安倍晋三氏は通算6年の首相在任を経てから初めてトランプ米大統領の訪日に臨んだが、新首相の高市早苗氏に与えられた準備期間はわずか6日余りだった。

    そのため高市氏は、師と仰ぐ安倍氏のトランプ氏対応マニュアルに倣った。すなわち称賛と敬意、金メッキの贈り物で歓待するという戦略だ。これが功を奏したようだ。

  前首相の石破茂氏は2月のホワイトハウスでの日米首脳会談で、引き分けを狙うようなスタンスだったが、今回の首脳会談は対照的に安倍氏の全盛期を思わせる内容となった。

  2022年に殺害された安倍氏は、政権1期目のトランプ氏と良好な関係を築いた。そのアプローチは、今も多くの経営者や各国首脳が活用している。

  高市氏の国際経験は限られており、外相や防衛相を務めたこともない。しかし、首相として最初に迎える外国要人が世界で最も重要な人物であるにもかかわらず、その未経験ぶりが足かせになる様子は見られなかった。

  トランプ氏は高市氏を偉大な首相の1人として歴史に名を残すだろうと持ち上げ、「日本のために私ができることがあれば、私たちは必ず応える」と述べた。

  21日の首相就任からの1週間は、高市氏にとって絶好の滑り出しとなった。新首相として非常に高い支持率が世論調査で示され、日経平均株価は27日に初めて5万円を突破。高市政権への期待が日本株を押し上げた。

  28日午前の首脳会談開始が遅れたのは、トランプ氏が高市氏と共に米大リーグのワールドシリーズをテレビ観戦していたためだ。ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が2本塁打を放ち、チームの勝利に貢献したことも、高市氏を喜ばせただろう。

効果的な戦略

  米大統領の訪日は日本にとって、一大イベントだ。NHKは特別番組を編成し、エアフォースワン(大統領専用機)の羽田着陸や都内の車列走行を生中継した。皇居前にはトランプ氏をひと目見ようと人々が集まった。

  トランプ氏にとっても、日本訪問は心地よいに違いない。迎賓館赤坂離宮の金色を多用した大広間は、同氏の趣味に通じる内装だ。

  他国訪問のように大規模な抗議デモや風刺のバルーンに出迎えられることもなく、周到に準備された行事と贈り物が続く。2019年の訪日時には相撲好きのトランプ氏のため、優勝力士に特製トロフィーを授与する演出も行われた。

  こうしたもてなし方を実践したのは、安倍氏だ。トランプ氏は高市氏に対し、安倍氏を「偉大な友人」と呼び、生前に高市氏のことを語っていたと話した(くしくも28日、安倍氏銃撃事件で殺人罪などに問われた山上徹也被告の初公判が、高市氏の地元、奈良で始まった)。

  安倍氏はトランプ氏との関係をゴルフ場で築いたことで知られる。高市氏はドラムやバイクを愛好するが、ゴルフとは縁が薄い。

  それでも今回は、安倍氏が使っていたパターや金箔で覆われたゴルフボール、17年にトランプ氏とラウンドした松山英樹選手のサイン入りバッグをトランプ氏に贈った。

  高市、トランプ両氏がサインした帽子には「JAPAN IS BACK(日本は復活)」との文字があしらわれていた。これは安倍氏の決めぜりふで、高市氏がスローガンとして継承している。

  さらに、来年の米国建国250周年を記念して日本製の花火や桜の木250本を贈る計画や、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦する意向も示された。

  こうした過剰な敬意を気恥ずかしいと感じる向きもあるかもしれない。しかし資源に乏しく、米国の安全保障に依存する日本にとって外交は生命線だ。しかもトランプ氏は伝統的な外交儀礼よりも個人的関係と権威の象徴を重視するため、この戦略は効果的だと言える。

  日本側のコストはほとんどなく、高市氏は自らの師をしのぶ形でその遺志を受け継ぐことができる。安倍氏とイデオロギーで対立していた石破氏には不可能だったことだ。

  各国首脳は公の場でトランプ氏に逆らうのは得策でないと理解しており、難しい相手を手なずける「猛獣使い」と呼ばれた安倍氏でさえ、公の場では控えめな姿勢を見せていた。もっとも、非公開の場では率直な意見交換もしていたという。

  もちろん、幸先の良いスタートが長期的な成果を保証するわけではない。石破氏も初会談こそ無難に終えたが、その後の貿易摩擦の中で関係は悪化した。

  日本で首相が頻繁に交代することも、トランプ氏が重視する個人的な信頼関係の構築を妨げる。だからこそ高市氏は、就任初週の成功を足がかりにして、その勢いを維持し、実質的な成果を残せるだけの期間、政権を安定させる必要がある。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)  

原題:With Trump, Flattery Will Get Takaichi Everything: Gearoid Reidy (抜粋)

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