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画像説明, 自民党の新総裁に選ばれた高市早苗氏
2025年10月4日
自民党の総裁選挙が4日、投開票され、高市早苗前経済安全保障相(64)が選出された。石破茂首相から総裁の座を引き継ぎ、初の女性総裁に就任した。近く開かれる国会の首相指名選挙で、日本初の女性首相に選ばれる公算が大きい。
高市氏は選出直後のあいさつで、党議員らを前に、「全世代総力結集で、全員参加でがんばんなきゃ(自民党は)立て直せませんよ」と強調。「全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。私自身も、ワークライフバランスという言葉を捨てます」と宣言した。
高市氏は党本部で午後6時から、新総裁として初めて記者会見に臨んだ。「自民党の景色を少し変えることができるのではないかと思っている」と述べた上で、党内人事については「全員活躍、全世代総力結集」で取り組む自民党にしたいと話した。
取り組む課題については「何としても物価高対策に力を注ぎたい」と強調。外交については、「外交も安全保障も大変難しい時期」なだけに「まずは日米同盟の強化をしっかりと確認し合うことも大事だ」とした上で、他の国々との協力も必要だと話した。
衆参両議院で自民党が少数与党のため野党の協力が必要な状況で、連立の枠組みを拡大するのかという質問には、「基本的な考え方の合う政党、特に自民党の党是である憲法の改正や、外交政策、安全保障政策、財政政策などはしっかりと議論した上で、お互いに納得できたらそういう形がつくれるとうれしい」と答えた。

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画像説明, 自民党本部で新総裁として初めて記者会見に臨んだ高市氏
自分は「ワークライフバランス」捨てる
立候補したのは高市氏と、届け出順に小林鷹之元経済安全保障相(50)、茂木敏充前幹事長(69)、林芳正官房長官(64)、小泉進次郎農林水産相(44)の計5人だった。
東京都内の党本部で午後1時に始まった1回目の投票は、国会議員票(295)と党員・党友票(295)を合わせた590票で争われた。
党の規定で、過半数を得る候補者が出れば当選だったが、1位となった高市氏は183票(国会議員票64、党員・党友票119)で、過半数に届かなかった。
そのため、2位で164票(国会議員票80、党員・党友票84)を得た小泉氏と、候補者2人による決選投票が開かれた。
3位の林氏(国会議員票72、党員・党友票62、計134票)、4位の小林氏(国会議員票44、党員・党友票15、計59票)、5位の茂木氏(国会議員票34、党員・党友票15、計49票)は決選投票に進めなかった。
決選投票は、国会議員票と都道府県連票(47)で争われた。その結果、高市氏は185票(国会議員票149、都道府県連票36)、小泉氏は156票(国会議員票145、都道府県連票11)で、高市氏の当選が決まった。
直後にあいさつに立った高市氏は、「うれしいというよりも、本当にこれからが大変だ。みなさんと一緒に力を合わせてやらなければいけないことが山ほどあると思っている。たくさんの政策、それもスピーディーに実行しないといけないことがたくさんある」と述べた。
また、「みなさんとともに、自民党をもっと気合の入った、明るい党にしていく。多くの方の不安を希望に変える党にしていく。そのための取り組みも必要だ」と訴えた。
「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てる。働いて、働いて、働いて、働いて、働いていく」と力説し、「これから私はちゃんと謙虚にやってまいりますので……いま『そう!』という声が聞こえました。さまざまなご指導をたまわりますようお願い申し上げます」と結んだ。
続いて石破氏があいさつ。「一人ひとりの幸せを実現するために自由民主党はある。高市新総裁の下で……あそこまではっきり『ワークライフバランスやめた』と言われると大丈夫かーいう気がせんではないでありますが、高市新総裁の己を捨てて、全身全霊、国家国民のために、次の時代のためにという決意の表れだと思っている」と述べた。
そのうえで、「国家のため、国民のため、世界のため、次の時代のため、高市新総裁の下、みんなで一致団結し自由民主党が役割を果たすことができるよう、心からお願いする」と呼びかけた。
今回の総裁選では、自民党が裏金問題などを受け、直近の参院選と衆院選で敗れたことなどから、各候補が「解党的出直し」を訴えた。ただ、議論は低調だとの評価が目立った。
日本版「鉄の女」という野望に近づく
シャイマ・ハリル日本特派員(東京)
日本の与党で保守の自民党が、高市早苗氏を新総裁に選出した。高市氏は日本初の女性首相となる見通しだ。
高市氏は、党内でも右寄りで保守的と位置づけられている。これから、スキャンダルや内部対立に揺れた激動の数年間で苦境に陥った党の結束実現を含め、多くの課題に向き合うことになる。
それには、低迷する経済や、厳しいインフレ、上昇しない賃金などに苦しむ日本人の家計の問題も含まれる。
国会で首相に指名されれば、難しい日米関係のかじ取りをし、石破政権がトランプ米政権との間で合意した関税協定をまとめ上げる任務を負う。
石破首相は就任から1年足らずの先月、自民党連立政権が衆参両院で過半数を失う結果となった一連の選挙での敗北を受け、退陣を表明した。
テンプル大学東京校アジア研究科ディレクターのジェフ・キングストン教授はBBCに対し、高市氏が「党内の亀裂修復で大きな成功を収める可能性は低い」と話した。
高市氏は自民党の「強硬派」に属している。そしてその強硬派は、「自民党の支持が崩壊した理由は、右派としてのDNAとのつながりを失ったことにある」と考えているのだと、キングストン教授は説明。「(高市氏は)右派の有権者を取り戻すことはできるかもしれないが、それで総選挙に突入した場合、幅広い国民の支持を代わりに失うことになると思う」と述べた。
高市氏はかねて、イギリス初の女性首相となった故マーガレット・サッチャー氏を「あこがれの人」と呼んできた。そしていま、「鉄の女」(サッチャー氏の異名)を目指す自分自身の野望の実現に近づいている。
だが、多くの女性有権者は、彼女を進歩の推進者とはみていない。
「彼女は『日本のマーガレット・サッチャー』を自認しているが、財政規律の面ではサッチャー氏とは程遠い」ともキングストン教授は話す。
「しかし、サッチャーと同じように、彼女は何かをいやすのが決して上手ではない。女性の力を高めるために、それほど何かをしたとは思えない」。
高市氏は強固な保守派だ。女性が結婚後も旧姓を名乗ることを認める法案には、伝統に反するという理由で長年反対してきた。また、同性婚にも反対している。
故安倍晋三元首相の後ろ盾を得ていた高市氏は、積極的な財政出動と金融緩和を伴う経済ビジョン「アベノミクス」の復活を誓っている。
安全保障に関してはタカ派で、日本の平和主義憲法の改正を目指している。
高市氏はまた、第2次世界大戦で戦犯とされた日本人を含む戦没者たちをまつり、物議を醸している靖国神社をたびたび参拝している。
高市氏は国会で首相に指名される可能性が高い。ただ、与党は衆参両院で過半数を失っているため、これまでの自民党総裁のように自動的というわけではない。

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