ワインを造るために山梨県から富岡町へ 100年続く地域産業を生み出す挑戦【福島の移住で未来への道筋を作る】

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2024年の福島県内の移住者は、2700世帯3799人で過去最高となりました。福島第一原子力発電所の事故により、避難指示の対象となった福島12市町村へ移住し、新たな挑戦に取り組んだ人、夢を追った人の体験をシリーズ記事でお届けします。今回は、富岡町の細川順一郎さん(53)を紹介します。

「ぶどうは100年以上寿命がありますから、私が見届けられるのは3分の1くらいでしょうね」
静岡県出身の細川さんは2021年に山梨県から富岡町に移住。目的は富岡町にワインを根付かせる挑戦をするためだ。ワインの一大産地である山梨県甲州市のワイナリーで11年間務めた細川さんはワインのプロフェッショナル。そんな細川さんが富岡町を選んだ背景には、ある男性との出会いがあった。

2010年から山梨県のワイナリーで勤めていた細川さんは、土づくりから醸造まで幅広い業務に携わった。生活環境にも、仕事にも不満はなかったが、次第に「独立して挑戦したい」という思いが芽生えていった。当初は、山梨県のようなワインで知られた土地での独立を考えていたという。そんな時、友人から、「被災地になった福島県の故郷でワイナリーをやりたい」と語る人物を紹介された。その人物は富岡町で建設コンサルタント会社を営む遠藤秀文さんという男性だ。紹介から数か月後の2021年の夏、細川さんは会津地方をたまたま訪れる機会があり、富岡町にある遠藤さんの畑まで足を伸ばした。

初訪問は衝撃的だった。「海沿いの絶景が広がるぶどう畑の先に、正直言葉が出ませんでした。こんなところでワイン造りにチャレンジしようと思っている人がいるんだ、と驚きが隠せませんでした」ぶどうが潮風にさらされる海の近くという立地や、遠藤さんの本業は別であることなど、ぶどう栽培はかなり難しい挑戦に見えた。しかし、それ以上に遠藤さんに強い信念があることを感じた。

「富岡町は何も無くなった地域…だからこそ、多くの人が集まれる場所が今後絶対に必要なんだ」と、案内の途中で遠藤さんは胸の内を明かした。

「被災地になった故郷でワイナリーをやりたい」と語る遠藤秀文さん

東日本大震災と原発事故の影響で一度は全町民が町外に避難を強いられた富岡町。そんな故郷のために、未経験ながら奮闘する遠藤さんや仲間にとって、この挑戦は地域の未来を左右するものだった。遠藤さんの畑はこの時6年目。6年間、根を伸ばし続けるぶどうにとっては、まだまだ成長が始まったばかりの段階だ。今後、しっかりと育っていくのかは誰も分からなかった。ただ、細川さんはプロの目線から、富岡町の気候に希望も感じていた。8月中旬の訪問にも関わらず、この日の最高気温は29℃。元々、ぶどうは風通しが良く、昼夜の寒暖差が大きい土地での栽培に適している。猛暑の影響で昼夜問わず気温の高くなった山梨県よりも、富岡町の方が昼夜涼しく、ぶどう栽培に向いていた。

それでも、この挑戦が非常に困難であることに変わりはなかった。だが、何度か畑を訪問するうちに細川さんは富岡町のことが好きになっていったという。ここで出会う人々は自分たちの力で立って、地域の未来のために一丸となって活動をしていた。そんな人々に囲まれるうちに自分もその一員になりたいと強く願ったからだ。細川さんは10回の訪問の末に移住を決断。遠藤さんのそばで、遠藤さんの取り組みを全力でサポートする道を選んだ。

「今は富岡町の姿を表現できるワインを造ることを目指しています、そして町を賑やかにしたい」
地域の希望を背負ったワインづくりは今年で10年目、これからも細川さんは未来への道筋を築いていく。

福島12市町村の魅力を伝える現地体験型イベント「ふくしま12移住フェス」が10月25日福島県南相馬市で開催されます。移住はロックだ!をテーマに、スペシャルライブやステージトーク企画、移住者と交流できる体験ブースが用意されます。音楽とともに新たな人生の可能性を探求するこのイベントで、地域の魅力を直接感じてみてはいかがでしょうか。

「ふくしま12移住フェス」
開催日時:2025年10月25日(土)
開催場所:福島県南相馬市北泉海浜総合公園
(騎馬武者ロックフェス2025会場内)

Chu!PRESS編集部

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