2013年にデビューした4人組ロックバンドgo!go!vanillas。ボーカル・ギターの牧達弥さんとベースの長谷川プリティ敬祐さんは、ともに大分市出身で中学校からの同級生です。歌詞に大分弁が入ることもあり、音楽を通して大分愛を表現しています。特に『ヒートアイランド』という曲には、大分の民謡『チキリンばやし』をフィーチャーした歌詞や鉦(かね)の音が取り入れられており、大分県民にとっては祭りの血が騒ぐところ。
そんなふたりが音楽キッズとして青春時代を過ごした大分。仲間と遊んだライブハウスや温泉の思い出から、大人になって気がついたナイトスポットなど、大分の魅力を語ってくれました。
(左)ベースの長谷川プリティ敬祐さん、(右)ボーカル・ギターの牧達弥さん。ふたりの音楽観を育んだ大分での青春時代
大分市内の中学校からの同級生で、中学時代は同じバスケットボール部に所属していたgo!go!vanillasの牧達弥さんと長谷川プリティ敬祐さん。当時からふたりとも音楽が好きで、好きなバンドやミュージシャンを教えあう仲でした。
「母親のライブラリーが充実していて、そればかり聴いていましたね。往年のロックやポップスから〈モータウン〉などのソウルミュージック周り。当時はインターネットもいまほど便利ではなかったので、本当に〈タワーレコード〉や〈ヴィレッジヴァンガード〉は重宝しましたね」(牧さん)
「バスケの合宿に向かう途中で、牧から〈ジャクソン5〉や〈ザ・フー〉を聞かせてもらった記憶があります」(プリティさん)
高校生になると、先んじてバンド活動を始めていたプリティさんの影響もあり、牧さんも音楽活動を始めました。牧さん、プリティさん、友人と3人でコピーバンドを結成。大分でライブも行いました。当時はそれぞれが好きな曲をコピーしていて、バンドとしての音楽性はバラバラだったとか。
「〈オアシス〉とか、〈ザ・ストロークス〉とかやりましたね」(牧さん)
「僕は〈ザ50回転ズ〉が好きで」(プリティさん)
「ちなみにそのときに受付をしてくれたのが、シンガーソングライターの阿部真央ちゃんなんですよ。僕たち同い年ですが、彼女はすでにコンクールで優勝するほど大分では有名なシンガーになっていました」(牧さん)
当時、ライブをした〈大分音楽館〉と〈サツキスタジオ〉は姉妹店。
ライブを行った場所は、今もある〈サツキスタジオ〉と〈大分音楽館〉。もうひとつよく足を運んでいた〈トップス〉(現〈DRUM Be-0〉)というライブハウスは、高校生が訪れるにはまだ少し早い場所だったようで……。
「トップスでは鋲(びょう)ジャンとか着ているようなパンクスだらけのなか、僕たちは学生服だったので、逆にかわいがってもらえました」(牧さん)
音楽の現場で友人や先輩たちと知り合い、情報交換する。ローカルならではの距離感が、彼らの音楽に多大な影響を与えたようです。
先輩と交流した思い出の地〈トップス〉(現〈DRUM Be-0〉)。
「大分のバンド界隈はめっちゃ狭かったと思います。特に僕たちが現場で聴いていたのは、オイパンクとかハードコアなど、よりコアなジャンル。なかでも〈カオス〉という大御所のパンクバンドにはお世話になりましたね。自分のなかではルーツといえるバンドのひとつです」(牧さん)
go!go!vanillasとしての本格的な始動は上京後の話。ただその原点は、大分のライブハウスにありました。
Information
サツキスタジオ
address:大分県大分市金池町2-13-17
access:JR大分駅から徒歩約8分
X:@satsuki_studio4
Information
大分音楽館
address:大分県大分市都町2-1-24
access:JR大分駅から徒歩約12分
web:大分音楽館
Information
DRUM
web:DRUM
食べ盛りのふたりを支えた大分の食
ふたりがバスケ部の部活動のときに、家族からよく差し入れされていたものが、今や郷土料理として全国区の知名度を誇る、大分市吉野地区に伝わる鶏めしのおにぎりです。
具は鶏肉とごぼう、甘い味つけが定番。(photo:木寺紀雄)
「部員も多いし、食べ盛りなので差し入れとしては最適でしたね。甘い醤油の味つけは、僕たちには当たり前で食べ慣れています」(牧さん)
「あと実は僕が好きだったのが、牧のお母さんがつくってくれたイモ天です。特に大分名物ではありませんけど(笑)」(プリティさん)
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ジョイフルの唐揚げ定食をよく食べていたという牧さん。(画像は塩唐揚げ定食)
