失意の結果に終わった前回のワールドカップ(W杯)後、スペイン代表は新たな黄金期を過ごしている。
3年前、スペイン代表は3大会ぶり2回目の優勝を目指したカタールの地で、懸念されていた得点力不足を露呈した。初戦のコスタリカ戦こそ7-0で圧勝したが、ドイツに1-1で引き分け、日本に1-2の逆転負けを喫し、1次リーグは2位通過。決勝トーナメント1回戦でモロッコの堅守を攻略できず、2大会連続同ラウンドでPK戦敗退という憂き目にあった。
スペイン対ブルガリア 集合写真に納まるスペインのスタメンの選手たち(2025年10月14日撮影、AP)
■22年W杯敗退でハイプレス戦術へ
敗退後、ルイス・エンリケ監督(現パリ・サンジェルマン監督)の戦い方に関してさまざまな分析が行われた。ボール支配率で圧倒したにもかかわらず、ゴール前を固めた相手に効果的な攻撃ができなかったことから、ストライカーがモラタのみでは不十分であったこと、パスサッカーに固執したことなどが特に批判された。
後を引き継いだデラフエンテ監督は、それまでのポゼッション至上主義からの脱却、サイドアタッカーのスピードを生かしたカウンター、ボールロスト後のハイプレスという戦術を掲げてスタート。初陣となった23年3月25日のノルウェー戦以降、順調に成果を挙げている。
ここまでの戦績は、35試合27勝6分け2敗(※PK戦3試合は引き分け扱い)。その間、22-23年シーズンの欧州ネーションズリーグと24年の欧州選手権を制し、24-25年シーズンの欧州ネーションズリーグは準優勝(決勝でポルトガルにPK戦負け)。結果を残し続けるスペイン代表は先月、14年6月以来11年ぶりとなるFIFAランキング首位に返り咲いた。
W杯欧州予選も4戦全勝、15得点0失点、勝ち点12でE組首位と順調で、攻守において相手を圧倒する強さを見せている。ボール支配率66・5%、パス成功率91・75%(2986本中2744本成功)とほとんどミスはなく、1試合平均25・25本(枠内10本)のシュートを放ち、3・75ゴールと高得点を記録。さらに、相手の枠内シュートはわずか4本(1試合平均1本)で、守護神ウナイ・シモンがそのすべてをセーブしている。
中でもライバルと目されたトルコにアウェーで6-0の大勝を収めたことは、世界中に衝撃を与えた。予選はあと2試合残るが、13大会連続、通算17回目の出場をほぼ手中に収めている。
さらに、直近のブルガリア戦での勝利で、公式戦の連続無敗記録を29試合に伸ばした。この成績は、W杯と欧州選手権を連覇したデルボスケ監督が10年から13年にかけて樹立した、同国代表史上最多の公式戦連続無敗記録に並ぶ素晴らしいもの。来月のジョージア戦とトルコ戦を無敗で終えた場合、イタリアの保持する世界記録(31試合)に並ぶ。
スペイン対ブルガリア スペインのデラフエンテ監督(2025年10月14日撮影、AP)
■レギュラーを確保するヤマルら6人
新たなスペイン黄金期のメンバーは昨夏の欧州選手権がベースとなっており、システムは4-3-3。堅固な守備、中盤の卓越したパスワークやゲームコントロール、スピーディーなサイドアタックが大きな武器となっている。
デラフエンテ監督はクラブで活躍した選手をすぐに呼ぶ傾向があり、選手起用の手腕が評価されている。その一方、フィジカルコンディションが万全でない選手を酷使しているとしてバルセロナとの間に軋轢が生じるなど、過密日程の影響で主力選手が次々と離脱していることは懸念材料だ。
今月もロドリ、ヤマル、カルバハル、ハイセン、ファビアン・ルイス、ニコ・ウィリアムズ、ダニ・オルモなどが負傷欠場した。
このような事態が頻発していることでクオリティーの低下を不安視されているが、代役を務めた選手たちがレギュラー陣の不在を感じさせない活躍を見せていることからも分かるように、近年は特に選手層の厚さが際立っている。
優れた人材が次々と発掘され、ポジション争いが激化する中、現時点でレギュラーの座を確保していると言えるのは、GKウナイ・シモン、DFル・ノルマン、MFペドリ、FWのヤマル、オヤルサバル、ニコ・ウィリアムズの6人だろう。
右サイドバックは近年、ペドロ・ポロとフィジカル面に問題を抱え続けているカルバハルが務めているが、新たにアトレチコ・マドリードで絶好調のマルコス・ジョレンテがポジション争いに加わる可能性がある。ル・ノルマンのセンターバックのパートナー候補はハイセンとラポルテ。左サイドバックはククレジャとグリマルドが競い合っている。
