フィンランドのケルウ社(Kelluu)がNATO向けに開発した無人飛行船(9月16日、NATOのサイトより)

 世界の耳目を集めた8月15日の米アラスカ州アンカレッジでの米国とロシアの首脳会談は、ウクライナ戦争の停戦に向けた合意には至らずに終了した。

 会談は6~7時間に及ぶとの見通しもあったが、実際には2時間45分程度で終わった。

 予定されていた2回目の会談は見送られ、また記者会見は記者からの質問を受けつけずに、12分あまりで打ち切られた。

 記者会見でロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、首脳会談が「建設的」なものであったと述べ、米国のドナルド・トランプ大統領は「一定の前進」をしたと述べた。

 しかし、会談の具体的な内容については全く言及されなかった。次回会談の有無を含め、次の展開は現時点で全く不透明である。一度は高まったウクライナ停戦の機運も急速に萎んでしまった。

 他方、9月にロシアの無人機や戦闘機による北大西洋条約機構(NATO)加盟国への領空侵犯が相次ぎ、NATOとロシアとの軍事的緊張が高まっている。

 今、バルト3国の人々は、プーチン氏はウクライナにとどまらずバルト3国まで勢力を伸ばすだろうと思っている。

 事実、9月19日、ロシアの戦闘機「ミグ31」3機が、12分間にわたってバルト海上空のエストニアの領空を侵犯した。

 欧州連合(EU)とNATOは「危険な挑発行為」を非難したものの、ロシア側はこれを否定している。

 カリフォルニア大学グローバル紛争・協力研究所でロシアの軍事戦略を専門とするスペンサー・ウォーレン博士は次のように述べている。

「ロシアが攻撃を拡大し、ウクライナに武器を供給しているポーランドなどの西側諸国の武器庫を標的にした場合、あるいはロシアの空爆によって(意図的か否かは別として)欧米の首脳が死亡した場合、あるいはロシアの操縦士が誤ってNATO軍機に発砲したり、ナビゲーションシステムの不具合でNATO領内を誤爆したりした場合、現在のウクライナ侵攻は瞬く間に米国や他のNATO加盟国を巻き込んだ地域紛争に発展する可能性がある」

(出典:Forbes JAPAN「ロシアは『5年以内』にNATOを攻撃、第三次世界大戦を見据え軍事増強する欧州」2025年8月4日)

 9月12日、NATOのマルク・ルッテ事務総長は、ロシアのドローンのポーランド領空侵入を受け、欧州東部の防衛強化に向けた取り組みを開始したと発表した。

 この「東方哨戒(Eastern Sentry)作戦」は近日中に開始され、デンマーク、フランス、英国、ドイツなどの部隊が参加する予定である。

 NATO欧州連合軍のアレクサス・グリンケウィッチ最高司令官は「東方哨戒作戦」について、「柔軟かつ機敏」であり、能力強化、空中・地上防衛の統合、NATO加盟国間の情報共有強化が含まれると述べた。

 また、EUは10月1日、ロシアのドローンが欧州各国に相次いで侵入する事態に対応するため、防御警戒網「ドローンの壁(Drone Wall)」を構築するなど、対策を強化すると発表した。

 上記の措置は、これまで想定されていなかった新しい脅威であるドローン対処のための防空態勢の強化である。

 NATOは、2014年のロシアによる一方的なクリミア併合と2022年のロシアによるウクライナ侵略によってもたらされたロシアの軍事的脅威の増大に対応して、その抑止・防衛態勢の向上をはかるために多くの改革を推進してきた。

 本稿では、その中から、前方展開の強化、即応態勢の整備および防衛計画の整備について述べてみたい。

 初めに、2022年以降のNATOの抑止・防衛態勢の進展について述べる。次に、多国籍戦闘グループ(multinational battlegroups)の概要について述べる。

 次に、NATO兵力統合ユニット(NATO Force Integration Units)の概要について述べ、最後に連合対応軍(Allied Reaction Force)の概要について述べる。

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