トランプ米大統領の新たな通商攻勢は、日本と韓国に高いコストを強いている。両国には交渉の余地がほとんど与えられないまま、関税引き下げと引き換えに、米国に数千億ドル規模の投資を約束するよう圧力を受けた。

  こうした要求は、日本と韓国が対米貿易黒字国の上位に長年位置していたことが背景にある。

  日韓は7月に投資の約束と引き換えに、貿易合意の成立にこぎ着けた。だが、この枠組みは複雑で、その後数カ月にわたって投資の規模や範囲、構造を巡り米国側との論争が続くことになった。

  日本はこれまでに米国と投資の枠組みでほぼ決着し、検討される具体的な投資プロジェクトへと焦点が移りつつある。一方、韓国は、提案された投資規模の大きさとウォン相場に影響を及ぼす恐れを理由に、米国の要求に抵抗を続けている。

US President Donald Trump in Japan

東京で会談したトランプ米大統領と高市早苗首相(28日)

Photographer:Kiyoshi OKiyoshi Ota/Bloomberg

日本は何に合意したのか?

  日本は政府系資金を通じ、最大5500億ドル(約83兆5500億円)を米国に投資することで合意した。

  両国が9月初旬に署名した覚書によると、トランプ大統領が承認した投資プロジェクトに対して45日以内に日本が資金を提供しない場合、米国は関税を再び引き上げることを検討する権利を有する。トランプ氏は、ラトニック商務長官を長とする投資委員会の勧告に基づき、プロジェクトを選定する。

  投資委員会は、別の協議パネルを通じて日本側の意見をくみ取る。プロジェクトの実施期限はトランプ氏の大統領任期がまさに終わる2029年1月19日に設定されている。

  米国側は日本がこの合意を誠実に履行し、資金提供を怠らない限り、関税を引き上げる意図はないとしている。裏を返せば、資金を提供しなければ再び関税が引き上げられる可能性がある。

  当初の条件では、投資で得られる利益の最終的な分配は米国が9割、日本が1割とされている。

韓国は何に同意したのか?

  韓国は3500億ドルの対米投資を約束したが、その実施方法についてまだ決着していない。

  李在明大統領はトランプ氏の訪韓前、投資の規模や時期、利益の分配など「全て」の主要項目で難航していると述べていた。

関連記事:3500億ドル投資計画巡る米韓協議、全項目でなお難航-李大統領

  日米の合意とその条件は、韓国政府関係者に衝撃を与えた。金民錫首相は、米国がドルを通貨スワップで供給しない限り、この約束を履行すれば韓国経済に深刻な打撃が及ぶと警告した。

  さらに、9月に米ジョージア州の現代自動車とLGエナジーソリューションのバッテリー工場が米移民当局の強制捜査を受け、数百人の韓国人労働者が拘束された出来事は韓国社会を揺るがし、既存の米国投資にすら疑いを生じさせた。

合意を巡る、その他の不透明な点は

  トランプ氏は、合意では日韓が前払いで資金を拠出することになっていると主張しているが、日韓の当局者はそれぞれ、投資は融資や融資保証の形をとり、直接的な出資は少額にとどまると説明している。

なぜ日本と韓国は巨額の投資に合意したのか?

  大型投資を約束したことで、両国はトランプ氏が一時示唆していた25%でなく、関税を15%とする合意を取り付けることができた。ただし、自動車や自動車部品に対する個別の関税は、トランプ氏の大統領令が出るまで25%のまま残った。

  日本は当時の石破茂首相の政治的な地位低下が始まっていたが、自動車関税の引き下げを求めて交渉に素早く動いた。業界の試算によると、日本は国内総生産(GDP)の約10%を自動車業界が稼ぎ出し、全労働力のおよそ8%が関連業界で働いている。

約束された投資の規模は対GDP比でどれほど大きいのか?

  日本にとって、約束された投資額は2024年末時点のGDPの約14%に相当する。必要となるドルは、外貨準備の半分弱に当たる。

  韓国が背負う相対的な負担は、日本よりもはるかに重い。約束された投資額は24年時点のGDPの約20%に及び、外貨準備の80%前後に相当する。

  日本の対米貿易黒字は昨年で685億ドルと、7番目に大きかった。貿易黒字がこの先も変わらないと仮定すれば、日本が約束した投資額の規模は、トランプ氏の2期目の間に日本が計上するであろう貿易黒字額合計のおよそ2倍になる。韓国の対米貿易黒字は日本よりやや小さく、660億ドルだった。

日本が検討している具体的なプロジェクトの内容は?  

  日本の経済産業省は実際に投資に向けて動き始めていることを示すため、トランプ氏の訪日時に対米投資に関心を示している企業とプロジェクトの一覧を公表した。プロジェクトの件数は20を超え、ソフトバンクグループやウェスチングハウス、東芝などが名を連ねた。

  経産省によると、これらの企業はエネルギーや人工知能(AI)、重要鉱物などの分野での合弁事業を模索している。

  米国との関税交渉を率いた赤沢亮正経産相によれば、それぞれのプロジェクトの規模は3億5000万ドルから最大で1000億ドルに上るものもあり、総額約4000億ドルに達する可能性がある。

経済や金融市場に対する潜在的な影響は?

  市場関係者の間では、日本から米国への投資急増は円相場を下押しするだろうとの見方が広がっている。

  一方、これらの投資は日本が既に保有するドルを主に使い、外国為替資金特別会計を通じて実施するため、為替市場への影響はあったとしても最小限だと、赤沢氏は説明している。

  日本は米国にとって既に最大の投資国で、新たに資金をつぎ込めば企業はますます日本からの輸出でなく米国での生産を選ぶようになり、日本の産業空洞化が進むとの懸念がある。こうした懸念に対し、政府は対策を検討中だ。

  韓国も同様の懸念を抱え、為替への影響は日本よりも大きい可能性があるとみられている。

  韓国銀行(中央銀行)は外国為替市場に影響を及ぼさずに供給できるのは年200億ドルが上限だとの認識を示した。同国メディアによれば、韓国は年間投資額をその水準以下に抑えるよう主張しているが、米国はそれ以上を求めている。

原題:How Trump Is Extracting $900 Billion From Japan and South Korea(抜粋)

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