学生時代のふたりの「食」の思い出という意味では、大分発祥のファミリーレストラン〈ジョイフル〉は外せないといいます。
「高校生のときは、放課後はまずジョイフルに行くのが定番でした」(プリティさん)
大分発祥のファミリーレストランで、全国約630店舗を数える。写真は大分大手町店。
「待ち合わせ場所自体がジョイフルでしたね。ほかの高校の仲間も多かったので『城崎(大分大手町店)のジョイで』『南大分のジョイで』とかいろいろなジョイフルに行きました。今では考えられないですが、当時はたしか日替わりランチが399円で食べられた。ドリンクバーも、定食を頼んでクーポンを使うと80円とかで。ずっとジョイフルにいました」(牧さん)
Information
ジョイフル
web:ジョイフル
ふたりの胃袋を満たしたのは、ベクトルは違えど、どちらも大分県民のソウルフードといっていい鶏めしにジョイフル。東京で活躍しているふたりでも、案外、「普通の大分県民」していてホッとするセレクトです。
さらにそれぞれの食の思い出も教えてもらいました。
基本メニューの「てったこ」700円
牧さんの母親が大分の百貨店〈トキハ〉の帰りに買ってきてくれたのが〈てったこ〉のたこ焼き。大分のローカルチェーン店で、当時は2店舗しかありませんでしたが、現在では県内に9店舗を構えます。イートインスペースもあり、お酒も提供しているのでバー感覚で行くこともできます。
「小さい頃の思い出です。タレがかかっているタイプでおいしかったですね」(牧さん)
多様なトッピングや洋風アレンジも楽しめる。
Information
てったこ中央店本店
address:大分県大分市中央町1-1-19
tel:097-536-7647
access:JR大分駅から徒歩約5分
営業時間:曜日により異なる
定休日:月曜
web:てったこ
プリティさんが学生時代にアルバイトをしていたのが〈鮨 ちはる〉。なんと一見さんお断りのお店です。
「当時は自分のお金で食べることはできなかった高級店ですが、大将の友だちが開催してくれる食事会みたいなものがあって、そこで握ってくれる寿司がとにかくうまかった。大人になってから、親を連れて行ったことがあります」(プリティさん)
〈鮨 ちはる〉の穴子。
〈鮨 ちはる〉の本鮪赤身。
プリティさんは寿司のおいしさだけでなく、大将と女将さんの人情にも惚れたといいます。
「すごくやさしかったんです。僕が修学旅行でシフトに入れないことを怒られるかなと子ども心に思っていたら、逆にお餞別をくれたり。今でも交流はあって、大将と女将はライブにも来てくれました」(プリティさん)
Information
鮨 ちはる
address:大分県大分市中央町3-6-15
tel:097-533-4055
access:JR大分駅から徒歩約11分
営業時間:17:30〜21:00
定休日:月曜
※予約は電話のみ
Instagram:@hiharu.oita
大人になって気がついた大分の魅力
まだお酒が飲める年齢ではなかった大分時代。大人になって、気がついたナイトライフもあります。
「大人になって、知り合いのお兄ちゃんに『ここうまいぞ』っていろいろ連れていってもらったりして、わくわくしましたよね。大分市にはディープでめっちゃうまい居酒屋とか焼き鳥屋とかたくさんあって、まちとして楽しいですよね」(牧さん)
子どもの頃から行きつけだった焼とり丸ちゃん。
牧さんがお酒を飲めるようになって再認識したお店があります。子どもの頃から親や祖父とともに訪れていた焼き鳥屋さんです。
「〈焼とり丸ちゃん〉という焼き鳥屋さんが好きでした。じいちゃんにお小遣いもらって、テレビ見ながら焼き鳥とジュースという組み合わせで。タレがめちゃくちゃうまいんです。ビールを飲める年齢になって行ってみたら、また別世界でした。昔は1本50円だったんですけどね(現在は1本150〜200円程度)」(牧さん)
大皿盛りでおいしそう。
Information
焼とり丸ちゃん金池店
address:大分県大分市金池町2-9-11
tel:097-536-4656
access:JR大分駅から徒歩約9分
営業時間:17:00〜
定休日:月曜
Instagram:@yakitorimaruchan_kanaiketen
大分県のナイトライフというと別府市が盛り上がりを見せていますが、大分市にも違う魅力があって「負けていない」と語気を強める牧さん。
「おとなりの別府市は昭和っぽい雰囲気で盛り上がっていますよね。大分市はもう少し進んで、バブル以降の平成、90年代感。この哀愁がすごく好きです。大分市はビルや看板の雰囲気とか、今が一番、脂が乗ってる熟成感だと思う」(牧さん)
