中国の指導者は長期的な視野で物事を捉えることで知られている。ただし、誇張もある。毛沢東初代国家主席の側近、周恩来氏が1972年にフランス革命の影響について「語るにはまだ早過ぎる」と言ったという有名な逸話がある。

  だが、実際には1789年の革命ではなく、4年前に起きた学生運動についての質問に答えたものだったと、筆者の元同僚リチャード・マクレガー氏は指摘している。

  それでも要点は変わらない。別の元同僚で、現在ウッドマッケンジーに所属しているエド・クルックス氏は、中国の改革・開放路線を敷いた鄧小平氏が1992年に述べた次の言葉を紹介している。

中東には石油がある。中国にはレアアース(希土類)がある……これは極めて重要な戦略的意義を持つ。

  33年の時を経て、鄧氏の見解が正しかったことが証明されつつある。米国と中国の貿易対立が新たな段階に入る中で、その戦略的意義の大きさがこれまでになく試されている。

  貿易摩擦を「ゲーム」に例えるのは不謹慎で軽率だ。人々の生活や、場合によっては世界の勢力バランスをも変え得る問題だ。しかし、米中がどの「カード」を持ち、どのようにして使っているかという観点で見るのは有用だ。

  米国では現在、国債が強力なカードとなっている(6カ月前はそうではなかった)。一方、戦略的な弱点は暗号資産(仮想通貨)ビットコインかもしれない。

嫌なサプライズ

  成長産業に不可欠なレアアースは、中国にとって最も強力なカードだろう。さらに、中国は大豆という他のカードも切っている。だが、これらのカードは、経済成長モデルの弱点を隠すための「はったり」なのではないかという見方もある。

  鄧氏による長期的な戦略思考のレガシーは、モルガン・スタンレーがまとめたチャートに表れている。中国は世界のレアアース埋蔵量で大きなシェアを誇り、生産ではさらに支配的な立場にある。

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  その結果、幾つもの経済大国がバッテリーやスマートフォン、風力タービンなどに欠かせないレアアースを中国に過度に頼るという危険な状況に陥っている。

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  これは、ドイツがロシア産エネルギーに依存した判断に匹敵する戦略的誤りと映り始めている。一方、金融界のプロフェッショナルらは、これが大きな問題にはならないと自らに言い聞かせてきた。

  米銀バンク・オブ・アメリカ(BofA)が世界のファンドマネジャーを対象に実施した最新の月次調査では、貿易戦争を「テールリスク」と見なす懸念がほとんど消えていた。

  テールリスクとは、確率は低いが発生すれば甚大な損失をもたらすリスクのことだ。だからこそ、今回のニュースは不意打ちで、市場に大きな衝撃を与えた。

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  中国は先週、レアアース輸出規制の強化を発表。さらに14日には関連企業に対する監視を強める方針を打ち出した。

  トランプ米大統領による追加関税の威嚇と重なり、嫌なサプライズとなった。これは中国が自国の強さを誇示するための行動なのか、それとも立場が弱まる中での苦し紛れの一手なのか。 

  中国はむしろ弱い立ち位置にいるとみているのは、ブルッキングズ研究所のロビン・ブルックス氏だ。

  米国向け輸出の減少分を他地域への輸出拡大で補っているが、それは値下げ、すなわちダンピング(不当廉売)という助けを借りている可能性が高いとし、次のように述べている。

利益率は圧迫されており、データの裏には大きなマイナス要因が潜んでいる。中国は輸出依存型経済であり、時間稼ぎをしているに過ぎない。レアアースで強硬策を取っているのは、強さではなく弱さの表れだ。

    中国のこうした輸出戦略は、貿易相手国による協調的な対抗措置を招くリスクがある。

  欧州連合(EU)の欧州委員会で通商担当の委員を務めたセシリア・マルムストローム氏はワシントンで、中国に対する反ダンピング措置が一段と強化されるだろうと警告。同氏は中国について、「自国製品を市場でダンピングし、分散化を図っている」と分析している。

  一方、アカデミー・セキュリティーズのピーター・チア氏は、トランプ政権下の過去の対立とは異なり、今回の動きは中国側が仕掛けたものである点に注目している。

  同氏によると、中国は自国のレアアース支配力が今後これ以上強まることはないと認識しており、米国製半導体への依存を減らす好機と見なしているという(米国が最大の圧力手段として活用を示唆してきた分野が半導体だ)。

中国の交渉カードは価値を失いつつある。彼らは半導体へのアクセス制限から、むしろ利益を得られると考えている。それは、中国が状況を分析した上で、本格的な貿易戦争に備えていることを意味する。

  もし中国がブルックス氏の言うように自国の弱さを認識しているなら、この主張はさらに説得力を増す。

  ここ数日の動き、つまり米国が脅しをかけ、やや後退し、中国がさらに輸出制限を強化して応じる展開は、この解釈を裏付けるように見える。

  いずれにせよ、長期化する貿易戦争に耐え得る資産、すなわち経済・安全保障の強化によって恩恵を受ける資産を探すことが賢明のようだ。

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません) 

原題:What Does China Want? It’s Too Soon to Tell: John Authers (抜粋)

— 取材協力 Richard Abbey

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