■“偽9番”メリーノは空中戦に強さ
MFの1枠は、デラフエンテ監督に「唯一無二の才能を持つ選手」と称賛されるペドリで間違いない。残り2枠はおそらく、監督が最も頭を悩ませるポジションになるだろう。万全な状態ならアンカーのレギュラーはロドリだが、コンディション不良が続いた場合、代役を見事に務め上げているスビメンディにポジションを譲ることになるかもしれない。
もう1枠は、今季の代表戦すべてを負傷欠場しているファビアン・ルイスと得点力を開花させたミケル・メリーノの一騎打ちになりそうだ。特に後者が“偽9番”のような役割を果たしていることは、スペインにとって大きな武器となっている。2列目からゴール前に入り込み、W杯予選4試合でチーム最多6得点を記録。トルコ戦でキャリア初のハットトリックを記録し、直近のブルガリア戦ではヘッドで2得点と、スペインに足りない空中戦の強さを見せている。
今の代表チームはヤマルとニコ・ウィリアムズのスピードや突破力のおかげで、縦に速いサッカーができるようになっている。この2人の影響力は絶大で、不在の場合は今月のジョージア戦やブルガリア戦のようにポゼッション重視のサッカーになり得るだろう。
スペイン対ブルガリア PKから4点目を決めた後、喜ぶスペインのオヤルサバル(2025年10月14日撮影、AP)
■モラタを外しオヤルサバルを信頼
デラフエンテ監督は今月、センターフォワードに関して、長年エースとして君臨したモラタを戦術的判断で初めて招集外にするという大きな決断を下した。そして最近、最も信頼を置いているのは東京五輪でもレギュラーに据えた旧知の仲であるオヤルサバルだ。
今季、クラブでは8試合2得点1アシストとあまり結果を残せていないが、代表ではW杯予選4試合で3得点2アシストと絶好調。本来はサイドアタッカーだが、U-21代表時代からそのポジションで何度も起用され、デラフエンテ監督指揮下でチーム最多12得点を記録している。
デラフエンテ監督は、ミケル・メリーノとともに高い得点力を支えるオヤルサバルについて「完成度の高いオールラウンドな選手で、あらゆる状況を的確に読み取ることができる。彼が過小評価されているという意見には同意するよ。本来あるべき評価を受けていないと思う。並外れた選手なのに、他の選手たちを推すメディアの声に少し埋もれてしまうことがある」と不満を漏らしていた。
フェラン・トーレスも信頼を勝ち取っている選手の一人。デラフエンテ監督指揮下で7得点を挙げ、オヤルサバル同様に攻撃のユーティリティープレーヤーとして満足いくパフォーマンスを発揮している。
スペインはルイス・エンリケ監督時代に比べて闇雲にボールを保持しなくなったとはいえ、ほぼすべての試合でボール支配率が相手を上回るため、後ろに引かれる展開になることが非常に多い。カタールW杯では攻撃に行き詰まった時、クロスに対応できる選手がいなかったことで高い代償を払うことになった。デ・ラ・フエンテ監督はこのような状況を打開するためのオプションとして、ターゲットマンの役割を果たせるサム・オモロディオンやボルハ・イグレシアスをテストしている。
その他、レアル・マドリードでクラブワールドカップ得点王に輝いたU-21スペイン代表のゴンサロ、モナコで絶好調(最初5試合で6得点)のアンス・ファティにも注目しているとのことだ。
■来年3月にはアルゼンチンと対戦
近年大成功を収めるスペインを、W杯制覇に向けたライバル国はどのように感じているのだろうか。
フランス代表のFWエムバペは「技術力が非常に高く、支配的なプレーをするのに最適な人材を揃えている。選手たちが幼い頃からトップチームに至るまで、同じスタイルでプレーしている数少ないチームの1つだ。それが大きな強みになっている」と印象を語っていた。
スペインはこの後、11月にW杯予選2試合を戦い、来年3月には欧州王者と南米王者が対戦する「フィナリッシマ」で、カタールW杯チャンピオンのアルゼンチンとタイトルを争う。
近年の過密日程はチーム力を維持する上で大きな障害だが、万全の状態で戦えるのであれば、スペインの黄金期はまだまだ続くだろう。【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)
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