トランプ米大統領がロシア石油産業に対して2期目で初となる本格的な制裁を発動すると、原油市場は一時混乱に陥った。ロシア産原油の主要な輸入国であるインドの製油企業は購入を停止する方針を示したほか、中国の製油企業にも衝撃が広がり、原油価格は6%急騰した。
状況がやや落ち着いた今、米国がより微妙なかじ取りを行う意向であることが分かってきた。具体的には、自国の影響力を駆使してロシアに打撃を与えつつも、同国の巨大な原油輸出を完全には崩壊させないようバランスを取る見通しだ。
トランプ政権は22日、ロシア石油大手のロスネフチとルクオイルを制裁対象リストに追加したと発表。同時に、同2社と取引した外国の金融機関は米金融システムから締め出される可能性があると警告した。ドル取引に依存する企業にとっては致命的な制約となる。トランプ氏は、こうした措置によってロシアのプーチン大統領をウクライナ戦争終結に向けた交渉の場につかせることを望むと述べている。
事情に詳しい関係者によると、米政権の狙いはロシアの石油輸出をより困難で高コスト、かつリスクの高いものにする一方で、世界の原油市場を混乱させるような急激な供給ショックを避けることにある。つまり、ルクオイルとロスネフチを標的にしながら、両社の原油を購入するすべての企業に無差別な制裁を加えることは少なくとも当面避ける方針だという。
今回の措置は、1月に制裁対象となったガスプロムネフチとスルグトネフテガスに続くもので、これら4社で今年上半期におけるロシア原油輸出の約70%(日量約310万バレル)を占める。
「ロシアは引き続き原油を販売し続けるだろうが、今回はこれまでよりはるかに困難になる」と語るのは、ロシアの石油・ガス業界出身で現在コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センターに所属するタチアナ・ミトロワ氏だ。「1月の制裁後、取引は小規模な仲介業者を通じてすぐに迂回(うかい)されたが、今回は規模が大きく、金融面での制約も格段に厳しい」という。
ミトロワ氏は、結果として輸送時間の長期化、銀行の消極姿勢、運賃や保険料の上昇を予想。「いずれ新たな『影の取引ルート』が出現するだろう」とする一方、「調整には時間がかかり、価格のディスカウント一段と拡大する」と語った。
制裁は資金調達と取引を制限するが、標準的な30日間の猶予期間を設けており、将来的に広範に制裁を執行する余地を残している。
制裁発表から数時間以内に、インド最大の民間製油会社でロシア産原油の主要な購入者であるリライアンス・インダストリーズは、30日間の猶予期間が終了する11月下旬以降のロスネフチからの購入を停止したと、事情に詳しい関係者が明らかにした。

アラスカ州で会談したプーチン氏とトランプ氏(8月15日)
Photographer: Al Drago/Bloomberg
原題:Trump Sanctions Look to Tighten the Screw on Russia’s Oil Income(抜粋)
— 取材協力 Alberto Nardelli, Samy Adghirni, Magdalena Del Valle, Anthony Di Paola, Mia Gindis, Jack Wittels, Devika Krishna Kumar, Archie Hunter and Will Kubzansky

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