正しい立場を模索中。メディアの前に立つ急進民主党の新党首
Keystone / Gian Ehrenzeller
スイスの中央党(Die Mitte/Le Centre)と急進民主党(FDP/PLR)はともに、欧州連合(EU)との新条約に対する立場を模索している。どちらの政党にとっても、これは党勢に関わる重要な問題だ。しかし同時に、EUを巡る議論は両党にとって大きな可能性も秘めている。
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2025/10/15 08:30
Rigendinger Balz
連邦政治を担当。在外スイス人向けにスイスの政治を報道し、政治トーク番組『Let’s Talk』を担当。
90年代初頭に地方ジャーナリズムの世界に入り、多くのジャーナリズム分野で働き、管理職を務め、さまざまなトピックを取材。2017年にSWI swissinfo.chに入社。
筆者の記事について
ドイツ語編集部
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スイス連邦議会の任期が折り返し地点にさしかかるなか、6月にはEUとの新条約の草案が関係組織への意見聴取手続きに付された。つまり、欧州政策は決定的な瞬間を迎えたことになる。意見聴取手続きは10月末まで続き、すべての利益団体と政党が今、それぞれの立場を表明している。
対EU外交で以前から明確な立場をとってきた政党にとっては造作もないことだ。妥協の余地なく反対の立場を貫く右派保守の国民党(SVP/UDC)や、賛成の立場を鮮明にする緑の党(GPS/Les Verts)や自由緑の党(GPL/PVL)が該当する。
EU条約に反対する運動を展開する国民党。イグナツィオ・カシス外相のマスクをつけた参加者
Keystone / Alessandro Della Valle
社会民主党(SP/PS)にとっては特殊な状況だ。有力な各種労働組合は、初めのうちこそ新条約で賃金保護が保証されるかどうか懐疑的だったものの、今は賛成派に加わった。これにより、社会民主党も条約支持勢力となった。しかし党員の間では、賃金ダンピングの危険性に対する激しい警告の声が今もまだ響いている可能性がある。党内での意見調整が欠かせない。
急進民主党と中央党にとっては試練のとき
しかし、「第3次二国間協定」を巡って分裂している2つの政党、経済自由主義の急進民主党と(伝統的な価値観を志向する)価値保守主義的な中央党にとって、立場表明は本当に難しい。両党にとっては、新しいEU条約が間違いなく次の連邦議会選挙の争点になるという事実も、問題を複雑にしている。このテーマが有権者の票を左右することになるからだ。
同時に各党は立場を明確にしなければならず、曖昧な態度は通用しないということも明らかだ。「この問題はあまりに重要なので、答えを出さないわけにはいきません」と、ローザンヌ大学の政治学教授ショーン・ミュラー氏は言う。
在外スイス人にとってEU条約は特に重要
スイスとEUの関係がどう発展するかは、在外スイス人にとっても重要だ。EU加盟国で暮らす46万人以上の在外スイス人にとって、生活に直結する問題だと言える。二国間協定は人の移動の自由といった中心的な権利を保障し、社会保険へのアクセスを容易にし、学位の認定を保証する。
しかし、2027年の総選挙を見据えるなか、自党の中核的支持者がまさにこの重要な問題で分裂している政党はジレンマを抱えることになる。明確な立場をとれば、EU条約について異なる見解を示す支持者を失う可能性がある。できるだけ多くを曖昧にしておけば、より明確な立場を表明する他政党に支持者の一部が流れるリスクがある。
この2つの受け入れがたい解決策のあいだで板挟みとなった急進民主党と中央党は、現在突破口を探している。
急進民主党はEU問題にどう対処するのか
急進民主党は、これまで「条約を精査したうえで決断を下す」という方針をとってきた。このテーマに関する最新の立場表明文書外部リンクは、スイスとEUがまだ交渉中だった2022年のものだ。しかし昨年から、党内の作業部会がこの問題に取り組みはじめた。この作業部会は、新条約の反対派と賛成派それぞれ6人で構成されている。意図的にそうしたのだが、この点がまさに党内の分裂の深さを示すさらなる証拠とみなされた。
「私はまだ決めかねている」
そして今、進む道を決めるときが来た。10月、党は新しい執行部を選出する。8月には共同党首体制が始動した。党首のひとりである国民議会(下院)議員スザンヌ・ヴィンツェンツ・シュタウファッハー氏は、EUとの新条約の支持者とされる。もうひとりの全州議会(上院)議員ベンヤミン・ミューレマン氏は「私はまだ決めかねています」と言う。
