ウクライナでは今、爆弾の破片で目や耳、あごなどを負傷した兵士たちに対して、無償でその再建を支援するプログラム『Doctor’s for Heroes(英雄のための医師たち)』が少しずつ広がっている(写真は筆者撮影、以下も)
戦争の続くウクライナでは、日増しに死傷者が増えている。ロシア軍の侵攻が始まってから3年が経った2025年2月時点で、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍の死者を約4万5100人、負傷者約39万人と公表している。戦死者を弔うとともに、負傷者のケアも重要だ。ウクライナでは各国の支援を受けながら、義足や義手のサポート、PTSD対策などにも力を入れてきた。ほかにも、爆弾の破片で負傷して目がつぶれてしまった兵士や顎が吹き飛んでしまった兵士、耳がなくなってしまった兵士などがいる。キーウの病院では、そのような兵士達へ無償で施術をするプログラム『Doctor’s for Heroes(英雄のための医師たち)』が行われている。今回はその様子に密着した。
(小峯 弘四郎:カメラマン )
兵士たちの骨格や目、耳を修復
『Doctor’s for Heroes』とは、主に顔を負傷してしまった兵士の骨格や目、耳などを修復するプロジェクトだ。3Dプリンターや手作業で精巧なパーツを作成し、施術を行って、外見的なケアをする。形成外科や整形外科、パーツを作成する技師、アーティストなどが参加し、これまで1000人以上の兵士に施術してきた。
顎顔面の外科手術は、国から資金援助を受けておらず、医師たちと一緒に寄付金で運営されているという。このプロジェクトはまだ新しい段階で、あまり知られていない。そこで海外向けに顎顔面外科と義肢装具のプロジェクトを支援するためのイベントも開催されているという。
慈善団体『Doctor’s for Heroes』のディレクターのリュティコワ・ナタリア氏は、次のように話してくれた。
ディレクターのナタリア氏はクリミア出身。「2014年から私たちの戦いは続いている」という。「勝利が訪れた時、大きな家族と一緒に故郷に帰れることを信じています」
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「我々の団体は、ロシアの攻撃によって顔に負傷した軍人、および民間人を経済的に支援するために設立されました。ウクライナでは、革新的な骨修復技術が採用されていますが、残念ながら、現時点では国家は負傷者を財政的に支援する能力を有していません。そこで、私たちは、骨や目のインプラントの費用を賄うための資金調達に取り組んでいます」
「私たちは、負傷から完全な回復まで、各患者のケースをフォローアップしています。これは数カ月から数年かかるもので、現在、私たちの患者の90%は軍人です。手術中に病院で付き添うだけでなく、リハビリの機会も探しています。例えば、視力を失った患者には、新しい環境で自立できるよう、適応のための支援を行っています」
今回は、『Doctor’s for Heroes』の支援で義眼を付けた兵士の様子を取材した。
手作業で丁寧にパーツを作っていく
整形外科医・歯科医のドミトリー・アレクサンドロヴィチ氏は、個別に眼球を作成している。素材はパラフィンワックス(石油由来の天然ワックス)で、義眼の場合は、7年間使用することができるという。その後は再度、作成をして交換することになる。
義眼は、患者一人ひとりの顔の形状に合うように手作業で削っていく。眼球部分の型取りから整形、色付けまで、すべての工程が手作業で行われる。
整形外科医・歯科医のドミトリー・アレクサンドロヴィチ氏
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義眼は手作業で削っていく
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患者に合わせて義眼を削り、調整をし終わった状態。この後、実際に目にはめ込んで、さらに細かく調整をしていく
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