCLT工法の木組み構造と一緒に、チリへ船で運ぶ。

 「遊牧的な構造(nomadic structure)」と担当者は表現した。B型パビリオンの建物本体は残るが、内部の木組みを解体して運び、チリで再び組み立てる。チリ国民全員がアクセスできる場所に再建する計画だ。仮設展示が永久展示になる瞬間を、これから迎えることになる。

建物の内部に巨大な木組みをもうけ、先住民族の織物「マクン」を展示した
建物の内部に巨大な木組みをもうけ、先住民族の織物「マクン」を展示した

 万博でのテーマ開発部門銅賞受賞も、この構想を後押しした。

駅で測定、続く:大阪ヘルスケア

 「リボーン体験」という健康測定サービスが、6ヶ月で蓄積したデータと仕組みを万博後も活かす。

大阪ヘルスケアパビリオン
大阪ヘルスケアパビリオン

 JR西日本の44駅に測定器がすでに設置されている。新大阪、大阪、天王寺といった主要駅で、万博を体験した人もしなかった人も健康チェックできる。共同事業体が運営を引き継ぎ、事業として継続する。測定項目は万博より少ないが、アプリ登録すれば継続的な健康管理サービスを受けられる。

大阪ヘルスケアパビリオンの「カラダ測定ポッド」は、ヘルスケアサービスとして継続展開される
大阪ヘルスケアパビリオンの「カラダ測定ポッド」は、ヘルスケアサービスとして継続展開される

 建物も一部(約2000㎡)と土地が残る。民間事業者へ売却し、条件は「先端医療、国際医療、ライフサイエンスに係る事業」を10年間実施することだ。10月8日の大阪府議会でも正式に答弁された。測定データ(非個人情報)は研究開発用に提供され、産業発展に貢献する。

 万博跡地が、ヘルスケア産業の拠点に変わっていく。

人工培養肉などの大阪ヘルスケアパビリオンの未来の技術は各社が研究開発を進めることになる
人工培養肉などの大阪ヘルスケアパビリオンの未来の技術は各社が研究開発を進めることになる

 パビリオンの解体が始まる。でもそれは終わりではない。

 建材は次の建築へ、データは事業開発へ、技術は社会実装へ。パナソニックのファサードフレーム1404個は2027年の横浜へ。チリのCLT木組みは本国で再建される。大阪ヘルスケアの測定器はJR44駅で稼働を続け、オーストラリアのモジュラー部品はトラッキングシステムで管理されながら次の現場を待つ。

 183日間の万博は、これから長い第二幕を迎える。

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