2025年10月27日 午前7時30分
【論説】室町時代に成立し、江戸時代には「武家の式楽」として祝い事や供宴の際に演じられた能楽。その500年に及ぶ歴史を、現代に受け継がれた装束や面を通し紹介する特別展「能と狂言―桃山の遺風―」(福井新聞社共催)が、福井市立郷土歴史博物館で開催中だ。重要文化財の華やかな能装束が並ぶ一方で、越前の能楽にも光を当てている。古くから高名な面打ちを輩出した土地であり、福井藩主松平家も愛好した文化の奥深さに触れられる。
林原美術館(岡山市)が所蔵する、岡山藩主池田家伝来の名品を中心とした展示で、桃山から江戸時代にかけての能装束や面を披露している。桃山は城郭や寺社建築、絵画、工芸、茶の湯などさまざまな文化が花開いた時代。能装束の意匠もまた、当時の染織技術の発展を映している。
前期(29日まで)展示の重文「菊桐亀甲模様唐織小袖(きくきりきっこうもようからおりこそで)」は、刺しゅうと見まがう花模様を織って作る唐織で、その精妙さに目を見張る。当時の能装束は貴人が役者に与えた着物というが、非常に手が込み豪華だ。
同じ唐織で江戸時代の作の能装束「紅萌葱茶段流水菊枝唐織(べにもえぎちゃだんりゅうすいきくえだからおり)」は、金糸を用いており、さらに華やか。これは彦根城博物館(滋賀県彦根市)所蔵で、近年、越前松平家伝来の品と判明したという。後期(11月1~24日)でも同様の唐織や縫箔(ぬいはく)(刺しゅう)の着物が見ることができ、初の里帰り展示となる。福井藩10代藩主松平宗矩(むねのり)が、能に関する見聞や、同家所有の能装束の数や種類などをまとめた「乱舞見聞集(らっぷけんぶんしゅう)」も並ぶ。それによると、同家には1500に及ぶ能装束が伝来していた。福井城の「御本丸御殿ノ図」には能舞台が見え、武家において能楽が重視されていたことが分かる。
一方で越前は面打ちを多く輩出した地で、その歴史は中世にさかのぼる。会場入り口で来場者を迎える能面「小面(こおもて)」「痩女(やせおんな)」は、ともに江戸時代の大野出目家5代洞水萬毘の作。小面は10代の女性の清純さをたたえ、対照的に痩女は妄執にとらわれた暗い表情が胸に迫る。大野出目家、越前出目家は幕府御用を勤めた。
展示には県内に伝わる能面、狂言面も並んでいる。佐々木佳美学芸員によると、県内には中世以前にさかのぼる追儺(ついな)面や舞楽面があり、特に多くの翁(おきな)面が残るのが特徴といい、越前の芸能の背景に「霊峰白山への信仰」があるとみる。両出目家の祖は、白山信仰の拠点である平泉寺の三光坊に師事したという。特別展を、能楽から福井の文化の豊かさを知る機会としたい。

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