アングル:前途多難なウクライナのEU加盟、ハンガリー反対も障壁

 10月6日、ウクライナを訪れた複数の欧州連合(EU)高官は、ウクライナがハンガリーの反対を克服しながらEU加盟を達成する上でなおやるべきことは多い、という厳しいメッセージを発している。写真は6月、ブリュッセルで会談するウクライナのゼレンスキー大統領(右)とハンガリーのオルバン首相(2025年 ロイター/Yves Herman)

[キーウ 6日 ロイター] – ウクライナを訪れた複数の欧州連合(EU)高官は、ウクライナがハンガリーの反対を克服しながらEU加盟を達成する上でなおやるべきことは多い、という厳しいメッセージを発している。

ウクライナがEU加盟を果たすには27カ国全ての支持が必要だが、ウクライナ国内のハンガリー系住民の権利を含む幾つかの懸念事項を理由に挙げて、加盟手続きを次の段階へ進めるのを阻止しているのがハンガリーだ。

こうしたハンガリーの態度に他のEU諸国は不満を募らせ、EU欧州委員会のコス委員(拡大担当)は先週、ウクライナ西部に住むハンガリー系少数民族と面会し、緊張緩和を図るハイレベルの懐柔措置を講じた。

<ウクライナが信じる将来の希望>

旧ソ連から独立して30年余りを経たウクライナの多くの国民は、EU加盟は国の将来を明るくしてくれる希望の要素だと考えている。2014年の「マイダン革命」では、大規模な市民デモを通じて親ロシア派大統領を失脚させた。さらにロシアによるウクライナ侵攻で、親西側国民の間ではEU加盟が一段と魅力を帯びてきた。

ただ、ゼレンスキー政権が今年7月に汚職取り締まり機関の権限抑制に乗り出したことで、多くの欧州諸国は警戒感を持ち、ウクライナがEUと同一の法令を導入するために必要な改革を巡る課題が浮き彫りになった。

コス氏はウクライナ訪問中にロイターのインタビューで、EUは「法の支配を100%守らない国を新規加盟国として決して受け入れることはできない」と明言。農業から環境までさまざまな分野の改革という点で、ウクライナにとっては困難な作業になるとの見通しを示した。

EU当局者の見立てでは、ウクライナが改革姿勢を堅持し、法の支配を完全に順守するなら、ハンガリーのオルバン首相の加盟反対を退け、手続きを前進させる方法が見つかると示唆している。

12月までEU議長国を務めるデンマークのフレデリクセン首相は2日、ウクライナとEUは加盟準備を後押しする改革で協力関係を続けられると発言。ハンガリーただ1国がEU全体の将来を決めることは認めないと強調した。

<法の支配の尊重>

ウクライナでは先週、複数のEU高官が加盟の前提条件として法の支配の尊重が大事だと訴えた。

これは7月22日、ウクライナ政府が国家汚職対策局と特別汚職対策検察の独立性を狭める法案を成立させたことへの反応という面がある。法案成立を受け、戦時下では異例の規模で抗議デモが発生。政府は軌道修正を迫られたが、コス氏は「7月22日のような事態が二度と起きてはならない」とくぎを刺し、こうした規制はEU加盟国の信頼を失わせると警告。改善策はまだ十分でないと付け加えた。

もっとも、EU側はウクライナが最終的にはEUの法令基準を採用すると信じている。コス氏は「心配しているのは、どのような形でどれぐらい長い期間がかかるかだ」と述べた。

ウクライナのカチカ欧州統合担当副首相はロイター宛ての声明で、ウクライナは国際的な約束に従って改革実行を続けていくと決意を示した。

<2030年より前に加盟可能か>

欧州委のフォンデアライエン委員長は2月、ウクライナが今のスピードと内容で改革を進めていけば、2030年より前にEU加盟を果たせると予想した。

しかし、こうした時間軸を疑問視する向きもある。EU外交官の1人は、戦時という状況を踏まえれば、ウクライナの改革は目覚ましい進展を見せていると評価しつつも、EU加盟手続きは骨が折れるし、道のりは長いと指摘する。

短期的にはハンガリーの反対姿勢が主なハードルだ。オルバン氏は2023年、EU指導者らがウクライナとの加盟交渉開始を決めた際には拒否権を行使しなかったものの、現在は加盟交渉が「クラスター(政策分野ごとの枠組み)」に移行するのを阻止している。

<現実的な選択肢>

複数のEU当局者は、ウクライナがハンガリーの反対を擦り抜けながらクラスターに入る案を打ち出した。とはいえ、ルール変更にも全27カ国の支持が必要である以上、正式なクラスター入りをせず、ウクライナと技術的な作業を続けていくのがより現実的な選択肢になるという。

デンマークのフレデリクセン首相は、加盟国が互いに相手を説得できないのであれば、欧州委とウクライナが果たすべき仕事を全て進めていくしかないと思うと語る。

ウクライナのカチカ副首相も「実践的」なアプローチを通じて、可能になり次第加盟交渉が次の段階へ移行するために改革を継続する方針を明らかにした。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

WACOCA: People, Life, Style.