英国における出世レース フィリーズマイルとデューハーストSを回顧

英国における出世レース フィリーズマイルとデューハーストSを回顧

【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】

◆翌年のクラシック候補が目白押し

 6つの2歳重賞を集約した「フューチャー・チャンピオンズ・フェスティバル」が、10月10日と11日の両日にわたって、ニューマーケット競馬場を舞台に開催された。

 タタソールズ・オクトーバー1歳セールのブック1とブック2を隔てる週末における開催が定着して、今年で丸10年。翌年のクラシック候補を目の当たりにできる機会として、筆者が毎年楽しみにしている開催である。

 初日(10日)のメイン競走は、2歳牝馬によるG1フィリーズマイル(芝8F)だ。過去10年の勝ち馬には、マインディング、ロードデンドロン、ローレンス、イリデッサ、インスパイラル、デザートフラワーと、翌春以降にもG1を制した名牝の名が6頭も並ぶ、英国における出世レースである。

 今年、1番人気(2.25倍)に応えてこのレースを制したのは、エイダン・オブライエン厩舎のプリサイス(牝2、父スタースパングルドバナー)だった。道中、馬群外側最後方を追走後、残り500mから鞍上のクリストフ・スミヨン騎手が追いはじめ、残り300mで先頭に立つと、そこから3.1/4馬身抜け出す快勝だった。

 オブライエン師の競馬組織ウィスパービュートレーディング社による生産馬で、G1愛ダービー(芝12F)2着、G1ゴールドC(芝19F210y)2着などの成績を残したキングフィッシャーの姪にあたるのがプリサイスだ。今年8月にコーク競馬場のメイドン(芝7F)を制しデビュー2戦目で初勝利をあげると、続くグッドウッド競馬場のG3プレステージフィリーズS(芝7F)を制し重賞初制覇。

 さらに前走、カラ競馬場のG1モイグレアスタッドS(芝7F)も制し、3連勝でG1初制覇を果たしての参戦だった。ここで2度目のG1制覇を果たした同馬は、来年5月3日にニューマーケットで行われる牝馬三冠初戦のG1英1000ギニー(芝8F)へ向けた前売りで、オッズ4〜6倍の1番人気に推されることになった。

 2日目(11日)のメイン競走は、2歳の牡馬と牝馬によるG1デューハーストS(芝7F)だ。創設が1875年で、今年で150年という節目を迎えた伝統の一戦である。ここも、フィリーズマイル同様に過去10年の勝ち馬リストは豪華だ。チャーチル、トゥーダーンホット、ネイティヴトレイル、シャルディーンのように、翌春は順当にマイル戦線に進んだ馬もいれば、ユーエスネイビーフラッグ、ピナトゥボのように6〜7Fの路線で活躍をした馬もいる。あるいは、セントマークスバシリカ、シティオブトロイのように、3歳時は10Fを超える距離で名を残した馬もいる。

 今年の勝ち馬は、オッズ26倍の6番人気と伏兵視されていたゲワン(牡2、父ナイトオブサンダー)だった。LRクリテリウムドボルドー(芝1600m)2着馬グレイミステールの2番仔で、アルカナ5月2歳市場にて8万ユーロ(当時のレートで約1321万円)で購買された同馬は、アンドリュー・ボールディング厩舎からデビュー。今年7月にニューベリー競馬場のノーヴィス(芝7F)を制し緒戦勝ち後、ヨーク競馬場のG3エイコムS(芝7F)を制し無敗の重賞制覇を達成。この段階で同馬を、ユーロンインベストメンツ社の張月勝氏がトレードで獲得した。

 ボールディング厩舎に留まった同馬は、続いてドンカスター競馬場のG2シャンペンS(芝7F)に出走したが、ここではオッズ2.2倍の1番人気を裏切り4着に敗退。デビュー3戦目にして初黒星を献上することになった。当日のドンカスターの馬場発表は「Good」だったが、実際にはもう少し緩めの馬場で、これをハンドリングするのに手こずったのが敗因と見られている。

 この敗戦により、一気に評価を落としての出走となったのがG1デューハーストSだったが、「Good to Firm」という馬場だったここでのゲワンは本領を発揮。道中2〜3番手を追走後、残り350mで先頭に立つと、前半6番手から末脚を伸ばした1番人気(2.75倍)のグスタード(牡2、父スタースパングルドバナー、2.75倍の1番人気)の追撃を3/4馬身退け、G1初制覇を果たした。

 この結果を受けて同馬は、来春のG1英2000ギニー(芝8F)へ向けた前売りで、オッズ11〜13倍の3番人気に浮上している。

(文=合田直弘)

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