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画像説明, 性的マイノリティーの誇りを示すレインボーフラッグと、トランスジェンダーを象徴する青・ピンク・白の3色の旗をまとった人々
2025年4月17日
ベン・ライト政治担当編集委員、ブライアン・ウィーラー政治記者
イギリスでは近年、この質問が政治的な対立や党の分裂、議会での激論を引き起こしてきた。
ジェンダー、トランスジェンダー権利、そして女性の性別に基づく権利をめぐる、複雑で感情的になりやすい議論によって、ウェストミンスターの政治家たちは、一見単純な質問に答えるのに苦労してきた。
この判決は、さまざまな言葉のねじれを生み出してきたこの政治論争を鎮めるかもしれない。
言葉のねじれは特に、キア・スターマー首相から発せられてきた。
昨年6月にBBCの選挙討論番組「クエスチョン・タイム」に出演した際、当時、野党の党首だったサー・キア・スターマーは、トニー・ブレア元首相の「生物学的には、女性は膣を持ち、男性は陰茎を持つ」というコメントに同意すると述べた。
しかし、「ハリー・ポッター」シリーズの作者で、かつて労働党に寄付していたJ・K・ローリング氏は、スターマー氏率いる現在の労働党が、女性たちの懸念を「軽視し、しばしば攻撃的な」アプローチを取っていると批判した。
トランスジェンダーの人々が法律上の性別を診断書なしで、自己申告で変更できるようにすべきかという問題は、長い間、労働党にとって厄介なものとなっている。
2019年のマニフェストでは、労働党はこの自己申告制の導入を約束していた。
スターマー氏は2021年9月、同党のロージー・ダフィールド議員の「子宮頸(けい)部を持つのは女性だけだ」という発言を批判した。
スターマー氏はBBCの「アンドリュー・マー・ショー」で、「そんなことは言うべきではない。それは正しくない」と述べた。
ダフィールド議員はその後、労働党を離れ、現在は無所属として活動している。
2022年3月のLBCのインタビューでも、スターマー氏はこの問題について繰り返し質問され、「もちろん、ほとんどの女性は陰茎を持っていない」と述べた。また、出生時の性別と自認する性別が一致しない人々が尊重されるべきだと付け加えた。
労働党内でこの問題をめぐる分断が深まるなか、スターマー氏はこの1年後、サンデー・タイムズに対し、「99.9%の女性にとって、それは完全に生物学的なものであり、もちろん、彼女たちは陰茎を持っていない」と述べた。
その後、2023年夏までに労働党は立場は変え、人々が医療診断なしに法律上の性別を変更できる自己申告システムの導入を取りやめた。
スターマー氏はこの時、BBCのラジオ番組で、「まず、女性とは女の成人だ。これを明確にしよう」と述べた。
一方、あるインタビューでは、この質問に完全に疲れ果てた様子で、「ほとんど誰もトランス問題について話していない」と述べ、なぜこれが激しい議論の焦点になったのか疑問を呈した。
しかし彼が好むと好まざるとにかかわらず、この問題が焦点となったのは事実だ。
保守党は繰り返しスターマー氏の立場を嘲笑し、政治的な分岐線を明確に引こうとした。
2023年の保守党大会で当時のリシ・スーナク首相は、「男性は男性、女性は女性、それが常識だ」と述べた。
しかし、スターマー氏に対するからかいは物議を醸した。
2024年2月の議会でスーナク氏は、スターマー氏が女性の定義について立場を変えたことを冗談交じりに嘲笑した。
しかしこの日は、10代の若者2人に殺害されたトランスジェンダー女性、ブリアナ・ゲイさんの母親が議会に出席しており、スーナク氏は謝罪を求められた。
昨年の総選挙の時点で、スーナク氏は有権者に対し、単一性別の空間の保護について「非常に明確な選択」を迫った。また、平等法を改正して、性別という保護された特性が生物学的性別を意味することを明確にすると約束した。
保守党は今回の最高裁の判断を歓迎している。ケミ・ベイドノック党首はこの判決を、「明白なことを述べたために個人的な虐待を受けたり、仕事を失ったりしたすべての女性にとっての勝利」だと表現した。
同氏は以前、「極端なジェンダーイデオロギー」や「トランスイデオロギー」と呼ばれるものを批判し、ジェンダー中立のトイレの設置にも反対していた。
そして今回、ベイドノック氏はソーシャルメディアで「キア・スターマーが『一部の女性はペニスを持っている』と言っていた時代は終わった。ハレルヤ!」と宣言した。
労働党の関係者らは、スターマー氏が党を「活動家の立場」から「常識的な立場」に導いたと指摘。これが「2019年の惨事」の後に、有権者が同党を支持できると感じた「理由の一つ」だと述べた。

