AmazonのPrime Videoは、11年にも及ぶNBAの放映権獲得を機に、世界的なスポーツ配信事業をさらに拡大させようとしている。欧州では『プレミアリーグ』や『UEFAチャンピオンズリーグ』などを手がけ、世界各地でスポーツ中継の新しい形を提示してきた。その流れがついに日本にも到来。今シーズンのNBA開幕に合わせて『NBA on Prime』が本格始動し、日本語解説やオリジナル企画など、ローカライズされた多彩なコンテンツが展開される。

 ロサンゼルス・カルヴァーシティのAmazonスタジオで開催された「NBA on Prime Studio Exclusive Preview」では、世界各国のメディアを集結させ、新たなスタジオセットと配信技術が披露された。

 イベントの合間に、Prime Videoの国際スポーツ部門を統括するアレックス・グリーン氏に、事業戦略とNBAへの思いを聞いた。

インタビュー=入江美紀雄

世界展開とPrime Videoの戦略

――まず、ご自身の役割について教えてください。

グリーン 私はPrime Videoのスポーツ事業で、アメリカとカナダを除くすべての地域を担当しています。ヨーロッパ、アジア、日本、オーストラリア、そして南米までが私の管轄範囲です。どの地域で投資するか、どの権利を取得するか、そしてどのように配信を展開するかといった戦略的な意思決定を担っています。

 Amazonに入る前はBT(ブリティッシュ・テレコム)に在籍し、スポーツやテレビ事業への投資に関わっていました。長年メディア業界に携わってきましたが、Prime Videoではこれまでの経験を生かして、世界中のファンに新しい視聴体験を届けようとしています。

――Amazonにとって、スポーツ配信はどんな位置づけにあるのでしょうか。

グリーン スポーツはPrime Videoの中でも非常に重要な分野です。単独のビジネスとしての側面と、会員向けサービスであるAmazonプライム全体の価値を高める役割の両方を持っています。大きな投資を行っているため、当然ながらビジネスとして目標や指標を設定し、成果を測定しています。一方で、スポーツはプライム会員に付加価値を与える存在でもあります。私たちはスポーツ単体のサブスクリプションを販売しているわけではなく、プライム会員の特典として提供しています。新規加入を促進し、既存会員の満足度や継続率を高める要素になっているのです。

――ヨーロッパではプレミアリーグやチャンピオンズリーグなどの放映権を獲得しています。視聴者の行動に変化はありましたか。

グリーン 2019年にイギリスでプレミアリーグの配信を始めたときは、正直に言って不安もありました。当時は、トップリーグが権利の一部をストリーミングに独占提供するというのは前例がなかったからです。ところが実際には非常にうまくいき、技術面・視聴体験の両方で高い評価を得られました。これを機に自信を持ち、その後も配信の品質や信頼性を高め続けています。今ではストリーミングが映画やドラマだけでなく、ライブスポーツの視聴方法としても完全に定着しました。視聴者にとって“自然な選択肢”になったのです。

日本市場と配信技術の進化

――「NBA on Prime」では、日本向けのローカライズも予定されています。どんな展開を考えていますか。

グリーン 今回の契約は11年という長期にわたります。その中で最初から一定のローカライズを実施し、日本語実況やインターフェース対応を整えています。Prime Videoの映画やドラマなどと同様に、視聴画面も完全に日本語化され、目的の試合を簡単に探せるようになります。さらに将来的にはAIを活用し、地域ごとに最適化された体験を提供できるようになるでしょう。日本のファンは非常に情熱的で、長期的な関係を築けると確信しています。

――日本ではすでに複数の配信サービスが競合しています。他社との差別化はどこにありますか。

グリーン 私たちは他のサービスと直接競うことをあまり意識していません。むしろ、自社のサービスをどう良くするかに集中しています。Amazonプライムは動画配信だけでなく、音楽、配送、ショッピングなどを統合したユニークなサービスです。この“Primeという総合体験”そのものが、他のストリーミングとは異なる価値を生み出しています。AWSを活用したデータ分析や、ユーザーごとのおすすめ機能など、テクノロジーとエンターテインメントを融合させた仕組みを常に進化させています。

――日本では地上波やBS放送が長らくスポーツ中継の主流でした。Prime Videoの強みはどこにあるでしょうか。

グリーン 確かに無料放送は多くの国で根強い人気があります。ドイツやブラジルもそうです。ただ、ストリーミングには柔軟性と革新性という強みがあります。たとえば「マルチビュー」はその代表例で、複数試合を同時に視聴しながら、メイン画面を自由に切り替えられます。こうした機能は従来の放送では実現が難しいものです。一方で、無料放送と競合するのではなく、共存できる関係だと考えています。Amazonプライムはすでに多くの日本家庭で契約されていますから、NBA中継は“追加料金なしの特典”として自然に受け入れられると思います。

――配信の安定性や遅延(レイテンシー)についてはいかがですか。

グリーン 初期のストリーミングでは確かに遅延や安定性の問題がありましたが、現在は大きく改善しています。NFLの中継では数百万世帯に同時配信しており、障害はごくわずかです。遅延もデバイスによっては10秒未満まで短縮され、衛星放送やケーブル放送と同等のレベルに達しています。技術的な信頼性は、今では既存の放送とほぼ変わらないと言っていいでしょう。

――NBA配信では新たな機能も導入されるそうですね。

グリーン  初年度からいくつかの新機能を用意していますが、これはあくまで始まりにすぎません。ヨーロッパのチャンピオンズリーグでは「Prime Vision」というシステムを導入しており、統計データとAIを組み合わせてプレーを分析・可視化しています。NBAでも同様の進化を続け、ファンが自分の好みに合わせて体験を拡張できるようにしていきます。

――スポーツ配信とAmazonの他サービスとの連携について教えてください。

グリーン Primeという枠組み自体が、映像、音楽、ショッピングなどを一つにまとめられています。今後はそれらをより直接的に結びつける取り組みも進めています。例えば、試合中の広告に登場した商品をリモコン操作でそのままAmazonカートに追加できるようにするなど、Eコマースとスポーツ配信を連動させる構想です。これはAmazonだからこそ実現できる体験だと思います。

――最後に、グリーンさんご自身はNBAファンですか?

グリーン 正直に言うと、子どものころからNBAを観て育ったわけではありません。ですが10年ほど前にロンドンでフィラデルフィア・セブンティシクサーズ対ボストン・セルティックスを観戦して以来、NBAの熱気に魅了されました。あのとき以来、私はシクサーズを応援しています。このように「NBA on Prime」を通じて、私のように新たにNBAの魅力に触れる人が世界中で増えてほしいと思っています。

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