ピッチ上の22人が複雑に絡み合うサッカーというスポーツは、一歩立ち位置が違うだけでバタフライエフェクトのようにその後の展開が大きく変わってくる。戻るのか・戻らないのか、走り込むのか・とどまるのか……一見何気ない選択の裏には数多くのドラマが眠っている。清水英斗が思わず語りたくなるワンプレーを掘り下げる。
第1回は、歴史的な逆転劇となった日本対ブラジル戦の中から得点とはまったく関係がない前半20分40秒、上田綺世が見せたワンプレーにフォーカス。
10月14日、東京スタジアム
3-2。あの10月14日、ブラジル戦の勝利は「歴史的」だったのか。
「ブラジルは主力じゃなかった」という見方がある。それはその通り。だが、日本も遠藤航や三笘薫、守田英正、冨安健洋、板倉滉、町田浩樹など主力は欠けていた。けっこう、お互い様。
「日本はホームだった」という見方もある。それもその通り。2022年のブラジル戦も日本のホームだったが、終盤までもつれ、ネイマールのPKによる0-1の惜敗だった。常に4点前後の差をつけられ、惨敗してきた過去のブラジル戦と比べると、どちらも森保ジャパンだったが、ホームでは競り合えている。
やはりホームアドバンテージは大きいのだろう。それは10月14日、あの東京スタジアムにいたすべての人が同意するはずだ。前半は「あ~」と魂を吸い取る件の呪文も聞こえてきたが、後半に南野拓実が1点を返してからは、熱狂的なホームスタジアムに変わった。
2014年ブラジルW杯のコートジボワール戦を思い出す。当時はドログバの登場により流れを作られて連続失点し、1-2で逆転負けしたが、恥ずかしいことではなかった。あんな雰囲気を作られたら、ブラジルでも冷静さを取り戻せずテンパるんだな、と。ちょっと学び。
そんなふうにメンバーやけが人、ホームなどの外的要因は確かに多かったので、あの3-2の価値、捉え方は人によって違うかもしれない。
もっともこの20年、ブラジル戦のすべてをドイツで、ポーランドで、ブラジルで、フランスで、日本で、すべて現地で惨敗を見てきた筆者としては、そんな外的なものに要因を求めること自体が、日本とブラジルの差が詰まったことを示唆するとは思う。
1対1を制し、ブラジルのペナ内に錨を下ろした意味
実際、筆者は前半20分40秒に、上田綺世のある『ワンプレー』を目にした時、こう思ったのだ。
あっ、ブラジルの背中に手が届いた。
もしかすると、何でもないプレーに見えたかもしれない。堂安律のスルーパスで上田が背後を取り、その攻撃の後にこぼれ球を拾って最後尾から攻撃をやり直し、鎌田大地からのパスを久保建英がライン間で受け取った直後のシーンだ。
……
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Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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