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画像説明, 2023年の労働党大会の会場前に集まった、トランスジェンダーの権利活動家たち
この問題で窮地に陥ったのは労働党だけではない。
特にスコットランドの与党・スコットランド国民党(SNP)にとっては厄介な問題だ。ニコラ・スタージョン前党首はトランスジェンダーの権利拡大を支持し、党内の一部からは喝采を浴びたものの、他からは大反対された。
同党の現党首で、この問題を避けようとしてきたスコットランド自治政府のジョン・スウィニー第一大臣(首相に相当)は、最高裁が解釈したとおりに法律を順守するという難題に直面することになる。
昨年の総選挙で第3党だった野党・自由民主党も問題を抱えている。
公式には、同党はトランスの権利を支持している。強力で影響力のあるLGBTQ+(性的少数者)部門を持ち、前回選挙ではノンバイナリー(性自認が男性だけでも、女性だけでもない人)の法的認識を求めてキャンペーンを行った。
党首のサー・エド・デイヴィーは2023年5月、LBCの番組で「大多数の人々は生物学的性別と同じ性別を持つが、少数の人々はそうではない」と述べた。
司会者のニック・フェラーリ氏に「つまり、女性がペニスを持つこともあり得るのか」と尋ねられると、デイヴィー党首は「まあ、明らかにそうだ」と答えた。
さらに、トランスジェンダーの人々の権利は平等法によって十分に保護されており、「単一性別の空間が存在することを許している」と示唆した。
この発言は、当時のスーナク保守党党首に嘲笑された。また、自由民主党党内のジェンダーに批判的な人々からも受け入れられなかった。
権利団体「リベラル・ヴォイス・フォー・ウィメン(LVW)」は、デイヴィー党首が自由民主党を「不誠実で信頼できず、現実から乖離(かいり)しているように見せた」と述べた。

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画像説明, LGBTコミュニティーは、野党・自由民主党で大きな勢力となっている
野党「リフォームUK」は、いわゆる「トランスジェンダーの洗脳」に反対し、平等法の廃止を目指している。
2024年の総選挙「契約」では、「性別は二つ、ジェンダーも二つ」と明記している。
同党はさらに、「それ以外を示唆することで、子供たちを混乱させるのは危険な保護問題だ。(中略)ジェンダーの疑問、社会的な移行、代名詞の変更は行わず、16歳未満の子供たちの人生の決定について親に知らせるべきだ。また、学校は単一性別の施設を持たなければならない」と述べている。
イングランドおよびウェールズの緑の党は、書類の上では明確に、このスペクトラムの反対側に位置している。
同党の権利と責任の憲章には「トランス男性は男性、トランス女性は女性であり、ノンバイナリーというアイデンティティーは存在し、有効である」と記載されている。また、トランスジェンダーの人々が法的地位を変更しやすくするための活動を行っている。
しかし、党内ではこの問題に関して大きな分裂がある。
昨年には、ジェンダー問題に批判的なシャーラー・アリ元副党首を党報道官から罷免した際に、党がアリ氏に対して差別を行ったと認定され、裁判所から約10万ポンドの支払いを命じられた。
今回の最高裁の判決は、「女性とは何か?」という質問に答えるのに苦労してきた労働党政府や他の政治家たちへの圧力を、即座に取り除いた。
しかし、議論の両側で感情が高まっているため、この問題が消えることはなさそうだ。
追加取材:サム・フランシス、ジェームズ・クック

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