アフリカのスタートアップシーンは、これまで「ビッグ4(南アフリカ、ナイジェリア、ケニア、エジプト)」とフィンテック企業が資金調達を独占してきました。

しかし、近年のデータは、その構造に変化が起きていることを示しています。「Africa: The Big Deal」の最新レポートによると、資金調達は一時的な減速を見せつつも、より多様な国と分野に広がりを見せており、アフリカのスタートアップエコシステムは成熟段階に入りつつあります。

本記事では、最新の資金調達動向と今後の展望を詳しく解説します。

フィンテック一極からの脱却、産業の多様化が進む

アフリカでは依然として「ビッグ4」と呼ばれる4か国がスタートアップ資金調達を牽引しています。

2019年以降、最も多くの資金を集めた上位100社のうち80%が南アフリカ、ナイジェリア、ケニア、エジプトのいずれかに拠点を置いています。

南アフリカが23社でトップ、僅差でナイジェリアが22社と続きますが、上位20社ではナイジェリアがリードし、OpayやFlutterwaveといったフィンテック企業がその中心を占めています。

しかし注目すべきは、ケニアの多様性です。ケニアの上位17社のうち、フィンテック企業はわずか2社にとどまり、大多数がエネルギーや農業など他分野に属しています。

これに対して南アフリカは23社中15社がフィンテック関連であり、国ごとの産業構造の違いが明確に現れています。

エジプトやナイジェリアではフィンテックが資金調達の約半分を占めていますが、ケニアのようにエネルギーやアグリテックが台頭する国が増えつつあります。

また、ガーナやルワンダ、ベナン、コンゴ民主共和国(DRC)など、ビッグ4以外の国々も徐々に存在感を高めています。特にガーナは5社が上位100社にランクインしており、西アフリカ全体が新たな成長の中心地となりつつあるのです。

2025年に向けた投資環境、短期的な減速も長期的成長へ

2025年8月の資金調達は、7月の活況の反動からやや静かな月となりました。「Africa: The Big Deal」によれば、33社のスタートアップが10万ドル以上の資金調達を行い、総額は約9,300万ドルに達しました。これは2024年8月を上回る水準であり、決して悲観的な数字ではありません。

その中でも注目されたのは、エジプトのフィンテック企業valUによる900万ドル超の証券化債券発行です。また、ナイジェリアのChowdeck(900万ドルシリーズA)、ケニアの医療ガス供給企業Hewatele(1,050万ドル)、エジプトのBreadfast(1,000万ドルシリーズB2)、ナイジェリアのKoolboks(1,100万ドルシリーズA)、ルワンダのAmpersand(8桁台の新ラウンド)など、各国で多様な分野の企業が資金を集めています。

特にエジプト、ケニア、ナイジェリアの3か国が全体資金の75%を占めるなど、引き続きアフリカの投資の中心地として機能しています。

さらに、南アフリカではネッドバンク(Nedbank)が決済企業iKhokhaを9,300万ドル超で買収するなど、エグジット(事業売却)も活発化しています。これにより、投資資金の循環構造が整いつつあることが示唆されています。


画像引用元:Africa: The Big Deal

エコシステムの成熟と新たな潮流、「気候テック」が台頭

アフリカ全体では、2025年にすでに総額20億ドルの資金調達が確認されており、そのうち10億ドルは株式によるものです。このペースが維持されれば、2024年を上回り、年間合計が30億ドルに達する可能性もあります。

特に「クライメートテック(気候テック)」と呼ばれる分野が勢いを増しており、上位100社のうち26社が該当しています。クリーンエネルギーやグリーンモビリティなど、環境に配慮したソリューションが次の投資対象として注目を集めています。

また、資金面だけでなく、投資家育成の取り組みも広がっています。アフリカン・エンジェル・アカデミー(African Angel Academy)は第12期生の募集を開始し、アフリカ全土で新しい投資家層の育成を支援しています。

このような人材育成と資金調達の両輪が、アフリカのスタートアップエコシステムを一層強固なものにしています。


画像引用元:Africa: The Big Deal

月ごとの変動はあるものの、アフリカのスタートアップ投資環境は確実に成熟の段階に入りつつあります。フィンテック一強時代から多様化への移行が進み、エネルギー・農業・気候テックなど新たな産業が台頭しています。

地域的にもガーナやルワンダといった国々が次なるハブとして存在感を増しており、アフリカのスタートアップシーンはより広く、より持続可能な成長軌道に乗っているといえるでしょう。

この動きは、単なる投資額の増加ではなく、アフリカが「世界の次の成長拠点」として自立し始めている兆しであり、2025年以降のさらなる発展に期待が高まります。

著者:Lawrence Maina (Axcel Africa Consuliting アソシエイトコンサルタント)

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