(CNN) 米テキサス州トラビス郡オースティンのヨーグルト専門店で1991年12月、何者かが10代の少女4人を銃で殺害する事件が発生した。解決を命じられた担当刑事は粘り強い捜査の末、このほど犯人の男を特定したと発表した。容疑者はすでに死亡したが、他州でも殺人などの犯罪を繰り返していたとされる。
オースティン警察の刑事、ダン・ジャクソンさんは2022年、未解決殺人事件捜査班の責任者に着任。初日に上司のオフィスへ呼び出された。ドアを閉ざし緊迫した雰囲気のなかで、30年以上前の殺人事件を解決するよう命じられた。
事件は地域社会に精神的ダメージを与え、その衝撃は州全体に広がっていた。
ジャクソンさんはCNNとの独占インタビューで、「事件の重大さは分かっていた。生涯の仕事になるだろうとも覚悟した」と語った。
その後の粘り強い捜査は、8月に米HBOのドキュメンタリー「ヨーグルト・ショップ・マーダーズ(殺人)」でも紹介された。
上司の命令から3年が過ぎて、事件はついに解決した。ただしジャクソンさんによれば、未解決の部分も一部残っている。
先月29日の発表によると、米国内の各地で殺人、性的暴行を繰り返していたとされるロバート・ユージーン・ブラシャーズ容疑者が特定された。ジャクソンさんはCNNに、この人物だと「100%確信している」と述べた。
同事件をめぐっては99年に10代の少年4人の関与が疑われ、このうち2人が犯行を自白。本人らはその後自白を撤回したものの、死刑に相当する殺人で有罪を言い渡され、2009年にDNA鑑定で無罪が証明されるまで収監されていた。
トラビス郡の地方検事は29日の記者会見で、「1人の男の有罪と4人の無罪を示す圧倒的な証拠」があるとしたうえで、オースティン警察の捜査はまだ続いていると述べた。
ジャクソンさんは「オースティンはあの時に無垢(むく)を失ったと言われ、私たちはこれまで長年、多くの疑問を抱き続けてきた」「真実が分かってようやく、地域社会の傷は癒え始めるかもしれない」と話す。
刑事は事件をよく知っていた
1991年に発生したヨーグルト店殺害事件で犠牲になった4人の少女を掲載した広告/Courtesy of HBO
ジャクソンさんはオースティンから南へ約50キロの町で育ち、少年時代からこの事件のことを知っていた。
被害者4人のうち、一番年下だった13歳のエイミー・エアーズさんは、当時の自分より8~9カ月ほど年上だった。「事件当時のことはよく覚えている。事件とともに育った記憶がある」と、ジャクソンさんは話す。
91年のクリスマスを数週間後に控えた事件当夜、ヨーグルト店で働く17歳のイライザ・トーマスさんとジェニファー・ハービソンさんは閉店の準備をしていた。そこへジェニファーさんの妹で15歳のサラさんと、サラさんの友人で13歳のエイミーさんが合流した。
その時、正体不明の男が店に侵入し、それぞれの被害者を本人の衣服で縛って、全員の頭を銃で撃った。4人のうち3人は性的暴行を受けた形跡があったが、店が放火されたため、物的証拠はほぼすべて焼失した。
当時、DNAを使った科学捜査はまだ初期段階にあり、捜査当局の手がかりはほとんどなかった。
2008年になって、この事件の性的暴行証拠キットから正体不明の男の「Y染色体STR(短鎖反復配列)」が検出された。Y染色体は男性のみが持つ性染色体で、STRのパターンは個人によって異なり、100%ではないが容疑者の識別に有用とされる。ただし当時は技術が未熟だったため、答えは得られなかった。
技術が進んだ18年にこのY染色体STRを再び調べたところ、より精度の高い結果が得られたが、容疑者の特定には至っていなかった。
ジャクソンさんは事件を担当するようになった翌年、職務中に負傷した。23年8月6日の夜、自発的に手伝ったパトロールの最中、武装した容疑者に右腕と顔の一部を銃撃された。
手術を受け、リハビリを経て、軽作業に復帰した。さっそく同事件の捜査を再開したが、必要な聞き込みや手がかりの追跡は膨大な量に及び、同僚らを送り込んで対応せざるを得なかった。
「大当たりだ」
犠牲になった4人を悼む銘板/CNN
ジャクソンさんは今年の6月末、ヨーグルト店の床排水口から見つかった38口径弾の使用済み薬きょうを調べ直そうと思い立った。現場で回収された唯一の物的証拠だ。
被害者らは22口径の銃弾で撃たれたが、エイミーさんだけは38口径弾でも撃たれていた。
ジャクソンさんは38口径弾の薬きょうを、アルコール・たばこ・火器爆発物取締局(ATF)が運用する全米規模の発射痕データベース、国内統合弾道照合ネットワーク(NIBIN)に提出した。
同じ7月2日、数時間のうちにATFから連絡があった。
ジャクソンさんは、家族で出かけた先の「ビーチに座っている時だった」という。「手元に飲み物はあるか」と聞かれ、「持っている」と答えると、電話の相手は「それならいい。必要になるからね」と前置きしてから、「大当たりだ」と告げた。
「本当に信じられなかった」と、ジャクソンさんは振り返る。
薬きょうの表面に刻まれた発射痕は、1998年にケンタッキー州で起きた未解決殺人事件の凶器と一致していた。
ケンタッキー州当局からは今のところ、その事件の捜査が進展したとの発表はないが、ジャクソンさんによれば、ヨーグルト店の事件と細部が似通っていた。
「両事件が関連していると確信したが、犯人の名前にはまだたどり着かなかった」と、ジャクソンさんは話す。
8月には、Y染色体STRの照合依頼を全米の捜査機関に拡大した。すると同22日にサウスカロライナ州の研究所から、完全に一致する試料があるとの連絡が入った。
90年に同州グリーンビルで起きた性的暴行、殺人事件で採取された試料で、この事件はすでに解決していた。
ジャクソンさんは実感がわかないまま、まずインターネットで容疑者の身元を調べてみた。
「事件の日付とサウスカロライナ州グリーンビルの地名を入れて検索したら、ロバート・ブラシャーズという連続殺人犯の名前が出てきた」という。
その後、サウスカロライナ州の刑事との電話で、双方の事件にひとつの共通点があったことを知って驚いた。
「相手の刑事から『ちょっと聞かせてくれ。犯人は被害者を本人の服で縛りつけていたか』と質問されて、鳥肌が立った」と、ジャクソンさんは言う。
ただこの時点で、ブラシャーズ容疑者は40歳だった99年に、警官との対立で死亡していたことが判明した。
捜査当局者らによるDNA鑑定と弾道鑑定の結果、同容疑者は90年代にテネシー、ミズーリ、サウスカロライナ各州で銃撃、性的暴行、殺人などの犯罪を繰り返したことが分かっている。当局によれば、90年のサウスカロライナ州の事件では女性1人、98年のミズーリ州の事件では母親と12歳の娘が殺害された。
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