 ジャンニ・インファンティーノ(左)ドナルド・トランプ(右)写真:Getty Images
ジャンニ・インファンティーノ(左)ドナルド・トランプ(右)写真:Getty Images
2026年のFIFAワールドカップ(W杯)北中米大会をめぐり、アメリカのドナルド・トランプ大統領が開催都市の変更を示唆し、サッカーファンや関係者の間で波紋を広げている。
2026年6月11日から7月19日にかけて行われるW杯本大会は、アメリカ・メキシコ・カナダの3か国共同開催で、48チームが出場し、合計104試合が予定されている。そのうち米国内では11都市が開催都市に選ばれ、多くの試合が行われる見込みだ。共同開催は、アメリカの強力なインフラと3カ国間の政治・経済的協力に基づき、FIFAが史上最大規模の大会として決定したものである。
ここでは、トランプ大統領の発言の意図、FIFAの対応、ファンからの反感、さらにはW杯から2年後の2028年ロサンゼルス五輪への影響を探る。
 FIFAワールドカップトロフィー 写真:Getty Images
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トランプ大統領の発言と背景
トランプ大統領の発言は10月14日、ホワイトハウスでの会見で明らかになった。彼は民主党支持の強い都市としてロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、さらにボストンを名指しし、「安全性に懸念があれば、FIFAと相談して開催都市を変更する可能性がある」と述べた。
ボストンでは7試合、ロサンゼルスでは8試合、サンフランシスコとシアトルではそれぞれ6試合が予定されており、具体的な都市名の挙げ方は、政権による政治的圧力の意図を示すものと受け止められている。
背景には、トランプ政権の治安対策や移民政策がある。民主党主導の自治体や州政府との対立が続く中、政権は州兵の派遣などで犯罪対策を強化してきた経緯がある。今回の発言も、都市の安全性を名目にW杯の開催都市を選別する可能性を示すものであり、単なる警告というより政治的意図を伴う発言と見る向きがある。シカゴの凶悪犯罪件数(2024年28,000件)などを例に、政権が安全性を理由に都市を評価する姿勢を示していることも報じられた。
 FIFA 写真:Getty Images
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FIFAの対応と政府責任の強調
FIFA(国際サッカー連盟)はこれを受け、翌15日に声明を発表した。「16の開催都市が必要な要件を満たし、成功裏に開催されることを期待する」とし、安全と安心を最優先事項とする一方で、開催都市の管理や公共の安全は各国政府の責任であることを強調した。
インファンティーノ会長はトランプ大統領からの電話での要請に応じる可能性を示唆しており、政権寄りの姿勢を報じるメディアもある。ただし、大統領が実際に開催都市を直接変更する権限があるかは不明確で、FIFA規定でも明記されていない。開催都市変更には、スタジアム準備、宿泊施設、交通インフラ、警備計画など多大な課題が伴うため、簡単には決定できない問題だ。
 サポーター 写真:Getty Images
サポーター 写真:Getty Images
開催都市の準備状況と反発
各都市の準備は順調だ。ボストン市長のミシェル・ウー氏は「トランプ大統領に試合を奪う権限はない」と反論し、準備は着々と進んでいると強調。シアトルやサンフランシスコも、犯罪率の低下など治安改善の実績を示し、開催に支障はないとの立場を示している。たとえばシアトルでは2025年上半期の凶悪犯罪件数が前年同期比12%減少しており、安全性を巡る懸念を払拭しようとしている。
また、SNS上ではファンや一部メディアから「スポーツを政治の道具にしている」との批判が散見され、W杯開催に向けた熱に水を差す形となっている。「アメリカは開催権を返上すべき」といった意見もあり、国際的な注目を集めている。
 オリンピックのマーク 写真:Getty Images
オリンピックのマーク 写真:Getty Images
2028年ロサンゼルス五輪への波及懸念
トランプ大統領はW杯の発言と同時に、2028年のロサンゼルス五輪にも言及。「準備不足なら別の開催地を検討する」と述べ、国際的なスポーツイベントへの政権の介入リスクを示唆した。五輪組織委員会は「準備は順調で、政権の介入は不要」としているが、ファンやメディアは懸念を強めている。
もし開催地変更の圧力が実行されれば、ロサンゼルスの経済損失は数百億ドル規模に達する可能性があり、国際的信頼低下も懸念される。開催準備は安全対策、警備、輸送、関連イベント約800件の調整など多岐にわたるため、政権の発言が影響を及ぼす余地は大きい。
 ジャンニ・インファンティーノ 写真:Getty Images
ジャンニ・インファンティーノ 写真:Getty Images
トランプ発言の真意と今後の展望
今回の一連の動きは、サッカー界だけでなく国際スポーツ全体への政治介入の可能性を浮き彫りにしている。FIFAは中立性を維持しつつ政権との対話を続け、代替都市の準備も進めているものの、実務的には簡単に都市を変更できる状況ではない。
開催都市側も準備を進めているが、政治的圧力による不透明感は残る。ファンのボイコット運動や批判が拡大すれば、チケット販売や大会運営にも影響が及ぶ可能性があるだろう。結局、最も損をするのはアメリカ側であるとも指摘される。
アメリカ開催の行方は、政権の政策判断、FIFAの対応、都市側の準備状況に大きく依存しており、今後の動向に世界中のサッカーファンが注目している状況が続く。
 
						
			
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