お湯と人から感じる大分のあたたかさ
牧さんが帰省などで大分に帰ると、必ず訪れるというのが温泉です。大人になると温泉が身に沁みるようになるから……、と思いきや、学生の頃からプリティさんや仲間たちと一緒に通っていたといいます。さすが“おんせん県”。よく訪れていたのはスーパー銭湯〈アサヒ温泉〉。
〈アサヒ温泉〉は家族風呂やサウナ、ビジネスホテルも完備。
「当時の入浴料は大人300円とかで今は430円。それでも高いなと思ってしまいます」(牧さん)
「今では違うみたいですけど、当時は大分トリニータが勝つとさらに半額(笑)」(プリティさん)
琥珀色の温泉は「大深度地熱温泉」。
東京のスーパー銭湯の感覚でいうと、430円でも安いと感じてしまいます。しかも温泉です。
「僕たちは温泉が身近過ぎて、東京に来て一番驚いたのがお風呂ですね。温泉ではなくただのお湯を沸かしているのに1000円超えるのかと(笑)。お風呂屋さんで温泉じゃないって意味わからない(笑)」(牧さん)
Information
アサヒ温泉
address:大分県大分市明野東1-2-10
tel:097-553-1126
access:JR大分駅から車で約15分
営業時間:12:00〜26:00、5:00〜9:00 土・日曜・祝日5:00〜26:00
定休日:無休
入浴料:大人430円、子ども160円
web:アサヒ温泉
大分県民にとっては、温泉については感覚が違うのかもしれません。
ほかにも東京に来たからこそ感じたことがあります。それは大分の県民性です。
「大分の人は仲間意識が強くて、大分のことが人一倍好きだと思います。ほかの県の人たちよりも『お前も大分なん? イェーイ!』が強い気がする」と言うプリティさん。
牧さんは大分に帰ると、かつての自分が顔を出してくるようです。
「大分で『牧さん!』って声をかけられると、『何してるの?』とか話したりして。『APU(立命館アジア太平洋大学)に通っています』『俺の友だちも行ってたよ』みたいな、自然と会話して友だちになっちゃう。地元にいた頃の自分に戻っているんですね。そういえば先日友だちと飲んでいて、ある人を紹介されたんです。それは福岡市の高島宗一郎市長で、なんと高校の先輩だったんですよ! 同郷ということで友だちになりました(笑)」(牧さん)
これまでに何度か大分凱旋ライブを行っていますが、やはりほかの場所とは違う郷愁感があるようです。
「地元でライブをすると親戚も来てくれて、いつもは会場にいないようなばあちゃんとかが関係者としているんですよ。『昔、餅つきしていたたっちゃんがこんなに大きくなってなあ』とか言われるがのおもしろいです」(牧さん)
ただ懐かしさを感じているだけでなく、大分を盛り上げたいという気持ちは強いふたり。かつて自分たちが上の世代から影響を受けてきたように、今度は大分の若者にバトンを渡していく番です。
「大分のライブハウスで今のバンドたちを見てみたいですね。いいバンドがいたら話して対バンとかしたい。僕たちがしてきた経験を、若い子たちと一緒にワクワクできるようなかたちでつくれたらいいなと思っています」(牧さん)
新作EP『SCARY MONSTERS EP』を引っ提げて、「SCARY MONSTERS TOUR 2025-2026」ツアーが開催されます。またひとつ大きくなって、大分に凱旋してくれる日を願わずにはいられません。
「大分の人たちに『ようやっとるやん』と言ってもらえるように、ライブを続けていきたい。それでぐるっと回って、また大分で大きなことをやりたいです」(プリティさん)
「ライブでみんなとつながりたいという気持ちがこもっている作品なので、このツアーを経て成長したい。そんな僕たちを、今度は大分のみんなと大きな現場で共有したいなと思っています。期待していてください!」(牧さん)
Profile go!go!vanillas
牧 達弥(vo/g)、柳沢 進太郎(g)、長谷川プリティ敬祐(ba)、ジェットセイヤ(dr)からなる4ピース・バンド。2013年デビュー。2025年は初の海外ワンマン公演や初の欧州ライブへも出演。7月23日リリースのDigital Single『ダンデライオン』がTVアニメ『SAKAMOTO DAYS』第2クールエンディング・テーマに決定。9月24日にニューEP『SCARY MONSTERS EP』がリリースされ、10月から全国ホール&神東名アリーナツアー「SCARY MONSTERS TOUR 2025-2026」が開催される。
credit text:大草朋宏 photo:日野敦友
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