イギリスでたびたび起きる反移民デモ(写真:ロイター/アフロ)
世界各地で排外主義が渦巻いている。移民が増える日本でも反感の気運が高まっているが、多くの移民と共存してきた欧米の国々では、こうした状況は昨日今日始まったことではない。自身も移民として海外生活を送ってきたこの人は今何を思うのか。『私労働小説 負債の重力にあらがって』(KADOKAWA)を上梓した小説家でコラムニストのブレイディみかこ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──2023年10月に発表された『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』のシリーズにあたる連作短編集『私労働小説 負債の重力にあらがって』が発表されました。
ブレイディみかこ氏(以下、ブレイディ):前作のサブタイトルは「ザ・シット・ジョブ」ですが、イギリスの高名な文化人類学者で、アクティヴィストでもあったデヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』から着想を得て書いた連作短編集でした。
1冊目が出版された後も連載が続くことになり、同じコンセプトやスタイルで続けるのも面白くないと考え、2作目は視点を変えることにしました。
前作はわりと、低賃金の報われない仕事を経験した中で感じてきた苦しみや矛盾、海外で差別的な扱いを受けた経験など、雇用されてきた私自身の視点を中心に書きました。本作では、自分の周りにいた人たちや、一緒に働いた人たちを観察する中で見えてきた部分を大事にして書きました。
私は日本、イギリス、アイルランドとさまざまなところで働いてきましたが、そうした中で普遍的に見えるおかしな労使関係について考えてきました。
グレーバーは『負債論 貨幣と暴力の5000年』という本を書きましたが、私はこれこそが彼の代表作だと思います。何を犠牲にしても、たとえ命を失っても、とにかく借金というものは返さなければならない。これが現代社会の鉄則で、負債を返済する道徳に私たちの世界は支配され過ぎている、と彼はこの本の中で語っています。
私たちは働いて月末にお給料をもらいますが、よく考えてみると、給料をもらう前は、こちら(労働者)の側が労働力を貸している。労働者が債権者で、雇用主はそこから借りている状態なのに、忠誠心を求められたり、副業を禁止されたり、貸している側が従う構図になりがちで、関係性が転倒しています。
それは私たちが「雇ってもらっている」という意識を持ち、御恩と奉公のような従属関係を築いているからです。そうした転倒した負債道徳の中で、どのように人を使ったり、人に使われたりしているのかをわりと意識しながら今回は1作品ずつ書きました。

WACOCA: People, Life, Style.