責任ある積極財政をうたう高市早苗首相の経済政策を期待し、日本市場を株高・債券安・円安へいざなった「高市トレード」は国会での所信表明演説を終え、今後は実現度合いを評価する第2章に進む。最初の関門は、来週に予定される日本銀行の金融政策決定会合とトランプ米大統領の来日だ。
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認証式後の高市政権の
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
4日の自民党総裁選での高市氏勝利を受けた第1章では日経平均株価が史上最高値を更新し、初の5万円に迫った。石破茂前首相の退陣表明から日経平均は15%高と米S&P500種株価指数を上回り、特に防衛や原子力発電関連銘柄に買いが集中した。CITIC CLSAがまとめた政策恩恵銘柄のバスケットは総裁選以降に12%高と、同期間の日経平均よりも上昇率は大きい。
一方、高市新政権による財政拡大の可能性を警戒し、債券市場では30年国債利回りが過去最高水準まで上昇。外国為替市場の円相場は対ドルで8カ月ぶりの安値へ下落した。高市氏は総裁選中に物価高対策の財源を巡り、必要なら赤字国債の発行も辞さない考えを示していた。

日本維新の会
財政出動と金融緩和の両輪で経済成長を目指す「アベノミクス」の再来とも言える「サナエノミクス」への期待が第1章の日本市場を動かしてきた半面、ストラテジストや投資家の間では政策の実現性を疑問視する声がある。少数与党だった自民党は26年共に歩んだ公明党の政権離脱を許した上、新たな連立相手に選んだのが小さな政府を志向する日本維新の会だからだ。
サクソ・キャピタル・マーケッツのストラテジスト、チャル・チャナナ氏は「依然として不確実性は高く、連立の力学を踏まえると財政政策や日銀の正常化ペースについて明確な見通しを持つのは難しい」と語る。
高市首相は初閣議で、物価高への対応などを柱とする総合経済対策の策定を表明したが、規模や赤字国債発行の有無などについては言及していない。また、昨年9月の総裁選中には日銀の金融政策を巡り「金利を今上げるのはあほやと思う」と発言。現在は強硬なトーンを封印する半面、政府と意思疎通を図ることが重要と述べており、日銀の利上げが遅れるリスクを市場は懸念している。
チャナナ氏は、自維連立政権が景気刺激を重視し、日銀も穏健な姿勢を維持すれば、「円安を追い風に株式は優位性を保つだろう」と予測。ただ、連立内の摩擦が表面化したり、日銀の金融正常化ペースが早まったりすると「円高と共に株式の勢いが鈍り、国債市場のボラティリティーも高まる可能性がある」と言う。

防衛・原子力・核融合
株式市場では、高市政権の政策実現を期待したテーマ株物色が人気だ。ゴールドマン・サックス・グループの防衛関連株バスケットは、総裁選後に13%上昇した。個別では、三菱重工業が総裁選以降の東証株価指数(TOPIX)の上昇寄与度で4位となっている。
大和証券の坪井裕豪チーフストラテジストは、公明党との連立では「防衛予算の拡大に向けブレーキがかかりやすい状況だった」と指摘。維新と高市首相の防衛費に関する考えは近く、予算の拡大は政策として進めやすいため、「銘柄として注目できる」と話す。
日銀の利上げ先送り観測で金利の先高観もやや薄れる中、不動産や建設セクターの株価も堅調。高市首相がエネルギー・資源安全保障の強化に動くとの見方から東京電力ホールディングスなど原発関連、助川電気工業など核融合関連銘柄も大きく上げた。助川電は総裁選以降に110%超上昇し、東証スタンダード市場で上昇率トップだ。

集中物色
もっとも、高市トレードが活発化した足元の株式相場はテーマ株や一部業種に人気が集中し、投資対象に広がりが見えないため、過熱感の強まりと共に短期的な調整を警戒する見方も出ている。
アリアンツ・グローバル・インベスターズのポートフォリオマネジャー、ステファン・リットナー氏は日本株への強気姿勢を維持するものの、短期的な下落に備えオプション取引のプット(売り権利)でヘッジをかけていると明かす。
リットナー氏は「日本株の急上昇を考えると、反落のリスクがある」と述べ、今後は過熱感のない業種や銘柄への循環物色が進み、消費関連や銀行株が好まれやすいとの認識を示した。銀行を含む金融株は、高市首相が金融引き締めに慎重との見方で売られ、10月のTOPIX業種別33指数の下落率上位を占めている。
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超長期債
投資家の間で超長期債の先行きに対する見方は分かれている。米資産運用会社のバンガード・グループは年内の日銀利上げを見込み、国債の利回り曲線(イールドカーブ)は短中期と長期の金利差が縮まる平たん化(フラット化)を想定。その場合に利益が得られる持ち高を構築している。
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対照的に欧州最大の資産運用会社であるアムンディは、高市政権で政府債務が拡大するとの懸念から、30年債利回りは今後数カ月で再び過去最高水準を更新する可能性があると予測する。
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アセットマネジメントOneで債券担当最高投資責任者(CIO)を務める清水岳友氏は、高市氏の総裁選勝利を受け超長期金利の上昇リスクに備え、フラット化を見込むポジションを解消した。政治が落ち着き、日銀の利上げ観測が高まれば再度フラット化するとみており、利上げが近づけば超長期債を買うと言う。

日銀会合
日銀は29、30日の日程で金融政策決定会合を開く。関係者によると、今月の金融政策決定会合で急いで利上げをしなければならない情勢にはないものの、12月を含めた早期利上げの環境が整いつつあるとみている。
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ブルームバーグがエコノミスト49人を対象に行った調査によると、日銀の利上げ時期は今月との見方が10%と前回の9月調査時点の36%から大きく減少。12月は49%と22%から拡大し、来年1月までは98%と早期の利上げ再開が市場コンセンサスになっている。
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債券と同様、円にとっても自維連立政権の政策動向は相場の方向性を左右する重要な判断材料になる。両党は連立樹立に際し、責任ある拡張的財政政策に基づく官民投資の拡大に加え、徹底した歳出改革による行政の効率化を目指すことで合意している。
東海東京インテリジェンス・ラボの柴田秀樹金利・為替シニアストラテジストは、何より海外勢を中心に高市政権へのリフレ政策イメージが根強く、円を積極的に買う材料は乏しいと話す。
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米大統領来日
27-29日の日程で来日するトランプ米大統領と高市首相の会談も、日本市場の行方を決めるかもしれない重要なイベントだ。会談を通じて通商交渉や防衛費拡大に関する進展があるかどうかにスポットライトが当たっている。
インタッチ・キャピタル・マーケッツのシニア為替アナリスト、ショーン・キャロウ氏は「関税問題が現時点ではおおむね安定しており、米国への投資に対する日本のコミットメントに一段と注目が集まる」と指摘。 為替に大きな悪影響を及ぼすことなく、米国の要求を満たすことができるのか、トランプ氏が円安について何らかの考えを共有するのかにも注意が必要と述べた。
— 取材協力 Hideyuki Sano and Issei Hazama

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