2025年9月25日発売のForbes JAPAN11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出する企画で、今回で3回目となる。これまでの受賞者は、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すア ートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー(松田崇弥、松田文登)などがいる。
今回も、映画『国宝』で吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎など、プロデューサーやコネクターを含む多彩な顔ぶれが揃った。伝統からアニメやAIまで、日本経済の未来を照らす「文化の底力」を感じてほしい。
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受賞者の一人であるMiho Okawaraは、世界的アーティストから信頼され、プライベートネイルまでを担当するネイルアーティストだ。その活躍を支えているのは、個性的なデザインや感性だけではない。職人としての矜持だ。
レディー・ガガやビヨンセ、マイリー・サイラスなどを顧客にもつMiho Okawara。米国ロサンゼルスを拠点に活躍するネイルアーティストだ。彼女たちから「Miho以外にネイルを触らせたくない」「Mihoに任せておけば安心」と言われるほど、絶大な信頼を得ているのはなぜなのか。
Mihoが渡米したのは2012年のこと。勤務していたサロンの海外出店を機に、ゼネラルマネジャーに抜てきされたのが始まりだ。新店舗がオープンしたのは、トレンド発信地・メルローズ地区のど真ん中。当時も爪のケアやシンプルなネイルアートを提供する店はあったが「技術やサービスが大ざっぱで甘皮ケアで血が出てしまうこともあるような状態」だった。この地でジャパニーズネイルアートを掲げて出店するからには、環境を変えネイリストの社会的地位を上げる必要がある。そう腹を決めたMihoは「ネイルアーティスト」を名乗り、価格帯を相場の倍以上に設定した。
「ネイリストを憧れの職業にしたかったし、自分たちならそれができると思った。爪という極小スペースに美しいデザインを施して全体の調和を考えながら世界観をつくるなんて、海外の人からしたら驚異ですよ(笑)。でも小さいころから当たり前に千代紙で鶴を折って育った日本人にはできてしまう。文化によって培われたこの器用さは、実はとても特別なことなんです」
独立してからは顧客の自宅や仕事現場での施術がほとんど。(courtesy of Miho Okawara)
丁寧で繊細なケアとデザインが付加価値となり、開店から半年がたつころにはLAに住む芸能人やセレブたちの間で「バズ」が発生した。「さらに自分の力を試したい」と思ったMihoは、14年に独立。仕事ぶりがセレブたちの間に口コミで広まり、スター顧客の自宅や撮影現場などに出向く機会が劇的に増えていった。今では価格も当時の10倍近くなった。
「Miho、今からこっちに飛べる?なんて突然の呼び出しもよくありますね」と笑う彼女だが、なぜMihoでないとダメなのか。
「早いし、もちもいいし、フォルムやシェイプすべてにこだわってくれるとはよく言われます。作品の撮影現場でも、私は普通のネイリストが3時間かけてつくるものを、20分くらいでやっちゃうんですよ」
レディー・ガガ本人がミュージックビデオで装着したネイルデザインの一部。(courtesy of Miho Okawara)

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