 photo:Andrew Roland/shutterstock
photo:Andrew Roland/shutterstock 
2025年9月下旬、イギリス(イングランド)南部・ウェストサセックス州のパガム海岸に、奇妙な巨大物体が打ち上げられた。
波打ち際に横たわるそれは、黒い触手のようなものを無数に伸ばし、表面は白く硬い殻で覆われていた。地元の人々が「エイリアンの卵では?」とSNSに投稿した写真は瞬く間に拡散し、「宇宙から来た生き物ではないか」と大騒ぎになった。
正体は波間を漂う甲殻類
この異形の生物の正体は、実は地球「内」生命体だ。甲殻類の一種「エボシガイ(Goose Barnacle)」である。フジツボの仲間で、成体になると流木や漂流物、時には船体などに固着して生活する。英語名の由来は、その姿がガチョウの首のように細長く伸びることからだ。
エボシガイは海中では珍しい存在ではないが、ここまで大量に打ち上げられるのは異例とのこと。今回は、強風と高波が続いた影響で、沖合を漂っていた流木や浮遊物が浜に押し流され、それに付着していた群れが一斉に浜へ運ばれたとみられている。
打ち上げられた塊は、ひと目にはまるで「異星生物」の群体のよう。白く光る殻と黒くうねる柄のコントラストが、不穏な雰囲気を醸し出している。
実は「海の高級珍味」だった!?
このエボシガイ、見た目とは裏腹に、南欧では高級食材として珍重されている。スペインでは「ペルセベス(Percebes)」と呼ばれ、1キロあたりおよそ100ユーロ(日本円で約1万7千円相当)もの値がつくこともある。現地ではバターやガーリックで炒めて食べるのが定番で、海のトリュフとも称される珍味だ。
ただし、今回パガムの浜に打ち上げられたものは、乾燥や日射でほとんどが死滅していた。サセックス野生動物トラストは「海に戻そうとしても助からない。むやみに触らない方がいい」と注意を呼びかけている。
サセックス州でなぜ頻発? 気候変動と潮流のいたずら
実はサセックス沿岸での「エボシガイ大量漂着事件」は今回が初めてではない。過去にも強風のあとに同様の群れが発見されている。イギリス南部の海流はパガム湾に向かって収束しやすく、漂流物が浜辺に溜まりやすい地形なのだという。
さらに、気候変動による海水温の上昇も影響している。エボシガイは温暖な海域を好む。かつては南ヨーロッパの海に限られていた「漂流者」たちが、いまやイングランドのビーチに姿を見せるようになったのだ。
今後も出現の可能性大。
見た目こそ異星生物のようだが、その正体は地球の海が生み出した自然現象。サセックスの浜辺は、気候と海流の変化を映す「生きた観測地点」となりつつある。
現地ではこの「エイリアン騒動」が一段落した今も、強風のたびに同様の漂着が起きる可能性が指摘されている。今回のように不審な海洋漂着物を発見した際には、触らずに自治体や保護団体に連絡することが賢明だ。
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Large amount of unusual looking creatures wash up on beach https://t.co/eENEt18dsl
— Brighton Argus (@brightonargus) September 27, 2025
エボシガイの大群。@brightonargus-X
 
						
			
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