この発言は、伝統ある急進民主党の現在の立ち位置を完璧に表している。賛成と反対のちょうど中間だ。政治学者のクロエ・ヤンス氏はこう助言する。「党基盤のためにも、両氏は今すぐに道を見つけ、どの方向に進むべきかを示さなければなりません」
党を最もよく知る大手紙NZZは、急進民主党が「理解される程度に明確でありながら、党をさらに分裂させない程度に曖昧な共通の立場」を探していると書いている。
試練をチャンスに
この優柔不断さは決して不適切ではない。急進民主党が代表するスイス経済界も、新しいEU条約に関して分裂しているからだ。輸出中心の分野は、円滑に機能する市場が経済にとって不可欠だと考える。金融業界やサービス業は、国家の主権や政策といった問題も考慮する。
両陣営とも、たとえば賛成派の経済連合「エコノミースイス」や、反対派のネットワーク「コンパス・ヨーロッパ」など、党の垣根をはるかに超えて響く強い声をもっている。
政治学教授ショーン・ミュラー氏の見解では、欧州問題は急進民主党にとって大きなチャンスでもある。「経済にとって本当に役立つ守護者」としてみずからをアピールできる機会だとミュラー氏は指摘する。この役割は党の性格に合っているし、現在の政治状況ではこの役割を占める可能性のあるほかの政党は現れていない。「それに加えて、社会的良心を示し、平等を支持し、安全保障問題でリードすれば、急進民主党には大きな可能性がある」とミュラー氏は言う。新執行部なら、この立場を説得力をもって代表できると同氏は信じている。
ドナルド・トランプ米大統領の関税攻撃が、急進民主党議員の決断を促す可能性がある。アメリカへの輸出品に39%の関税がかかったことで、対EU貿易の魅力が高まった。
急進民主党はこれまで、下がりつづける支持率に苦しんできた。2023年の連邦議会選挙では議席を2つ失った。それ以来、州レベルでも11議席をほかの政党に譲った。
中央党はEU条約にどう向き合う?
中央党は失うものが少ない。運と実力次第では、2027年には連邦内閣(政府)に2ポスト目を獲得できるかもしれない。もとは急進民主党のものだった議席だ。2023年の選挙で急進民主党の得票率は14.3%、中央党は14.1%だった。次回も接戦が予想される。
中央党には新条約に強く賛成する勢力があり、その筆頭は国民議会議員エリザベート・シュナイダー・シュナイター氏だ。同氏はバーゼル経済界の代表として、またエコノミースイスの理事会メンバーとしても発言している。その一方で、スイス農家組合のマルクス・リッター会長を中心とする強力なグループなど、中央党内の農業関係者や地方の支持層は新条約に懐疑的だ。
選挙戦モードに突入
任期後半に向けて、中央党も執行部を刷新した。党が選挙戦モードに移行したことを示す確実な兆候だ。
中央党の新党首フィリップ・マティアス・ブレギー氏は様子見の姿勢を示す
Keystone / Anthony Anex
欧州問題について、新党首のフィリップ・マティアス・ブレギー氏は就任演説で踏み込んだ発言を避けた。「わが国の経済の将来は、EUとの安定した関係にかかっています」とだけ述べ、条件をいくつか並べるにとどめた。「賃金、社会保険、制度問題について明確な説明を期待しています」。まずは国民のあいだで幅広い議論が必要だ、ということだ。
NZZのインタビューでは、ブレギー氏は少し具体的になり、党は国内政策における条約運用に関する議論をしたうえで方針を決定すると述べた。つまり、党執行部がスイスの有権者、あるいは少なくとも党基盤での情勢について手がかりを得てから、ということだろう。
EU条約問題こそ妥協に最適
ミュラー氏はまだ様子見の中央党についても、ほかでもないEU条約への対応で活躍を期待している。実際のところ、欧州問題は人々が考えているほどには二極化していないからだ。「EUとの関係をまったく望まない人も、EU加盟を望む人もいません」とミュラー氏は指摘する。まさにこの条約パッケージにこそ、白と黒のあいだに大きなグレーゾーンがあり、有権者のあいだでも、さまざまな色合いの回答が求められている。
「EUとの条約は大きな妥協の産物です」とミュラー氏は言う。「そして、政治の中道にある政党ほど、妥協する理由をうまく説明できるのではないでしょうか?」
編集:Samuel Jaberg / Marc Leutenegger、独語からの翻訳:長谷川圭、校正:ムートゥ朋子
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