
画像提供, PA Media
画像説明, ハドゥシュ・ケバトゥ元受刑者は、「移民ホテル」に滞在していたエッピングで、2件の性的暴行の罪で有罪判決を受けた
1時間前
イギリス・エセックス州で今年夏に難民の受け入れに関する抗議活動が始まるきっかけとなった事件をめぐり、性的暴行などの罪で有罪判決を受け収監されていたエチオピア出身の男性が、同国に強制送還された。送還に際し、男性は妨害すると脅し、イギリス政府から500ポンド(約10万円)の支払いを受けた。
英首相官邸の報道官は500ポンドの支払いについて、より多くの時間と費用がかかる手続きに代わる手段として、送還チームによって行われたと説明した。
ケバトゥ元受刑者は29日早朝、エチオピアの首都アディスアベバに到着した。エチオピア警察はBBCに対し、同元受刑者は空港で一時的に警察官によって拘束されたが、釈放されたと述べた。
エチオピア連邦警察の広報責任者を務めるジェイラン・アブデ氏は、「彼を引き続き拘束する法的根拠は存在しなかった」と述べた。
ケバトゥ元受刑者はエチオピアに到着後、英スカイニュースに対し、イギリスで再逮捕される前日、警察に自首しようとしたが無視されたと語った。
「私は警官に言った。見てくださいおまわりさん、私は指名手配されている。逮捕されている。自首します、お願いだ、警察署はどこですかと。でも警官は私を無視して、車で走り去った」
ロンドン警視庁は声明で、「ケバトゥが25日朝に警察官に接触したという主張を裏付ける証拠は確認されていない」としている。
また、「26日朝に彼を目撃した警察官の対応は、捜索活動に対する真剣な姿勢を示している。ケバトゥの逮捕された朝の行動は、自首しようとする者より、警察官から逃れようとする者のものに近かった」と付け加えた。
500ポンドの支払い
イギリスの首相報道官は、ケバトゥ元受刑者が「強制送還された」と述べ、航空機には5人の護送担当者が同行したと説明した。
移民の有償での送還は通常、「円滑な帰国支援制度」の下で行われている。この制度では、イギリスからの出国に同意した外国籍者に1500ポンドが支給される。
英首相官邸は、ケバトゥ元受刑者がこの制度に申請したものの、却下されたと明らかにした。
BBCは取材で、政府が同元受刑者を一刻も早く送還し、1500ポンドは支払わない方針だったため、申請は認められなかったとの情報を得ている。
一方、「強制」送還では通常こうした支払いは伴わないが、円滑に手続きを進めるために、送還チームが支払いを決定する場合がある。
関係筋によると、ケバトゥ元受刑者への支払いの決定は閣僚ではなく、送還チームによって行われたという。
首相報道官は、「この支払いによって、拘束、新たな航空券の手配、さらには法的請求への対応を含む、納税者にとってより時間と費用がかかる手続きが回避された」と述べた。
一方、最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、500ポンドの支払いについて、「納税者の金を無駄遣いする非常識な行為だ」と非難した。
ベイドノック氏は「ハドゥシュ・ケバトゥは即座に送還されるべきだった。釈放され、小遣いを持たされて帰国するべきではなかった」と述べ、「保守党は欧州人権条約(ECHR)から離脱し、すべての外国人犯罪者を送還するという真剣な計画を持っている」と語った。
野党・自由民主党も、この支払いを「非常識だ」と批判し、「人々が怒るのは当然だ」との見解を示した。
リフォームUKは、この支払いを「最大級の侮辱だ」と表現。同党の政策責任者を務めるジア・ユスフ氏は、「政府は国民の安全を守ることに失敗し、犯罪者を拘束することにも失敗し、その過程で納税者の金を際限なく浪費している」と述べた。
誤釈放についての独立調査
ケバトゥ元受刑者は24日、外国籍犯罪者を対象とした「早期送還制度(ERS)」に基づき、チェルムズフォード刑務所から移民収容施設へ移送され、エチオピアに送還される予定だった。しかし誤って釈放され、2日後にロンドン北部で再逮捕された。この事態についてデイヴィッド・ラミー司法相は、「明らかな人的ミス」と表現していた。
シャバナ・マムード内相は29日、ケバトゥ元受刑者の送還を公表した際、「先週の失態は決して起きてはならなかったものであり、私もこれについて、国民の怒りを共有している」と述べた。
また、「私はケバトゥ氏を国外退去させ、イギリスの領土から排除するために、あらゆる手段を講じた。この卑劣な、子どもに対する性犯罪者が送還されたことを確認でき、喜ばしく思う。これによって、我々の街はより安全になった」と語った。
内務省のアレックス・ノリス次官はBBCの取材に対し、同様の事態を防ぐために刑務所内で「即時の管理措置」が講じられたと説明。受刑者が送還のために刑務所を出る際の「より厳格な」チェックを含む対策が導入されたと述べた。また、ケバトゥ元受刑者のケースに関する独立調査によって教訓が導き出される予定だと述べた。
この独立調査では、ケバトゥ元受刑者が釈放された経緯や、職員が十分な経験・訓練・技術を持っていたかなどが検証される。
調査委員長には、元ロンドン警視庁副警視総監のデイム・リン・オーウェンズが就任。ケバトゥ元受刑者の被害者とも面会した上で、誤った釈放の再発防止に向けた提言を行う予定だ。こうした誤釈放は、近年増加傾向にある。
ケバトゥ元受刑者の誤釈放については、これまでに刑務官1人が停職処分とった。また、今週はチェルムズフォード刑務所からERSに基づく移送は行われないという。
14歳の女子生徒に触り、キスしようと
ケバトゥ元受刑者は、7月7日と8日にエセックス州エッピング市内で女子生徒に触れ、キスしようとしたとして逮捕され、裁判で有罪とされ9月に禁錮1年の刑を言い渡された。
裁判によると、ケバトゥ元受刑者は少女にキスをしようとし、太ももに手を置いた。また、別の子どもにキスをするよう少女に求め、自分はそれを見ていた。さらに、この現場に介入した成人女性の太ももにも手を置いた。
イギリスでは2007年国境法に基づき、外国籍の人物が有罪判決を受け、12カ月以上の禁錮刑を言い渡された場合には、国外退去命令が出されることになっている。
裁判中、弁護側はケバトゥ元受刑者が送還を「強く望んでいる」と主張していた。
ケバトゥ元受刑者は、小型ボートで英仏海峡をわたってイギリスに到着し、エッピングの「ザ・ベル・ホテル」に難民資格申請者として滞在していた。そのことから、この事件は難民の受け入れに関する抗議活動のきっかけとなった。

WACOCA: People, Life, Style.