自国の政治危機への対処で精一杯のマクロン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
組閣直後に辞任した首相を再び任命する。通常なら考えにくい展開だが、政治危機の渦中にあるということと、それがフランスで行われたということを考慮すると、納得してしまうかもしれない。
エマニュエル・マクロン大統領は、9月9日に就任し、組閣翌日の10月6日に辞任したセバスチャン・ルコルニュ首相を、10日に再任した。
そもそも、ルコルニュ首相の辞任劇は、マクロン大統領が仕組んだ政治劇だったのではないかという疑問が付いて回る。どのような陣容で組閣をしたところで、ジャン=リュック・メランション氏が率いる左派会派や、ジョルダン・バルデラ氏が率いる右派会派からの突き上げを受ける。一方で、政権運営のためには、彼らに妥協はできない。
そこで、ルコルニュ首相をいったんは降板させ、あえて再登板させるという戦術を用いて、マクロン大統領は自らの意志の強さを示すとともに、政局の混乱の責任を野党に問おうとしたのではないかとさえ思えてくる。
組閣の権限を持つのはあくまで大統領である一方、短期で政権が崩壊し続けてきたのは、野党が常に反発してきたからに他ならない。
主要な閣僚の顔ぶれが第一次政権と第二次政権とでほとんど変わらないという事実も、マクロン大統領の意志の強さを示している。要するに、陣容は中道右派の堅実派で固められており、財政再建を重視する路線が踏襲されている。野党がどれだけ反発してもこの路線は変わりようがないということを、マクロン大統領は国民に示したわけだ。
同時にマクロン大統領は、政権運営を円滑化させるという現実的な観点から、自らの出身母体である中道左派の社会党に秋波を送っている。大統領は社会党を抱き込むため、自らが主導し、同党が反対してきた年金制度改革の見直しに着手するようだ。具体的には、法定支給年齢の引き上げを見送るようだが、社会党は表向き沈黙を守っている。
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